狼の獲物達
消えてはいません
止まってはいました
暖かいお言葉有難うございます
おかげで帰ってこれました
俺が目を開けると、そこは最初にログインしてきた教会だった。
「……死に戻りか」
このゲームで初の死に戻りだ。
「お目覚めですか?」
白いローブに身を包んだ男の人が話しかけて来た。
「貴方は確か……エキストさん?」
確かそんな名前だったはずだ。
「はい、また、お会いしましたね」
よかった、合っていたらしい。
「お身体に異常はないと思いますが、自らの身体を大切にしてくださいね」
「はい、気を付けます」
「では、貴方の行く先に、神の御加護があらんことを」
「有難うございます」
そんなやり取りをしながら教会から見送られる。
「強かったなあいつ。っとみんなはどうしたかな?」
軍狼頭との戦いを思い出しながら、バタ&リタコンビとウルさんのことを考えていると、タイミングよくフレンドコールがバタから飛んでくる。
「おう、エージュも殺られたみたいだな、いま冒険者ギルドの中にある、酒場にいるから此方に来てくれ。面倒なことになったぞ?」
「面倒なこと?」
「来たら話す、待ってるからな」
そう言ってバタからのコールは切られた。
「しゃぁない、行きますか」
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冒険者ギルドに着いた俺は、入ってすぐ右手に入り口がある酒場へと足を踏み入れた。
この酒場と言うのは、パーティーの募集や集合場所、冒険者の休憩スペースと言った意味合いが強くあり、前に使ったような会議個室とは違い、会話を聞こうと思えば聞くことが出きる場所である。
酒場に入ると4人掛のテーブルを囲っているバタ達を見つけたので、テーブルまで行き、空いている席に着いた。
「おうっ、エージュ来たな」
「お疲れ様です。エージュさん」
「結局あんたも殺られちゃったのね」
バタ、ウルさん、リカの順で話しかけて来た。
「みんなもお疲れさま。結局なんだったんだあいつは?」
「それなんだけどな、3人で話した結果、ハン・アングリーラビットみたいな特定条件で出てくる隠しBOSSじゃないかってことになったんだよ。称号もあったしな」
「称号?そう言えば、倒された直後に、なんか称号獲得したって出てたな」
「そう、その称号が問題なのよ。確かめてみなさいな」
リカに言われてステータスから称号を確認する。
増えていた称号がこれだ。
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【軍狼頭の獲物】
ハナトゥー森林の影の番人軍狼頭に出会い敗れたものに贈られる称号。軍狼頭に獲物と認定され、ハナトゥー森林に入る度に軍狼頭と出会す事だろう。
ハナトゥー森林でのフォレスネークとの遭遇率up&ボア肉の獲得率up
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「なんだこの称号!?」
「要はハナトゥー森林のBOSSが固定されたよってことだな」
俺のあげた声に答えを出して来るバタ。何でお前はそんなに冷静なんだ。
「えっ!?まじで、勝てなくね?」
「そうねぇ、いまのままじゃ無理でしょうね」
最初に落ちてしまった悔しさからか、拳を作りながら話すリカ。
「どうすればいいんでしょうか?」
ウルさんも首をかしげながら困っている。
「最優先としては個々の戦力強化だな。最低でも、後5Lvは上げて次のスキルクリエイトをしておきたいな。次点として回復役の確保か。出来れば回復盾になるやつがいいな。後方の壁がほしい、前方はエージュが強力だからな」
バタが自分達の戦力を分析して、次の一手を考えてくれる。
「確かに今のパーティーだと厳しいからなぁ。でも、回復盾のやつなんているのか?」
「居るんじゃないかしら?両手に盾持ってる変人がいるくらいだし?」
俺の質問にリカが此方を見て笑いながら答える。
「変人で悪かったな、けどこのゲーム自由度高いし居るかもしれないな。じゃあ、新しいパーティーメンバーを探しつつ、各々Lv上げでいいか?」
「そうですね、私は装備の見直しもします。皆さんの装備も作らせていただけないですか?」
ウルさんは、生産職として動くようだ。
「私は範囲魔法の練習と魔法の強化かしらね。Lv上げで出た素材はウルに渡すわね」
「あっ、でもウルさんが作ると能力下がるんじゃないの?」
確か、マイスター契約者以外に装備を作るとマイナス補正がかかるんじゃなかったかな?
「それは大丈夫です。マイスター契約者が所属しているパーティーメンバーへの装備の作成には、マイナス補正が無くなるみたいです。プラス補正はエージュさんにのみなんですけど……」
「それでもオーダーメイドの装備は嬉しいな。俺も素材はウルさんに流すとするか」
「それじゃ装備はウルさんに発注で、新メンバーは、これはって人がいたら誘う感じで」
「それでいいんじゃないかしら?」
「俺もそれでいいぞ。そしたら、戦力を整えて来週もう一回リベンジと行くか?」
「それで大丈夫です。私も自分にできることを頑張ります」
バタの提案を採用して、俺たちは来週の土曜日に、軍狼頭再チャレンジすることにした。
「じゃぁ、ここからはそれぞれ別行動で」
「あぁ、また来週な」
「装備の能力に関わるのでパーティーは、抜けないで下さいね?」
「えぇ、また来週に合ったときが楽しみね。みんなどれだけ強くなっているのかしら」
それぞれギルドを出てから別々の方向へ向かっていく。
「とりあえず俺はどうするかな」
みんなを見送りつつ俺は噴水前のベンチに腰かける。何か前も同じようなことがあった気もする。
「Lv上げはマストとして、スキルの構成をいじるか。……いや、その前に新しいスキルの選択肢を増やしたいな」
現状で俺は取れるスキルが少ない。このSCOでは、戦闘後にスキルを取れるようになったりするから、やっぱり戦闘一択な気もする。
「とりあえずは動き始めますか。やってみないことには、始まらないしな。となると場所は……。よしっ、あそこに行こう」
思い立ったが吉日俺はベンチから立ち上がり、出発しようとする。
そんな俺の出端をくじくように、メール受信のお知らせが届く。
「全く誰だよ……ヤツルギか、内容はっと」
『おいっ、エージュっ、俺だよ俺っ、俺はウッドゴーレム倒して、次の町にたどり着いたぜ。お前がいないってことは俺の勝ちでいいよな?月曜に飲み物おごれよ?じゃぁな。勝者ヤツルギより』
「あの野郎。此方はウッドゴーレムどころじゃないってのに、しかも滅茶苦茶腹立つな、月曜にぶっ飛ばす。けど、負けは負けだからな。90円のパックジュースくらいは奢ってやるか」
ヤツルギへの返信をしつつ、東門へ向かう。
「さぁ蛇共まってろよー」
俺はLv上げの場所を、ハナトゥー森林に決め歩き出すのだった。




