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続々 名探偵シャルロット=フォームスン物語  作者: 光太朗
story1 目指せ! ハッピーウェディング
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story1 目指せ! ハッピーウェディング 4



 放っておいてください──ほとんど泣きそうな声を出して、キャサリンは走り去ってしまった。ジョニーが心配していると、ただその旨を伝えただけで、彼女はひどくつらそうな顔をした。

 シャルロットとエリスンには、それ以上手の出しようがなかった。残ったグレます隊メンバーが、キャサリンを守るかのように立ちふさがってしまったのだ。どこへ行ったのかもわからない。

「……困ったわ。ジョニーさんになんていったらいいかしら」

「ふむ、ロンドド内にいるということはわかったが、それだけだ。考えてみれば、そもそも彼女がどこに住んでいるのかも私たちは知らないわけだが……おそらく、どこか別のところで寝泊まりしているのだろうしな」

「そうね」

 収穫ほとんどなし、という状態で、探偵とその助手は、肩を落として探偵社に帰り着いた。正確には、肩を落としているのは助手だけで、名探偵の方は相変わらず根拠のない自信に満ちているが。

 引き続き調査をします、なあにじきに解決しますよ、ご安心を! ──と、まったく安心できない台詞をにこやかに吐いて、いやあ動きづらいとこぼしながら刑事二人も姿を消した。彼らに任せる気にはどうしてもなれない。頼りないにもほどがある(主に見た目)。

「あら、ジョニーさんだわ」

 階段を登り、玄関まで来て、やっとそこに丸い生物がいることに気づいた。

「なにやら疲労困憊だな」

 運動不足の探偵も、大通りまで行って帰って階段登って、の日常運動で充分に疲労していたが、ジョニーのそれは彼以上だった。細かな傷のようなものもあり、毛(?)並みも全体的に下がっていて元気がない。

「ジョニーさん、どこに行ってらしたんです? とりあえず、中へどうぞ。なにか温かいものでも用意しますわ」

「ちょっとした報告もある。偶然だがね、町でキャサリンさんに会ったのだ。サイポー君と一緒に、紅蓮の炎が燃えます隊で活動していた」

 シャルロットが鍵を差し込み、探偵社の扉を開ける。足を踏み入れようとするより早く、鬼気迫る様子のジョニーが彼に飛びついた。あまりの剣幕に、エリスンは思わず身を引いてしまう。

「ヒュイヒュイ、ヒュヒュイッ?」

「ご、い、痛い、ジョニーさん、胸ぐらをつかむのはやめていただけないかな」

「ヒュヒュゥ! ヒュイ!」

 聞こえていないかのように、大きな目をさらに大きくしてつめよる。シャルロットの顔が土気色に変わりゆくのを見て、やっとエリスンは命の危機に気づいた。なんとかジョニーを引きはがす。

「ジョニーさん、落ち着いてください。たいした内容じゃないんですが、わかったことは全部お話ししますので。まだ外は冷えます、とりあえず中に……」

「ヒュイ! ヒュヒュイ!」

 ジョニーはエリスンの手をふりほどいた。扉の前で浮遊して、なにやら瞳の中に炎を燃やしている。シャルロットとエリスンは顔を見合わせ、肩をすくめた。

「残念ながら、いま私が話したことで全部ですよ、ジョニーさん」

「というか誤情報も混ざってます、サイポーじゃなくてミランダさんです。それに、グレます隊の正式名称も……なんだったかしら、あなた、いまなんていった?」

「む? 紅蓮の炎が燃えています隊かな?」

 ジョニーは身を乗り出して、二人の話を吸収しようとしていた。どんな情報も逃さないといった情熱が全身からオーラとなって立ち上っている。

 エリスンは丁寧に記憶を探った。この期待に少しでも応えたい。

「違うわよ、もっとこう、グレてるんじゃなくて、愛を貫き通す、みたいな意味合いがあったはずだわ。あら意外、って思ったもの」

 長い名称の中に、愛を信じるとか、愛が伝わる日までとか、そんなフレーズがあったのではなかったか。思い当たったのか、シャルロットは顎の下に親指をあて、ふむ、となけなしの脳みそを探った。

「そうだったかもしれないな。ああ、それに、日陰がどうのといっていたはずだ。日陰で暮らすとかなんとか……──そうか!」

 おもむろに、名探偵は目を見開いた。不敵な笑みを浮かべ、開けたばかりの扉を閉める。鍵をかけ、踵を返した。

「ひらめいたよ、エリスン君。キャサリンさんの居場所を突き止められるかもしれない。もう一度出かけよう」

「え?」

 エリスンが目を丸くする。自信に満ちた上司の顔ほど、信用できないものはない。

「一日……二日、そうだな、二日もあれば、居場所がわかることだろう。ジョニーさん、もう少しだけ待っていただきたい。この名探偵シャルロット=フォームスン、二日後には必ず、キャサリンさんを見つけてみせる! はーっはっはっは!」

「ヒュイ!」

 生傷だらけのジョニーは、目を輝かせた。高笑いするシャルロットの手をそっとつかみ、重々しくうなずく。まるで、お願いしますといっているかのように。そのまま、超高速で跳び去っていった。彼には彼で、やることがあるようだ。

「……どうするの? もう日も暮れるわよ」

「なあに、ちょっと店をめぐろうかと思ってね。運が良ければすぐにでも、彼女を見つけることができるだろう」

 若き名探偵は、自信百パーセントの笑みを見せた。






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