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赤き覇王 ~底辺人生の俺だけど、覇王になって女も国も手に入れてやる~  作者: 書く猫
第11章.深まる乱世に負けない力を蓄える
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第93話.予想外の収穫だな

 『ダレルの村』は結構広くて、建物も多かった。『南の都市』から近いし、行商人たちや旅行客などを相手に商売する村なんだろう。本来は結構賑やかな村で、治安のために警備隊も配置されていたはずだ。

 だが、その警備隊は村のあちこちに死体となって倒れていた。盗賊たちの数に圧倒されて敗死してしまったのだ。

 痕跡から推測すると、盗賊たちの数は約50くらいだ。盗賊にしては結構多い。国王不在の混乱に乗じて勢力を伸ばしたんだろう。しかもこの寒波では……討伐軍も動きにくい。

 やつらは『この村を占領及び略奪し、寒波が去ったら討伐軍が来る前に逃げ出す』と思っているはずだ。まあ、確かに悪くない判断ではある。しかしやつらにとって不運なことに……俺と俺の組織員たちは寒波にも屈せずここまで来た。

 俺たちはたった7人だし、盗賊たちは50人くらいだ。でもこの戦いにとって、狩る側はあくまでもこっちだ。たとえ盗賊たちの数が2倍になってもその事実には変わりがない。


「レイモン」

「はい」

「あの大きい家から制圧する」

「はい」


 村の中央には大きい家があった。たぶん村長の家だろう。俺たちは隠密に移動して、その家を包囲した。

 中から人々の気配がする。窓を通じてこっそり覗くと、武器を持っている大男たちが見えた。しかもその男たちは……縄に縛られている女性たちを囲んでいた。たぶん村の若い女性たちをここに集めておいたんだろう。

 盗賊たちは外への警戒など完全に忘れていた。こんな天気だから無理もないが、それが運の尽きだ。


「突入」


 短い命令を出すと同時に、俺は家の扉を蹴っ飛ばし……女性たちを囲んでいるやつらに向かって真っ先に突撃した。


「うっ……!?」


 さっきまで笑っていた盗賊たちの顔が、驚愕の表情に変わる。俺にとっては実に気持ちいい瞬間だ。


「ぬおおおお!」


 やつらが何か反応する前に、俺の拳がやつらの頭を直撃する。血が飛び上がり、拳からやつらの頭が砕ける感触がする。


「ひいいいいっ!?」


 瞬く間に4人が倒れると、他の盗賊たちはまるで悪魔でも見たような恐怖に陥る。まあ、やつらにとって俺は悪魔だけど。


「はあっ!」


 6人の組織が俺に続いて盗賊たちを襲い掛かり、見事に倒した。こういう格闘戦で彼らに対抗できるのは、この王国の中では精鋭の騎士たちくらいだろう。ましてや盗賊など……ひとたまりもない。

 やがて十数人の盗賊たちが全員倒れた。俺たちは女性たちの縄を解いてやった。


「あ、あなたたちは……?」

「村長の要請で救援にきた」

「ありがとうございます……!」


 女性たちは涙を流した。


「村長はどこだ?」

「そ、村長と村の男たちは別のところに連れ去られました」

「詳しい場所は知らないんだな?」

「はい……」


 やっぱり細かく回るしかないか。


「ジョージ、リック。お前たちはここで彼女たちを保護しろ」

「はい!」

「残りは2手に分かれる。レイモン、カールトン、エイブは西の方から制圧しろ。ゲッリトは俺と一緒に東から制圧する。盗賊たちは殺しても構わないが、村人の被害が出ないように」


 組織員たちが口を揃えて「はっ!」と答えた。

 俺はゲッリトと2人で行動して、東から建物を次々と制圧し続けた。まず内部を偵察して、盗賊たちを奇襲で倒し、捕らえられた人々を解放する……それの繰り返しだ。

 盗賊たちは完全に分散されていた。いくら数が多くてもそれでは各個撃破されるだけだ。まあ、俺たちの登場をまったく予想していなかったから仕方ないけど。


「ボス、あそこに」


 3度目の襲撃を終えて外に出た時、ゲッリトが前方を指さした。そこには……小屋があった。他の家から結構離れていて、少し寂しい感じの小屋だ。


「誰かいるかも知れないな」


 俺は頷いて、ゲッリトと一緒に小屋に近づいた。すると中から人の気配がした。窓の隙間から覗くと、2人の盗賊が見えた。盗賊たちは暖炉で何かを燃やしていた。


「たった2人だけですね。俺に任せてください」


 ゲッリトが小さい声で言った。


「おい、失恋の鬱憤をこんなところで晴らすな」

「そ、そんなんではありません」


 ゲッリトが慌てた。俺は苦笑して彼に任せた。


「はああああっ!」


 ゲッリトは小屋の中に突入して、容赦のない拳と蹴りで盗賊たちを倒した。


「鬱憤晴らしているじゃないか……」


 俺はもう一度苦笑した。ゲッリトの攻撃には明らかに感情がこもっていた。


「ゲッリト、そこまでにしろ」


 そう言いながら小屋に一歩入った時だった。俺は少し驚いてしまった。小屋の中は……家具も何もなく、ただ本でいっぱいだったのだ。盗賊たちが暖炉で燃やしていたのも、全部本だった。


