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続々 名探偵シャルロット=フォームスン物語  作者: 光太朗
story1 目指せ! ハッピーウェディング
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story1 目指せ! ハッピーウェディング 5


 名探偵がひらめいてから、店を回ること五件目。

 予想以上にあっさりと、グレます隊のアジトは見つかった。探偵の体力が少なく、加えて早々に諦めるため、五件目を回ったのは宣言通り二日目のことだったが。

 え、その方法で探すの、とエリスンは呆れ果てたが、実際に突き止めてしまったことにもっと呆れた。世の中色々間違っている。

「さあ、ついたぞ、エリスン君」

 一度探偵社に戻り、準備をして再出発。

 二人は、とあるアパートの前まで来ていた。

 対策も万全だ。

「どうするの。本当にこの……作戦でいくの?」

 作戦と形容できるほどのものでもないような気がして、エリスンが一瞬言葉に詰まる。本当ならそれはやめようといいたかったのだが、興味が勝ってしまったのだ。

 隣の上司を見上げた。

 紺色の長いスカート、胸元に赤いスカーフ。ロングヘアのかつら、エリスンの手で施されたゴージャスメイク。

 本当は、美女といっても良いぐらいに美しく完成していた。やり出したら凝り性のエリスンが、全身全霊でメイクをしてしまったのだ。しかし、完成した姿にちょっとむっとした。頭がアレなのになぜ見た目がコレなのだ、とふと殺意がよぎった。

 結果として、できうる限りの濃いメイクにしあげ、直視できないほどの姿になりはてていた。頬には赤い染料で丸が描かれ、ルージュは唇の枠を越えてまるで口裂け女のようになっている。ごめんなさい、と思わないでもない。

「はっはっは、完璧な作戦だろう。とにかくキャサリンさんと接触しないことには話が始まらないからね。門前払いされるわけにはいかない」

「充分門前払いされそうだけど」

 ため息をこぼすエリスンももちろん、グレます隊のコスチュームを着込んでいた。あたりまえだが、シャルロットよりも着こなしている。

「では、いこうか」

 右手を挙げ、シャルロットがノックする。十数秒の間を挟み、カチャリと鍵を開ける音がした。扉が開かれる。

「妖怪っ?」

 顔を出した少女が悲鳴をあげた。キャサリンではなかったが、その姿が見知った服装であったことに、シャルロットは内心で大満足する。妖怪と呼ばれたことなどスルーした。

「アタシたち、グレます隊に入りたいんだぜ!」

 自信たっぷりに、シャルロットは棒読みで台詞をぶちかました。少女が眉をひそめる。

 フォローなどしたくなかったが、一応エリスンが身を乗り出す。

「町であなたがたを見かけて、ぜひあたしたちも、って思ったんです。お邪魔してもよろしいですか?」

「……ちょっと待ってな」

 怪訝そうな顔でそう吐き捨てると、少女は奥に引っ込んだ。ほどなくして、戻ってくる。

「姉御の許可が出た。入りな」

「うれしいんだぜ! はっはっは!」

「おじゃまします」

 もうなにもしゃべるな、と思いつつ、エリスンが先導する。

 部屋のなかは、外観から想像するよりも広いようだった。グレます隊のメンバー全員が一緒に暮らしているのだろう、とシャルロットにいわれたときには、そんなまさかと思ったが、実際、部屋には十人ほどの女性がいた。家具の類はほとんどなく、緑色の絨毯の上には、壁に寄せられた小さなテーブルと、簡素なソファが複数あるだけだ。

 部屋の中央では、サイドポニーテールのミランダが仁王立ちで待ちかまえてきた。エリスンとシャルロットの姿を見て、鼻を鳴らす。

「わざわざ服まで揃えたのかい。気合い入ってるね。『紅蓮の炎のように燃えさかる想いが伝わるその日まで、この愛を胸に日陰で生きていきます隊』、通称グレます隊は、アンタらのようなさまよえるオトメをいつでも歓迎するよ」

 ミランダは、二日前カフェで会ったときよりも、よほど優しい顔をしていた。目を細め、エリスンに右手を差し出す。

「アンタは、くだらない男にでもひっかかったのかい? いや、話したくなったら話してもらえればいい。詮索はしないさ」

「ええ、ありがとう」

 エリスンも手を差し出す。どうやら、気づかれていないようだ。握手を交わした。

 それからミランダは、シャルロットを見上げた。右手を差し出して、首を左右に振る。

「あんたは……いや、わかるよ、なにもいうな。神様って、不公平だよな」

「いやまったくだ」

 空気も読まず、シャルロットは大肯定しつつ握手する。なにか悲劇的な思いこみをされたらしいが、シャルロットはもちろん気づかないし、エリスンもつっこんでやる義理はなかった。

