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赤き覇王 ~底辺人生の俺だけど、覇王になって女も国も手に入れてやる~  作者: 書く猫
第11章.深まる乱世に負けない力を蓄える
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第92話.久しぶりの狩りだ

 2月になり、気温が急激に下がった。寒波が来たのだ。

 強い寒波、そして大雪のせいで……通行人の数が急激に減り、南の都市も珍しく静かになった。どこを見ても真っ白い雪だけだ。まあ、港の労働者たちはこんな天気にも働いているけど。

 俺は軍隊の訓練日程を全面中止した。要塞建築もしばらく中断だ。暖かくなるまでは仕方ない。おかげで時間が余りそうだ。


「トム、今日は早く家に帰って家族と過ごせ」

「はい、ありがとうございます」


 格闘場の事務室でトムと別れて、俺は久しぶりに『レッドの組織』の本拠地に向かった。今日は6人の組織員たちと時間を過ごすつもりだ。


「ボ、ボス!」

「リック、元気にしていたか?」

「もちろんです!」


 本拠地に入って6人の組織員たちと一緒に食事をした。味はまあまあだが、相変わらず量だけは十分な食事だ。

 食事後、俺たちは暖炉の前に座って体を温めた。


「本当に寒いですね」


 レイモンが暖炉の火を見つめながらそう言った。流石の強者たちもこの寒波はきついようだ。

 俺は6人の組織員たちの顔を眺めた。幸いみんな元気に見える。しかしたった1人……ゲッリトだけ顔が暗い。


「ゲッリト」

「は、はい」

「何かあったのか?」

「それは……」


 俺の質問にゲッリトは視線を落とす。


「ボス、実はですね……」


 傍からジョージが笑顔で口を開く。


「ゲッリトのやつ、他の女性に話しかけているところを彼女に見られて」

「まさか……」

「はい、壮大にフラれたようです」


 ゲッリトを除いて、組織員たちが一斉に笑った。


「それは……仕方ないな」


 俺も苦笑するしかなかった。ゲッリトは完全に落ち込んだ。


「まあ、ゲッリトもつらいだろうし……この話はここまでにしよう」


 俺がそう言うと、みんな笑いを止めて話題を変えた。

 それからしばらく他愛のない話が続いた。港で凄く大きい船を見たとか、外国からの旅人と話したとか、最近読んだ本が面白かったとか……そんな普通の話だ。

 6人の組織員たちは格闘場でも戦場でも悪魔のように強いが、こうしているとみんな普通の青年たちだ。俺も彼らのおかげで気楽に会話を楽しんだ。

 ふと本拠地の扉をノックする音がした。もう遅い時間なのに、誰かが訪ねてきたのだ。一番近くにいたカールトンが扉を開くと……冷たい風と共に小柄の少年の姿が見えた。


「トム?」


 それは俺の副官、トムだった。トムの顔は寒さで真っ赤になっていた。


「総大将」

「どうしたんだ? 家に帰ったんじゃなかったのか?」

「それが……」


 トムは慌てる様子で、懐から1通の手紙を持ち出す。


「東からきた行商人たちがこういうものを渡してくれました。早く総大将に見せなきゃ駄目だと思いまして……」

「ふむ」


 俺は手紙を読んでみた。それは『ダレル』という村の村長からの手紙で、『どうか援軍を頼みます』という簡単な内容だった。


「援軍?」

「行商人たちの話によると……どうやらダレルの村が盗賊たちに襲われているようです」

「盗賊か……」


 俺は頷いた。

 どの時代でも盗賊たちは存在する。だが今は……国王不在の混乱が続いていて、盗賊たちも更に勢いが増したはずだ。しかもこんな寒波の中では、盗賊たちを討伐するために軍隊を動かすこともままならない。


「事情は分かったが、その地方の領主はどうしているんだ? 確か……パウル男爵だったけ?」

「パウル男爵からは何の動きもないみたいです」

「なるほどね」


 自分たちの領主から見捨てられて、次善策として俺に援軍を要請したのか。

 普通に考えると、この要請は断るべきだ。今軍隊を動かしたら……戦う前に寒波によって死傷者が出る。パウル男爵もそれを知っているからダレルの村を見捨てたのだ。

 だが……俺にはこの寒波にも負けない親衛隊がいる。


「みんな、盗賊狩りに行こう」


 俺は6人の組織員たちを振り向いてそう言った。すると全員口を揃えて「はい!」と答えた。彼らはもう普通の青年ではなく、獲物を前にした猛獣になっていた。


---


 南の都市から『ダレルの村』に行くためには、一般的に5日はかかる。

 だが流石にそれでは遅すぎる。だから俺は船を雇うことにした。海路でダレルの村の近くの海岸まで行き、そこから馬に乗って移動する……結構無謀な日程ではあるが、そうしないと間に合わない。

 俺たちは防寒装備と武器を持ち、馬を連れて大きな貿易船に乗った。そして冬の海を丸1日走り……狭い海岸に上陸した。巨漢のジョージが少し船酔いをしたが、それ以外は順調だ。

 ここから東南に進めば『ダレルの村』だ。だが寒波と大雪の中を丸2日くらい移動しなければならない。結構過酷な進軍だが……俺の組織員たちは誰も弱音を出さなかった。


「ボス、あれを……」


 3日目の午後、レイモンが前方を指さしながらそう言った。雪が降っていて視界が悪いけど……村が見え始めたのだ。

 村の規模は結構大きかった。平和な時期には賑やかな村だったに違いない。しかし今は村の周辺に戦闘の痕跡がある。まだ抵抗を続けているか、またはもう占領されたんだろう。

 俺たちは森に馬を隠して、隠密に移動した。村の現状が分からない以上、むやみに近づくのは得策ではない。

 少し離れたところから偵察すると、村の内部は不思議なほどに静かだった。つい昨日まで戦闘をしていたような痕跡があるのに……今は誰の姿も見当たらない。


「……どうやらもう占領されたようだな」


 一歩遅かったか。まあ、でも今なら生き残った村人を助けることもできるだろう。そう判断した俺は組織員たちを率いて村に突入した。

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