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続々 名探偵シャルロット=フォームスン物語  作者: 光太朗
story3 世界一の名探偵
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story3 世界一の名探偵 6


 この建物でもっとも高い場所に宝がある──宣言どおり、シャルロットは階段を見つけてはどんどん上へと上っていった。

 本当なら行きたくなかったが、仕方なくエリスンもついていく。面倒ではあるが、興味はあるからだ。楽しそう、という理由でミランダも一緒だった。

 シャルロットとエリスンが泊まった部屋は二階。さらに階段を行くと、三階は二階よりも造りの豪華なフロアだった。ただし、こちらも戦場跡と化している。四階は特別客用なのか、そもそも部屋数が少ない。こちらの被害も甚大だ。

「いまのところ、すれ違う人たちって、みんなやる気なさそうよね」

 砕かれた壷や割れた窓を避けつつ、エリスンがつぶやいた。怒声や爆音のようなものは聞こえてくるが、音から遠のくようルートを厳選しているため、いまのところ出くわしていない。その代わり、着飾った「探偵」とすれ違うことはあるものの、彼らに破壊活動をしている節もなく──また、宝を探している様子もない。

「ふむ、私の推理どおりだ。何も不思議に思うことはない、エリスン君。どんと構えていたまえ! はっはっは!」

 何度か足を取られてすっころび、あちこちに擦り傷を作った名探偵が笑う。助手は無視した。

 エリスンよりもなお身軽に、足がさらけ出されるのもかまわず、飛び跳ねるように先を行くミランダが、振り返る。

「探偵、この先どうするんだ? もう階段はないみたいだぜ」

「おや、それは困ったな」

 シャルロットはいかにも困ったような顔をすると、ぐるりとあたりを見渡した。

「ならば、壁を登るしか……」

「なにそれ寝言? ここが最上階なんじゃないの」

 だんだん疲れてきたエリスンは、言葉にもうやめたい感をにじませる。しかしそんな微妙なニュアンスが伝わるはずもなく、シャルロットは軽やかに笑った。

「ここに宝がないということは、ここは最上階ではないということだろう。ならばもっと上を目指さなくてはなるまい」

「すげえ自信だな」

 感心したようなミランダの声。シャルロットはますます得意になって胸を張った。

 もうそのままふんぞり返って頭を床にめり込ませてしまえ──そんなことを思いながらも、エリスンは助手として、一応提案してみる。

「この階の部屋のどこか、ということではなくて? これ以上上がないなら、ここが一番上ということだわ」

「…………!」

 シャルロットがひどく衝撃を受けた顔をする。背後に雷すら見えた。ピシャーン。

「ああ、まあ、そうだよな。アンタ、頭いいな」

 ミランダは単純に感心しているようだ。感心レベルの低さに目眩がして、エリスンは額を押さえた。このメンバーはキツイ。

「い、いや……しかし、考えてもみたまえ。ふつう、こういったショーのゴールとなる最上階といえば、もっとこう……塔の先端だったり、オブジェのあるホールだったり、そういうところではないかな?」