「すまないが、場所が狭くてね。アンタたちは、家を出てきたのかい?」

「ええ、まあ」

 曖昧に返しながら、エリスンは室内を観察した。十人ほどの、同じ格好の女性たち。ソファや椅子に座って、本を読んだりぼんやりしたりしている。奥の扉の手前には新聞が敷かれ、丁寧に揃えられた靴が三足並んでいた。こんなところで靴を脱ぐということは、奥はベッドルーム──この規模で集団生活ということになれば、もしかしたら床に毛布が敷き詰められているのかもしれない──ということなのだろう。ということは、全部で十三人程度。ミランダの口調からすると、自宅からここに通ってくるものもいるようだ。

 視界に入る範囲に、キャサリンの姿はなかった。

「あの、メンバーはこれで全員ですか? これからお世話になるので、ご挨拶をと思うのですが」

 しゃべればボロが出そうなシャルロットではなく、率先してエリスンが問う。ミランダは顎で奥を指した。

「まだ、向こうに三人だな。今日は来てないやつらもいる。──おい、新入りだ! こっちに来な!」

 ほどなくして、扉が開く。やはり同じ衣服に身を包んだ女性が、一人、二人と靴を履いて出てくる。

 最後に出てきた人物に、エリスンは心の中で勝利のポーズをとった。

 キャサリンだ。

 キャサリンは、すぐにこちらに気づいた。驚いたように口を開ける。しかし、探偵サイドの方が素早かった。

「エリスン君、確保!」

「任せて!」

 低く通る声で、シャルロットが告げる。打ち合わせのとおり、エリスンは俊敏に動いた。素早くキャサリンの背後に回り込み、隠し持っていたロープであっという間にキャサリンの両手を縛り付ける。いつもなら抵抗もするのだろうが、驚きも手伝って、キャサリンはされるがままだ。他の面々も、なにごとかと動けずにいる。

「ごめんなさい、キャサリンさん。でも、逃げないでください」

「エリスンさん……」

 キャサリンの瞳が潤む。彼女は困惑しているようだった。とはいえ、その普段のピンクワンピースから想像できない姿にエリスンも充分困惑していたので、お互い様だ。

「なんのマネだ、アンタら……!」

 怒気を隠そうともせず、ミランダが二人を睨みつける。こんな格好をしていても、やはり皆育ちの良い令嬢であるというのは本当なようで、だれも動かなかった。一様に緊迫した表情で、様子をうかがっている。

 シャルロットはいつもの高笑いを一つして、悠然とかつらを取り去った。エリスンから預かっていた布で、ごしごしと顔を拭う。完全にとはいかないものの、メイクの大部分が落ち、本来の顔が露出した。

「そんな怖い顔をしないでくれたまえ、サイポー君。せっかくの美しい顔が台無しだ。女性には笑顔が似合う」

「あ、アンタ……! あのときの!」

 ミランダはやっと思い当たったようだった。慌ててエリスンを見て、唇を噛む。子女たちは、男、男だわ、と怯えるように身を縮こまらせていた。っていうか男ってわからなかったの、ほんとに? とエリスンが胸中でつっこむ。

「なんでここが」

 悔しそうに歯がみしながら、ミランダが問う。よくぞ聞いてくれた、とでもいうかのように、シャルロットは眉を上げた。

「この名探偵シャルロット=フォームスンにわからないことなどない。なあに、簡単な推理さ! サイポー君、グレます隊の正式名称はなんだったかな?」

「サイポーじゃなくてミランダだ。アンタ喧嘩売ってんのか。……さっきもいっただろう、正式には、『紅蓮の炎のように燃えさかる想いが伝わるその日まで、この愛を胸に日陰で生きていきます隊』……──はっ、まさか!」

 ミランダが目を見開く。シャルロットは勝ち誇った笑みを浮かべ、びしりとミランダに指を突きつけた。

「そのまさかだとも! 君はすでに、アジトの場所をこの名探偵に教えていたのだ! 日陰で生きるというその宣言! 不動産屋で日当たりの悪い不人気物件を探したら、すぐに見つかったというわけさ! はーっはっはっは!」

「や、やられた……!」

 ガクリと肩を落とし、ミランダが膝をつく。

「さすが……名探偵……!」

 なにやら感動するメンバーを尻目に、もーはやく終わらないかなーとエリスンは遠い目をした。







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