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赤き覇王 ~底辺人生の俺だけど、覇王になって女も国も手に入れてやる~  作者: 書く猫
第2章.焦らずに、少しずつ俺のものにする
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第9話.この不思議な気持ちは何だろう

 俺はアイリンに文字を教えてやった。言葉は喋れないけど、文字を勉強すれば自分の意志を表現できるはずだ。


「あうあう」


「そう、それが『アイリン』……お前の名前だ」


「あう」


 アイリンが木の枝で地面に自分の名前を書いた。やっぱりこの子は頭がいい。少し勉強しただけなのにもう自分の名前が書けるなんて。


「ふむ」


 昼寝をしていた鼠の爺が小屋を出て、文字を書いているアイリンを見つめた。


「レッドよりマシだな」


「認める」


 俺は頷いた。アイリンの聡明さには感心した。


「それはそうとして……レッド」


「ん?」


「今から南の都市へ行く。ついてこい」


 南の都市へ?


「ちょっと待て、アイリンは?」


「もちろん置いていく」


「いや、アイリンを一人にしておくわけにはいかないだろう」


 爺の顔が歪む。


「まったく……分かった。しかしお前が面倒を見ろ」


「ああ」


 俺はアイリンに近づいた。


「アイリン」


「あう」


「今から一緒に南の都市へ行く。俺から絶対離れるな」


「あう!」


 アイリンは『分かりました!』という顔で頷いた。俺は自分の肌を隠すためにフードを被った。そして爺と俺、アイリンは一緒に歩き始めた。アイリンには小屋に住んでから初めての遠出だ。


「しかし……南の都市か」


 南の都市は『都市』だけに町とは比べものにならないほど大きい。港のおかげで商業が発達していて、毎日数えきれないほどの商品が取引される。まさに活気に溢れる商業都市と言えるだろう。


 だが……その活気に溢れる都市の裏では、商業の利益を餌に多数の犯罪組織が競い合っている。おかげで身元不明の遺体が発見されることも少なくないが、もちろん警備隊のやつらも腐敗しているから犯人が捕まることは滅多にない。


 アイリンをそんなところに連れて行くのは危険だ。でもだからといって一人にしておくわけにもいかない。


「爺、南の都市には何の用件があるんだ?」


「お金だよ」


「お金?」


「ああ、作戦のためのお金はいくらあっても足りないからな」


 爺は杖で俺の肩を軽く叩いた。


「今までは私一人で稼いできたけど、今日からお前にも働いてもらうぞ」


「分かった」


 鼠の爺が一体どうやってお金を稼いでいるのか……最初から疑問だった。今日その疑問が解けるのか。


 南へと進めば進むほど道が広くなっていった。そして時々荷馬車や行商人たちとすれ違った。南の都市で取引をしている人々だ。


「あう……」


 やがて南の都市についた時、アイリンが小さい声で呟きながら俺の手を掴んだ。その気持ちも理解できる。アイリンにとってこんなにたくさんの人々が行き来している風景は初めてのはずだ。


 都市の入り口から小さな店がずっと並んでいて、大勢の人間が商品を運んだり客を引くために叫んだりしている。もう都市全体が一つの巨大な市場のようだ。無秩序だけど活気に溢れていて、自然に人が集まってくる。


「ここで余計なことするな、レッド」


「分かっている」


 無能な警備隊は気にする必要もないけど、この都市の裏にある犯罪組織らと張り合うのは流石にまずい。殺人より夕食の献立を決めることが面倒くさいと思っている連中だ。


「アイリン、俺の手をしっかり掴んでいろ」


「あう!」


 俺とアイリンは互いの手を強く握った。こんなところでアイリンが迷子になったら大変だ。


「こっちだ」


 鼠の爺が人込みの中へ足を運んだ。俺とアイリンは注意しながら爺を追った。そして30分くらい歩いた時、目の前の風景が青色に染まった。


「あう……!」


 アイリンがちょっと大きい声を出した。港の向こうに広がる果てしない海……その圧倒的な光景に驚いたんだろう。俺も始めて海を見た時、まったく同じ反応だった。


「ここらへんで待っていろ」


「ああ」


 爺は一人で港の隅へ行ってしまった。


「アイリン、あの『海』をもっと近くで見たくないか?」


「あう!」


 アイリンが頷いた。俺たちは足を運んで海に近づいた。


「あうあう!」


 海の風と匂いを感じながらアイリンが笑った。俺とは全然違う……純粋な子供の笑顔だ。


「……この海の向こうにはな、別の大陸の国々があるらしい。こことは食べ物から服まで何もかも違うそうだ」


「あうあう!」


「そうだな。俺も行ってみたい」


 俺の目的はこの王国の滅亡だ。そんな俺に、アイリンを連れて海の向こうの国々を旅する日は……たぶん来ないだろう。でも……。


「あう!」


 でも不思議な気持ちだ。アイリンの無垢な笑顔を見ていると……俺の胸に溜まっていた怒りが少しずつ削られていくような……そんな不思議な気持ちがする。これは一体何なんだろう。


「レッド」


 鼠の爺が戻ってきた。俺ははっと気がついて身を引き締めた。


「これ、お前が持っていろ」


 爺が俺に何かを投げ渡した。それは……硬貨がたくさん入っている皮袋だった。


「爺、このお金、どうやって稼いできたんだ?」


「ものを売って稼いだのさ」


「でも爺は何も持っていなかったじゃないか」


「ふ、お前も本当にまだまだだな。私が売ったものは……この中にある」


 爺は自分の頭を指さした。


「知識を売ったのか?」


「もっと正確に言うと『情報』だ。私は情報を売ってお金を稼ぐ」


 なるほど、つまり爺は『情報屋』をやっているのか。


「私はいろんなところに友達がいてな。友達の間の情報の交流を手伝うだけでも多大な価値を生むんだよ。少しでも頭が回るやつなら情報の大事さを理解しているからな」


 爺は簡単そうに言っているけど、情報を売ってこんな大金を稼ぐためには相当な知略と行動力を持ち合わせなければならないだろう。つまり爺くらいの人物じゃないと難しい。


「で、俺の仕事は何だ? 俺も情報を売るのか?」


「お前には体を売ってもらう」


 体……?


「『夜の仕事』さ。楽しみにしていろ」


「おい、爺。まさか……」


「詳しい説明は後だ。まあ、夜になるまで時間もあるし……それまでゆっくりとするか」


 ここに来るまで数時間も歩いたんだから、アイリンも疲れているはずだ。爺の言葉が気になるけど……今はそんなことよりこの子を休ませてやりたい。俺はアイリンと一緒に爺を追って港から離れた。

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