「そういう『ふつう』がどうしてここでも通用すると思うの。っていうかそれって本当にふつうなの?」

 エリスンの言葉に容赦はない。よろよろとよろめいて、名探偵は打ちのめされた。これはこれで珍しい光景なので、おとなしくエリスンは観察してみる。

「──だが、私の推理がはずれるということはありえない。それだけは天地がひっくり返っても、ありえないことだ!」

 あっさり復活した。

「つまり、まだ上があるのは間違いない! なあに、見落とすぐらいの小さなミスは誰だってすることだ。落ち込むことはない、サイポー君」

「アタシかよ」

「……あーもー」

 エリスンは足下の瓦礫を蹴飛ばした。やはり、早い段階で無理矢理にでも帰っておくのだったと、激しい後悔。

 そうして、瓦礫の下に、見つけてしまった。

 はっきりと刻まれた、文字。

 気のせいかと、ゆっくりと目を閉じて、もう一度開く。息を飲んだ。

「これ、って……」

「おや、エリスン君、どうしたのかね」

 シャルロットも足を止める。ミランダはすぐに駆け戻り、エリスンの見つめる先を見た。

「なんだコレ。……不霊園――フ、レイ、エン? どういう意味だ?」 

「ふむ」

 遅れてシャルロットも合流する。失礼、と声をかけ、うずくまった。細かい瓦礫や埃を丁寧に払い、文字の刻まれた床を観察する。

 そこには確かに、『不霊園』とあった。東洋の文字でかかれているが、ご丁寧に読み仮名が振ってある。

「ねえシャルロット。これって……すごく不本意ではあるんだけど、すごくアタリな予感がするわ」

 ほんのりと興奮しつつ、エリスンがつぶやく。シャルロットの推理など当たったためしがないことを知ってはいるが、それでも明らかに意味の分からない文字が記されているのを発見してしまえば、心躍るものがあった。このまま彼の鼻がどんどん高くなるのはいただけない現象だとわかってはいるものの。

「どういう意味だ? ジャパネスクでは意味のある言葉、か?」

「いや、流行の折には私ものめりこんだものだが、不霊園というものは聞いたことがないな。なにか他に、ヒントになるものは――」

「不がついてるんだから、霊園、ではない、ということじゃないの?」

 口々にいいながら、文字をのぞき込む。床に唐突に文字が刻まれているだけで、他の情報はない。

「ふむ」

 すっくと立ち上がり、シャルロットは燕尾服の襟を直した。

「おそらく関係あるまい。それよりも、上を目指そうではないか」

「――不霊園、上にあるみたいだけど?」

 エリスンが壁を指した。

 わざわざ床を見るまでもない。顔を上げてみれば、壁にでかでかと、書かれていた。『不霊園、この上』と簡潔な案内。

 シャルロットも、壁を見る。

 床の字と壁の字を、交互に見た。

「はっはっは! 思ったとおりだ! 己の推理力の素晴らしさに頭痛すら感じる……! さすがとしかいいようがないな!」

「あたしも頭が痛いわ」

 淡々とエリスンが同意する。しかし名探偵は、そうだろうとも、とバカ笑いしただけだった。

 ミランダがマイペースに壁のチェックをして、天井に張り付くように隠されていた紐を引っ張った。

 ガコン、と鈍い音。

「上、ホントにあるみたいだな」

 天井の一部が扉のように開き、縄ばしごが落ちてきた。

「すごいわ、ミランダさん。もうあなたが世界一の名探偵ってことでいいんじゃないかしら」

 本心からエリスンは賞賛した。しかし、いってしまってから、実はシャルロットの推理が当たっていたのだと気づく。まだ宝を見つけたわけではないが、胡散臭い仕掛けの発見に至ったのは確かだ。

「探偵の推理がすごいってことだろ。推理、あとで詳しく聞かせてくれよ」

「はっはっはっ、もちろんだとも。世界一の名探偵という名誉を得たそのあとで、私の名推理を披露しようではないか!」

 どこまでも調子に乗ったシャルロットが、縄ばしごに足をかけた。そのまま、ためらわずに登っていく。

 三段進んだところで、止まった。

 縄を掴む手が、ぷるぷると震えている。

 日頃の運動不足は、こういうところで如実に響く。

「――シャルロット、急ぐわよ」

 遠くから小さく聞こえてきていた破壊音が、だんだんと近づいてきていた。手も足も出なかったならともかく、後少しという段階で先を越されたのではたまったものではない。

「男を見せなさい! 知力も体力もガッカリな名探偵なんて聞いたことないわ!」

「それってすでに名探偵じゃないよな」

 ミランダがまったくの正論を口にして、エリスンはイライラとシャルロットの尻をはたいた。







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