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赤き覇王 ~底辺人生の俺だけど、覇王になって女も国も手に入れてやる~  作者: 書く猫
第11章.深まる乱世に負けない力を蓄える
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第94話.両面を持つ指導者か

 俺はしばらく『ダレルの村』で過ごすことにした。別に急な仕事もないし、寒波の中を無理して進む必要はない。暖かくなってから移動しても遅くない。

 ダレルの村の村長は、俺に謝礼金を渡そうとした。だが俺の方から断った。そんなお金があれば村の再建に使った方がいいだろう。

 組織員たちは村長の家に、俺はエミルの小屋に泊まった。エミルの小屋には家具も何もなく、ただ本の山があるだけだが……その風景が俺に鼠の爺の小屋を思い出させたのだ。

 本の山から1冊取り、暖炉に前に座ってひたすら読む。そして読み終わると次の本を探す。それを寒波が去るまで繰り返した。この小屋の持ち主である痩せた男……つまりエミルも俺の隣でまったく同じことを繰り返していた。

 俺とエミルは何の会話もしないまま、何冊も何冊も読み続けた。ページをめくる音、暖炉の火が燃える音だけが流れた。


「……何も聞かないんですか?」


 ふとエミルが口を開いた。俺は本から目を外した。


「ん? 何を?」

「私の素性とか、聞かないんですか?」

「聞かれたいのか?」

「いいえ」


 エミルが首を横に振る。


「聞かれたくないんですが、一般的に人を雇う時は聞くべきではありませんか?」

「へっ」


 俺は笑った。


「最初の出会いで、お前がどういうやつなのか大体分かった。だから詳しい過去まで聞く必要はないと思っただけだ」

「……そうですか?」

「ああ、お前は……要するに人間嫌いだな?」


 エミルは口を噤む。


「お前は他人と関わることが嫌いで……相手の気持ちを配慮することや、自分の印象をよくすることには興味がない。ただ冷たい事実を述べればそれでいいと思っている。違うか?」

「……否定できませんね」


 エミルの顔に微かな笑みが浮かんだ。


「確かに私は人間嫌いです。他人を配慮することなど面倒くさくてたまらない。そういう人間を……雇ってもいいんですか?」

「もちろんさ」


 俺は頷いた。


「そもそも俺に必要なのは貴族社会での外交や政治ができる人間……つまりある程度の知識と血筋を持っている人間だ。お前はその条件を満たしている。そして……」


 エミルの顔を凝視しながら、俺は話を続けた。


「俺が何かを見落としたり、判断を誤ったりした時……お前なら臆せず俺に直言できるだろう。そういうやつも必要だ」


 俺の部下たちは、みんな忠誠が高い。俺の言葉なら疑わずに信頼してくれる。その信頼こそが俺の軍隊の力ではあるが……それだけでは足りない。


「……なるほど、分かりました」


 エミルが頷いた。


「じゃ、もう1つだけ教えてくださいませんか」

「何だ」

「あなたの目標は何ですか?」

「へっ」


 俺は笑ってからその質問に答えた。


「俺の目標は……この王国をぶち壊して、新しい王国を建てることだ」

「なるほど」


 エミルがもう一度頷いた。俺はエミルの表情を注意深く見つめた。


「……驚かないのか?」

「むしろ安心しました」

「安心?」

「はい。もしあなたの目標が『貴族になること』とか『大領主になること』とかだったら失望したはずです」


 エミルの声が少し明るくなる。


「その程度の小さな目標なら、今のあなたの力だけでも簡単でしょう。私が勉強してきたものを試してみる必要もない」

「なるほどね」


 やっぱりこいつは……人間と関わるより、自分の理論を証明したい部類だ。

 エミルは少し満足したような顔で話を続ける。


「じゃ、まず最初に提案したいことがあります」

「何だ」

「あなたとあなたの部下たちは、暖かくなったらこの村を出るつもりなんでしょう?」

「ああ、そうだけど」

「ここから出る前に、村の再建を手伝うことを提案します」

「村の再建を?」


 エミルは真面目な顔で「はい」と答えた。


「盗賊たちの襲撃よって、この村は大きな被害を受けました。特に負傷者が多いです。あなたが統治している『南の都市』から医者たちを呼んで、この村の負傷者たちを治療するように指示してください。そうすれば比較的少ない費用で、この村の世論を完全に味方につけることができるでしょう」

「ふむ……」

「貴族や大領主くらいになりたいなら、そこまでする必要はありません。しかし王国を手に入れたいなら……世論を味方にしなければならないんです」

「分かった。いい考えだ」


 俺は頷いた。


「しかしエミル……お前、他人を配慮することは面倒くさいと言わなかったか?」

「それはあくまでも私個人の感情です。あなたは『容赦なく敵を叩き潰す化け物の姿』と、『忠臣や民には慈悲深い支配者の姿』の両方を持ち合わせなければなりません」

「そうだな」


 確かにエミルの言う通りだ。『味方には慈悲深く、敵には無慈悲』……それこそ俺が進むべき道なんだろう。

 俺は少し得した気分になった。偶然入った小屋から、俺の道に貢献できる人材を見つけたのだ。しかも最初に思ったよりも使えそうなやつだ。


「よし、お前は今日から俺の参謀だ」

「はい」

「何か必要なものはあるか?」

「本をたくさん保管できる大きな家が欲しいです」

「へっ……分かった」


 会話はそれで終わり、俺とエミルは読書を再開した。

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