基礎クエスト
俺がエントランスの空いている円卓で待っていると、受付の方から男が一人出てきた。
その男は真っ直ぐ俺のところにやって来て話し出す。
「お前さんが基礎クエストを受けたエージュか?」
「はい、そうですが、貴方は?」
「あぁ、すまん。俺はルシード、お前の基礎クエストの教官だ」
そう言って、ルシードはニヤッと笑って見せる。見た目は20代半ばくらいだが、雰囲気はおじさんである。
「じゃぁ早速行くぞ、ついてきな」
そう言いながら、入り口の方へと歩き出すルシードに、俺は慌てて付いていく。
「エージュは討伐と採取とどっちからやりたいんだ?まぁどっちもやってもらうことは、変わらないんだがな」
ギルドを出るとルシードが振り向き様に聞いてくる。
「そうですね、採取からでいいですか?」
「わかった、なら南平原からだな、よし行くぞ」
そう言いながら噴水広場から南へ伸びる道へと進んでいく。南の道には道具屋や加治屋等の店や、露天が数多くある。
「この道は商店道だな、西には教会と農道、東には宿屋道、北は役人道、ギルドや長の家なんかがある。」
歩きながらルシードがこの町のことについて教えてくれる。これも基礎クエストの範疇なんだとか。
あれこれと町の話を聞いてあるうちに、跳ね橋のかかった門にたどり着いた。どうやら町の外は堀になっているようだ。
「この跳ね橋を渡ればモンスターの出てくるフィールドだ。まぁ、南平原はあっちから襲って来るやつはいないけどな」
「襲っては来ないけどモンスターがいるのか」
「あぁ、ハナディウムカウって牛がいる、こっちから手を出さなければ、襲ってくることはないが手を出すと今のお前だと一発だな」
はっはっはと笑いながらさらっと危険なことを言ってくるなこの男、まぁこっちから手を出さなければいいみたいだし、大丈夫か。
「さぁ出発するぞ、それと俺には敬語なんて使わなくても良い、むず痒いったらありゃしないからな」
「わかりま……わかった、そうさせてもらうよ」
ルシードと共にハナディウムの町を出ると、そこには牧歌的な風景が広がっていた。見渡す限り青々とした草原と、ところどころに点在するのんびりとした牛の姿がこの平原のすべてである。
「なんかめちゃくちゃ長閑なところだなぁ」
「そうだろう、休日にのんびりとするために通う冒険者もいるくらいだ」
「ここで何をするんだ?」
「後で採取もしてもらうが、先ずは己を知ることだな。ステータスを呼び出せるか?」
「できるぞ。ステータス!」
今回は声に出して唱え、ステータスを出現させる。
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名前:エージュ
種族:獣人族
ランク:F
Lv:0
HP:200
MP:150
ATK:20
DEF:15
INT:15
MND:15
AGL:40
スキル:
ミックスキル:
称号:【ミラードの祝福】
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「ステータスはギルドカードと同じで、意思の力で相手に見せることもできる。今回は俺に見せてくれ」
「わかった」
おれは、ステータスをルシードに見えるように念じる。
「獣人族だからやっぱりAGL型か、それにしてもお前ミラード様の祝福受けてるじゃないか」
「あぁ、そうらしいなぁ」
「そうらしいなぁって、めちゃくちゃすごいことなんだが。まぁいいや、スキルや称号は注視すると説明が見れるんだ。やってみな」
そう言われて【ミラードの祝福】を注視する。
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【ミラードの祝福】
アストラッドにおける守りの神ミラードの祝福を受けた証
スキル【DAミラー】を使用可能になる
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【DAミラー】
自身のDEFの値をATKに上乗せする
任意で常時発動にも切り替え可能
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なんかめちゃくちゃ強かった。勿論常時発動に切り替える。
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名前:エージュ
種族:獣人族ジューマン
ランク:F
Lv:0
HP:200
MP:150
ATK:20(+15)
DEF:15
INT:15
MND:15
AGL:40
スキル:
ミックスキル:
称号:【ミラードの祝福】
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もうこれLvup時のポイントDEF極振りでもいいんじゃねとか思ってしまう。
「先ずは己を知ることだ、そうすれば足元を救われずにすむ」