「ここは何ですかね……」


 ゲッリトも驚いたようだった。ここはまるで……鼠の爺の小屋みたいだ。


「ボス、ここに地下室があります」


 俺とゲッリトは狭い通路を通じて地下室に降りた。すると本の山が見えた。地下室も本でいっぱいだったのだ。そして……1人の男が縄に縛られていた。この小屋の持ち主なんだろう。


「ゲッリト、その人を解放してやれ」

「はい」


 ゲッリトが縄を解いて男を解放してやった。男は無言で席から立ち上がり、俺たちを見つめた。俺も男を注意深く見つめた。

 痩せた若い男だ。肌が綺麗で、まるで偉い貴族みたいだが……目付きがやたらに鋭い。それに無表情すぎる。盗賊たちに対する恐怖も、解放に対する感謝の気持ちも感じられない。


「おい、大丈夫か?」


 ゲッリトの質問にも、痩せた男は何の答えもしなく……足を運んで俺の横を通りすぎて、地下室から出る。


「お、おい!」


 ゲッリトが慌てて痩せた男を追った。俺は思わず苦笑して、地下室を出た。


「聞いているのか!?」


 ゲッリトが痩せた男に向かって叫んだ。すると痩せた男がやっと口を開く。


「聞いていますよ。少し静かにしてください」

「何?」


 ゲッリトを無視して、痩せた男は暖炉に近づいた。そして火かき棒を取って、まだ燃えている本を暖炉の中から引き出す。


「ちっ」


 痩せた男が舌打ちした。俺たちや倒れている盗賊たちは眼中にもないようだ。


「おい、感謝の一言もないのかよ!?」


 ゲッリトが痩せた男に近づいて声を上げた。痩せた男は火かき棒を手放し、無表情でゲッリトを見つめる。


「盗賊同士の戦いに、何故私が感謝しなければならないんですか?」

「……何だと!?」


 ゲッリトが痩せた男の胸倉を掴んだ。


「てめえ、俺たちが盗賊ってのか!?」

「はい」


 痩せた男が無表情で答えると、ゲッリトは拳を握りしめた。


「止めろ、ゲッリト」

「ボ、ボス……」

「お前が殴ったらそいつは死んでしまう。だから止めろ」

「……はい」


 ゲッリトは悔しい顔で痩せた男の胸倉を手放した。

 痩せた男は俺の方を見つめた。俺も彼の顔を見つめながら質問した。


「お前、俺たちのことを知っているか?」

「はい、知っています」


 痩せた男が頷く。


「南の都市を統治している『赤い化け物』と、その部下でしょう?」

「知っているのに盗賊と呼ぶのか?」

「もちろんです。盗賊ですから」


 痩せた男の答えに、ゲッリトの顔が怒りで真っ赤になるが、俺の前だから我慢する。


「何故俺たちのことを盗賊と呼ぶんだ?」

「説明しなければならないんですか?」

「ああ、説明してもらう」


 痩せた男は軽くため息をついてから口を開く。


「官吏でも貴族でもないのに、兵士を養成して都市を武力で占拠している。この王国ではそういう人間を盗賊と呼ぶんですよ」

「なるほど」


 俺は苦笑した。


「この王国の秩序が回復されたら、あなたたちは討伐される運命です。この2人のようにですね」


 痩せた男は倒れている盗賊たちを見下ろしてそう言った。

 ゲッリトが痩せた男に一歩近づき、口を開く。


「ボスは都市の人々から尊敬されている。それなのに盗賊だと!?」

「尊敬されているかどうかなんて、関係ありませんよ」


 痩せた男は微かに笑う。


「盗賊と呼ばれたくないなら、王族の誰かに賄賂でも渡して小さな役職でももらえばいいんです。そんな簡単な外交もしないから盗賊なんですよ」

「へっ」


 俺は笑った。こいつは……ちょっと価値があるかもしれない。


「お前の言うこともあながち間違いではない。しかし残念にも、俺たちの中にはそういう外交ができる人間がいないんだ」

「そうですか」

「だから……お前がやってみないか?」

「……はい?」


 痩せた男が眉をひそめる。俺は彼に近づいた。


「お前……没落貴族だろう?」


 痩せた男は答えなかった。


「何らかの理由で没落した後、生活力もないから残った財産を処分してどうにか生きているんだろう? そして最後に残ったのがこの本の山だ。違うか?」

「……見た目の割には鋭いですね」


 痩せた男は視線を逸らした。


「このまま腐っていくより、俺の下で働いた方がいいはずだ」

「それは……」

「今まで勉強してきたものを試したくないか? 自分の知識がこの世に通用するかどうか……確認してみたくないか?」

「……確かにそういう気持ちはあります」


 痩せた男が俺を見上げる。


「しかし……私はあなたに忠誠を誓うつもりはありません」

「お前に忠誠など期待しない。お前に期待するのは、口先だけではない本当の知識だ」

「……なるほど」


 痩せた男が頷く。


「いいでしょう。『赤い化け物』の下で働くのも……面白そうですから」

「へっ」

「私は……エミルです。エミル・レナード」

「俺はレッドだ」


 俺は痩せた男……『エミル』と握手した。軽い気持ちで始めた盗賊狩りから……面白いやつを見つけた。

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