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赤き覇王 ~底辺人生の俺だけど、覇王になって女も国も手に入れてやる~  作者: 書く猫
第11章.深まる乱世に負けない力を蓄える
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第90話.この人は……?

 俺と爺は一緒に南の都市の大通りを歩いた。

 結構寒いのに大勢の人々が行き来していた。俺が通ると、何人かが挨拶してきた。


「へっ」


 爺が笑い出す。


「お前……本当に英雄になったようだな」

「まあな」


 俺も苦笑した。


「で、どうだ? 英雄になった感想は?」

「別にどうでもないさ」


 俺は肩をすくめた。


「そもそもこの都市を守りたかったわけでもないさ。他に人がいなかったから守っただけだ」

「そうかい」


 爺の目が一瞬鋭くなったが、それ以上は何も言わなかった。

 やがて俺たちは小さな宿の前で足を止めた。


「レッド、ここで待っていろ」

「ああ」


 しばらく宿の外で待っていると、爺が1人の女性と一緒に出てきた。


「こちらはヘレンだ」


 爺は俺に女性を紹介した。


「初めまして、ヘレンと申します」

「俺はレッドだ」


 挨拶を交わしてから、俺はヘレンという名の女性を注意深く見つめた。

 ヘレンは薄い金髪が特徴的な長身の女性だ。とても優しい笑顔をしていて、寒い冬にも負けない暖かい雰囲気が漂う。歳は20代半ばかな?

 しかし1つだけ気になる点がある。それはヘレンの眼差しだ。彼女は……何かいろんな感情が混ざった複雑な眼差しで俺を見つめている。一体何なんだ?


「ヘレンは優秀な医者だ」


 爺が口を開いた。


「そして薬学や化学に関しては王国一の専門家でもある」

「過分なお言葉です」


 ヘレンが笑った。俺はやっと爺の意図を読み取った。


「なるほど……つまり今日からヘレンさんがアイリンの師匠になるわけか」

「その通り」


 爺が頷いた。

 アイリンは薬学を勉強している。もともと聡明な子だし、頑張っているからもう簡単な薬は作れるようになった。でも流石に独学では限界があって……爺が優秀な薬学の専門家を連れてきたわけだ。


「じゃ、早速アイリンに会いに行こう」


 俺がそう言うと、爺とヘレンが頷いた。

 一緒に歩きながら……俺はヘレンを観察した。優しい雰囲気の美人ではあるが……やっぱりちょっと違和感がある。まるでずっと以前から俺のことを知っていたような感じだ。

 3人でロベルトの屋敷に入り、応接間に行ってアイリンとシェラに会った。


「あうあう!」


 アイリンが明るい笑顔を見せた。爺が戻ってきて嬉しいようだ。

 爺がヘレンのことをアイリンに紹介し、ヘレンは早速アイリンと話し始めた。俺はシェラと一緒に少し離れたところでヘレンを見つめた。


「レッド、あの人は……?」

「今日からアイリンの薬学の先生だ」

「あ……なるほどね」


 シェラが頷く。


「何か女性的な雰囲気の美人さんだね」

「ああ、お前とは真逆だな」

「何ですって!?」


 シェラの顔が俺並に真っ赤になった。危機を感じた俺は素直に謝ったが、5分くらい責められた。


「……本当にすまない」

「いいよ、もう」


 やっとシェラが落ち着いた頃、ヘレンとアイリンはもう親しくなって薬学の授業をしていた。


「……レッド」

「ん?」

「私も負けられない! 格闘の授業しよう!」

「いやいや……」


 俺は苦笑した。


「外はかなり寒いし、もう時間も遅い。あんまり無理するな」

「ちっ」


 悔しがるシェラを放っておいて、俺はヘレンを見つめた。彼女は普通にいい先生に見えた。アイリンも楽しい笑顔で勉強をしていた。


---


 その日以来……ヘレンはロベルトの屋敷に住みながら、アイリンを教えることになった。鼠の爺はヘレンを残してまたどこかに旅立ってしまった。

 そして数日後、シェラが風邪を引いて倒れたという話が俺の耳に届いた。たぶん格闘の鍛錬で無理したんだろう。俺は頃合いを見てロベルトの屋敷に訪ねた。

 シェラの部屋まで行き、扉をノックすると「入ってください」という声が聞こえてきた。俺は扉を開いてシェラの部屋に入った。


「レッド!?」


 ベッドに寝ていたシェラが上半身を起こす。俺の訪問に驚いたようだ。


「で、これがお前の部屋か」


 俺は部屋の内部を見回した。流石お金持ちの娘の部屋らしく、上品で綺麗な部屋だった。しかも所々に可愛い人形などが置かれている。


「勝手に見ないでよ!」


 シェラが慌てて声を上げたが、俺を止めることはできない。俺はシェラの部屋を隅々まで観察した。


「意外と可愛い部屋じゃないか」

「うっ……」


 シェラは布団で自分の顔を隠す。俺は苦笑してから彼女の傍に座り、手に持っていた紙箱を渡した。


「ほら」

「何よ、それ」


 布団から目だけ出して、シェラは紙箱を受け取る。


「チョコレートだ。好きだろう?」

「あ、ありがとう」


 それからしばらくシェラと話し合った。案の定、シェラは無理な鍛錬で倒れたが……ヘレンが作ってくれた薬のおかげですぐ回復したらしい。


「家に有能な医者がいてくれて幸いだと、父さんも喜んでた」

「なるほど」


 まあ、爺が『薬学と化学に関しては王国一の専門家』だと断言したくらいだから……有能なのは間違いないだろう。


「お前から見て、ヘレンさんはどういう人だ?」


 俺の質問にシェラは顎に手を当てる。


「そうね……優しいお姉さんみたいな人だよ。医学以外にもいろんなことを知っているし、話していると楽しい」

「ふむ」


 まだ若いのにかなりの知識を持っているのか。どこで学んだんだろう?


「ね、レッド」

「ん?」

「もしかして……ヘレンさんみたいな人が好みなの?」


 予想外の質問を聞いて、俺は声を上げて笑った。


「笑ってないでちゃんと答えて!」

「いやいやいや……」


 俺は笑いながら首を横に振った。


「そんなんじゃない。俺はただ彼女の素性が知りたいだけだ」

「ヘレンさんの素性?」


 シェラが目を丸くする。


「ヘレンさんはレッドの師匠が連れてきた人なんでしょう?」

「ああ」


 俺は頷いた。


「信頼できる人ってのは確かだ。ただ、彼女がどこからそういう知識を手に入れたのか知りたくてな」

「なるほどね」


 シェラは安心した顔になる。


「本人に直接聞いてみたら?」

「確かにそれが一番早いだろうな」


 まあ……隙を見て本人に聞いてみるか。

 10分くらい後、俺はお見舞いを終えてシェラの部屋を出た。廊下にはメイドたちが掃除をしていた。彼女たちの横を通って出口に進んでいる途中、俺は応接間に向かっているヘレンの姿を見つけた。


「ヘレンさん」


 俺が呼び止めると、ヘレンがこっちを振り向く。


「レッドさん、お久しぶりです」


 彼女は優しい笑顔を見せた。俺はちょうどいい機会だと思った。

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