「そうだな、ちょくちょく見るようにしないとな」
じゃないと何処に爆弾があるかもわかったものじゃない。
「さぁ、自分のことがわかったら、採取を始めるぞ、薬草はここら辺に多くある採集ポイントから採れる。軽く光って見れるところがそうだ。そこを探せば見つかるぞ」
そう言われて手近な光る草のところに行って探していく。
「おっ、これかな?」
そう思って見つめると、薬草と表示される。
「目標数も大した量じゃないし、ちゃちゃっと集めるか」
そう言いながらせっせと集めていく。直ぐに目的の本数集めることができた。
「集まったか?採取したものを、確認し続けていくと、【鑑定】や【認識眼】何てスキルが手に入ったりするから、目指すのもいいかもしれないな」
努力すればそれに即したスキルが手にはいるのか、そういえばそんな事チュートリアルでも言われてたな。
「よし、採取はこんなもんでいいか、次行くぞ次」
そう言いながら、東の方へ歩いていく。
「おーい、どこ行くんだよ門はこっちだろ?」
「あぁ、門はそっちだが今からいく東平原は町通るより直でいった方が早いんだよ。いいからついてきな」
俺を置いてスタスタと歩いていってしまうルシード。
「あっ、ちょっと待てって」
慌てて俺はルシードの後を追いかけていくのだった。
ルシードについていって南平原を横切ると少しずつ回りの風景が変わっていく。南平原にいた牛の姿が見えなくなる。それにしたがい草の丈が伸び、腰辺りまである草が増えてくる。
「ここら辺から東平原になるからな。攻撃的な魔物も増えて来るから気を付けろよ」
辺りを警戒しながらルシードが声をかけて来る。
「攻撃的なってクエスト目的のウサギか?」
「そうだ、今のうちに装備を整えておけよ」
そう言いながら、自らの武器の小剣と盾を取り出す。それを見て俺も慌てて装備を確認する。
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【万変の枝葉】
使用者の意思を受け様々な武器に変質する枝葉
壊れることはないが威力もない
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【冒険者セット】
初心冒険者の為の装備
防御力は皆無である
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まぁ最初の装備だしこんなもんか。
「【万変の枝葉】は持ってるよな?何の武器にするんだ?」
「初めは剣にしようと思ってるけどどうしようかな。大剣とかも良いと思うんだけどな」
「仮にもAGL型なんだろ?重たい武器は無しだろうよ」
「そうだなせっかくの機動力を下げることもないか。となると手甲とかの方がいいのか?」
「小盾なんかもおすすめするぞ?取り回しもしやすく耐久力も上がるからな」
「うーん、じゃぁ最初は剣と盾にするか」
「妥当なところだな」
俺は枝葉を、剣と盾をイメージして手に持つ。すると枝葉は、木剣と木の盾に変わっていた。
「よし、準備できたな。おあつらえ向きにウサギが一匹やって来たぞ、相手してみな」
ルシードが言う方の茂みから、ガサガサとウサギが飛び出してきた。記念すべき俺の初戦闘の開始である。
先ずは、ウサギに向かって木剣で切りつけにいく。俺の剣はウサギに当たり、ウサギの頭上にバーが表示される。
「攻撃が当たると、相手のHPバーが現れる。それを削りきればお前の勝ちだ」
成る程、先ず一撃当てなければ相手のHPがどれだけか分からないようになっているようだ。
このゲームのシステムについて納得していると、今度はウサギがこちらに向けて蹴りを放ってくる。HPバーの出現に気をとられていた俺は、諸にその攻撃を受けて、吹き飛ばされる。
「いってぇ、油断したぁ」
自分のHPを気にしてみると、どうやら30ほどダメージを食らったようだ、……いや最初の敵にしては強すぎませんか?一発で30持ってかれるとか。
「あちゃー、油断すんなよぉ。たかがウサギでもクリティカルもらうときついぞ」
ルシードがあきれたように声をかけて来る。
「クリティカルだったのかよ、痛い筈だな」
「あと、盾も飾りじゃないんだから使えよ~」
そういえば盾を持っていたことを忘れていた。盾の存在に気がついたところで、ウサギが追撃の蹴りを放ってくる。
俺は盾を構えウサギの蹴りを受け止める。今度はダメージもなく吹き飛ばされもしていなかった。
「ノーダメージとか、盾ってすごいのな」
そう言いながら、返す剣でウサギを切りつけ、ウサギのバーが黒く染まる。それと同時にウサギはポリゴン片になり消えていった。
「よくやったな、後4匹さっさと片付けるぞ、と言いたいところだが、色々と武器を変えて戦ってみるんだな。そのなかでしっくり来るものをメインに使っていくも良いだろう。さぁ次行くぞ次」
そう言いながら次のウサギを探して、東平原を行く俺とルシードだった。