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18. 新たな仲間

「本当に助かった、礼を言う」

 クリスたちは助けたパーティーの五名に礼を言われていた。

 アインを含めた男四人に女一人というひどくアンバランス男女比だった。

「私達があなた方を助けられたのは本当にたまたまですよ」

 クリスは努めて事実を言う。

 現実問題として、ほぼ生存は絶望的だと考えていたのだ。 

 その状況で全員が生きているのだから、まずそれは彼らの実力だと思う。

 アインは首を振る。

「全員が助かったのは運が良かっただけで、少しでも何かが足りていなければ死んでいた」

 彼は無念そうに言葉を紡ぐ。

「全員で話し合った結果、今日で俺たちのパーティーは解散することにした」

 パーティーメンバーが死んだり、負傷によって離脱したりしたパーティーが解散することはさほど珍しくない。

 そのメンバーに対する負い目で、人間関係に影響が出るのだ。

「いや、今回の仕事終わったら解散するっつってたでしょうが」

 赤毛の少女が、馬鹿を見る目で突っ込んでいた。

 彼女はリタと同じくらいの年齢に見えるが、年上のアインに容赦がない。

 アインが心外とでも言うように声を上げる。

「こう言った方が何か深刻そうでいいだろうが」

「馬鹿すぎる……」

 少女が頭を抱えていた。周りの男達が苦笑している。

 仕方ないなと言うように、男の一人が、話し始める。

「俺は実家を継ぐために故郷に帰る予定だったんだ。で、あいつは国に帰って軍に入る予定だった」

 彼らは程々に実力のあるパーティーだったと思う。

 それが冒険者をやめるという話になるのだから、仕事と報酬が割に合わなくなっているということだった。

 実際、冒険者に頼る時代は終わりつつある。

「あたしとこいつは、ラナ・ディーラルに帰る予定だったの。で、その馬鹿はひとりで冒険者を続けるつもりだったってわけ」

 馬鹿と言いながらアインを指す。

 パーティーの他の人間が抜けて、一人だけとなってしまうアインを見て流石に同情する。

「しかし、ラナ・ディーラルということは、光の塔の関係者の方ですか」

「あたしじゃなくて、こいつがだけどね。何、知り合いでもいるの?」

「ええ、まあ。ココ・ティラナカルというのですが」

 赤毛の少女の隣に立っていた外套を来た男が顔を上げる。

 男の目に異様な迫力を感じる。

「あの女の知り合いなのか」

「たまたま縁がありまして。ココの知り合いなのですか」

 男が舌打ちして視線をそらす。

 そしてこぼすように呟く。

「俺が一方的に知っているだけだ。あいつは俺のことは知らんだろうさ」

 彼はあまりココに対していい印象を抱いていないらしい。

 過去に何かあったんだろうか。

 リタが確認するように五人に声をかける。

「では皆さんは、一度ホウロスに帰るということでいいでしょうか」

 ああ、と四人が頷く。

 ――四人?

 アインが一人横に首を振っていた。

 アインはリタの前に膝をつくと仰々しく喋りだす。

「リタ、貴方は護衛の冒険者を探していると聞きました。私がその一人に名乗りを上げてもいいでしょうか。貴方のようなうつくし――」

「あんたウェハさんに付いていきたいだけでしょ」

 赤毛の少女が無慈悲なツッコミを入れる。

 アインが固まる。

 そしてゆっくりと立ち上がりながら言う。

「まあ、なんだ、そういう側面がないこともないと言えなくもないな」

「いやほぼそれが百%の理由でしょうが」

 本当に容赦がない。

 仰々しさが空振ったせいで空気が死んでいた。

「理由はともあれ! 貴方の冒険の仲間が増えることはいいことだと思うのですが、どうでしょうか!」

 アインの不屈の精神に少し感心する。

 普通めげるし、死にかけたばかりなのに下心程度ですぐに冒険に出ようと考えられるのもすごい。

「えっと……」

 リタが苦笑いで言葉を探していた。

 真面目に考えると、パーティーメンバーが増えることは願ったりかなったりだ。

 ただ、動機がウェハというのがよろしくないし、男性一人というのもいろいろと問題がある。

 せめて、金が動機なら良かった。

 クリスはアインのパーティーの他のメンバーにも声をかける。

「皆さんもどうでしょうか。昨日の今日で恐縮ではあるのですが、リタの護衛として雇われてみませんか。報酬は保証します」

「どこまで行くんだ」

 外套の男が声を上げる。

 リタが前に出て胸を張るように言う。

「竜の国です」

 外套の男が絶句して、続く言葉をなくしていた。

 アインを除いた四人の顔に『んな無茶な』と書かれているのがよく分かる。

「なぜ、そんなところに行く」

「詳しくは言えませんが、必要なことだからです」

 竜と講和しに行く、など言えるはずがなかった。

 そのことを言った時点で、リタの素性も暴露することになる。今の彼らに伝えるべき情報ではなかった。

 問題は依頼主がはっきりと目的を言えないため、この護衛の依頼は異常に危険で胡散臭すぎるように感じられてしまうということだ。

 実際、実家に帰ると言っていた男と、軍に入ると言っていた男は無理だと言うように首を振っていた。

 アインは気にした様子もない。これは例外と考えよう。

「お二人はどうでしょうか」

 リタが、赤毛の少女と、外套を着た男に声をかける。

 赤毛の少女は頭の後ろで手を組みながら返事をする。

「あたしもぶっちゃけ受けたくはないんだけど、こいつ次第かな」

 そう言いながら外套の男を指差す。

 男はクリスを見ながら言う。

「一つ確認したい。ティラナカルとはどういう付き合いだ」

「かつてパーティーを組んだことがあります」

 正直に言う。ここから経歴が割られる可能性も考えたが、流石に男が女になっているなどと考えることはない、はず。

「剣士か。魔法も使えるのか」

「魔法は七階位と認定されています」

 男たちが唸る。

 七階位は基本的に魔導師でも実力者とされている。

 剣士で魔導師となるとなおさら少なくなる。

「俺よりも階位が上なのか」

 唖然としたように彼がつぶやく。手が握りこぶしをつくる。

「ティラナカルはあの年で十階位という到達者となった。では俺は何だ。未だ六階位で剣士と兼業しているものにすら後背を喫している」

 つぶやきが途絶える。

 目には決意。

「俺も行く」

 赤毛の少女が諦めたようにため息をつく。

「あーはいはい、じゃああたしも行きますよー」

「いや、別に付いてこなくてもいいんだぞ」

「あんたそれ本気で言ってる?」

「すまん」

 二人は懐から身分証を取り出すと、リタの前に立つ。

「俺はナセル・スメットという。魔導師だ」

「あたしはアリゼ・モルガン。斥候(スカウト)をやってる」

 ナセルがリタに手を差し出す。

「貴方の護衛の依頼を受けることにした。よろしく頼む」

「こちらこそよろしくお願いします」

 リタが微笑んで返す。

 これでアインも含めると、パーティーは六名となった。

 まさか同行者を得られるとは思いがけない収穫だった。

パーティーメンバーが増えた!

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