森前騒動
「ウルさんにも出ましたか?」
シークレットクエストの確認をして、ウルさんへと問いかける。
「はい、私も出ています。シークレットクエストなんてあるんですね」
「みたいですね。報酬の新たなスキルの解放って言うのが、ハラスティさんの言っていた、武具の合体スキルですかね?」
「話の流れから言って、きっとそうですね」
「じゃぁ、ウルさん、早速向かいますか?」
「いえっ、少し待ってもらえますか?エージュさんの、もうひとつの相棒を、作ってしまいたいので」
「わかりました。これ素材です」
そう言って、ウルさんに、ハン・アングリーラビットの素材を渡す。
「じゃぁ、俺は、商店道に出て旅の準備をしてきますね?」
「はい、そちらの方はお任せします。完成したらメールを送るので、東門に、集合しましょう」
「了解です。それでは、またあとで」
「はい、行ってらっしゃい」
何か新婚みたいに見送られた。滅茶苦茶恥ずかしい。
「さて、何を買えば良いんだ?」
店を出て、商店道で買う物の物色をする。
『PiPiPiPi』
ポーションなどを物色しながら、2人分の消耗品を、買い込んでいると、コール音が鳴る。
「誰だろう、ウルさんはメールって言ってたけどなぁ?」
かかってきているのは、フレンドコールなので、知り合いしかないはず、という事で名前もろくに確認せずにコールに出る。
「おーい。エージュ、俺、俺、一緒に森に行かね?」
「オレオレ詐欺は、間に合っています」
一昔前にあった詐偽の手口が俺俺詐欺だ、名前を名乗らず俺、俺、と名乗り、あたかも知り合いですよの体で話し掛け、お金を巻き上げる手口だったはずだ。時代遅れにもほどがある。
「いやっ、ちげーよっ!?ヤツルギだよ?」
俺の反応を聞いて、焦って自分の名前を伝えるヤツルギ、いや、わかってたんだけどね。
「わかってるよ、で?なんの用だった?」
何時までも、からかっていてもしょうがないので、話を進める。
「そうそう、新しく追加された森に、一緒に行かね?確かバナドゥー森林だっけ?」
「ハナトゥー森林な。いいけど俺は、独りじゃないぞ?それに、ライバルだ、とかいって別れたのに、もう一緒にやるのか?」
「うーん、そうだなぁー、まだ序盤だしな、そういえばお前はライバルだしな」
「いやっ、ライバルは、お前が言い出したんだから、覚えてろよ」
相変わらずのヤツルギで安心するが、こいつがライバルで良いのだろうか?
「うーん、よしっ、じゃぁ競争な?ドゥルスの街?に後に着いた方が、リアルでジュース1本で」
何か賭けを吹っ掛けられた。嫌じゃないから受けるけどな。
「いいよ、因みにトゥールースの街な?スタートはどうするよ?」
「うーん、飯食って、午後1時スタートにしようぜ。それまでは、準備時間な」
「オッケー。じゃぁそれで」
もう話題はないと思って、コールを切ろうとすると、まだ伝えたいことがあったらしいヤツルギが、喋りだした。
「あぁ、それとお前掲示板は見てる?」
「いや、見てないぞ?これからも、あまり見る気はないけど」
掲示板は基本的に見ない、と言うか気にしていないのが俺だ。見ないように縛っている、というわけでもなく気が向いたら見たりもするが、見始めたら嵌まってしまうので、あまり見ないというだけだ。
「お前、プレイヤー間で二つ名付いてたぞ?」
えっ?二つ名?厨二的な何かですか?
「お前の場合は、〔守護天使〕だな、因みに俺は、〔対四剣〕だよ」
「はっ?お前の成績がばれたのか?」
「ちげーよ、追試験じゃなくて、対する四つの剣と書いて、〔対四剣〕って読むんだよ!かっこいいだろ?」
「で?俺が天使?マジかー」
「スルーかよ、まぁいいや。そうそう、お前の白い翼が、天使みたいだからって、後は盾で守護、繋げて〔守護天使〕だな」
「すげー、大層な名前がつけられたな」
「格好いいし良いんじゃねぇの?」
「まっ、気にしなければ良いだけだしな」
「そゆこと。じゃぁ約束忘れるなよ?」
「おう、またな」
お互い挨拶をして、フレンドコールを切る。
「さて、買い物、買い物っと」
ヤツルギとのやり取りの後、雑貨屋等の店を回って、テントや、火打ち石等を購入する。店の人に聞くと、ログアウトのためには、モンスターが近寄らないように、火と、寝るためのテントが必要だそうだ。
「これでよしっと、おっ、丁度ウルさんからメールだな」
ウルさんからは、武具が完成したので、東門前でと、書いてあった。俺も買い物を切り上げて、東門前へと向かう。
「さて、ウルさんはどこにいるかなぁ?」
東門前へと到着して、キョロキョロと、周りを見回しながら、ウルさんを探す。
東門からは、プレイヤーと思わしき冒険者が、ひっきりなしに出ていっている。
「きっと皆、トゥールースの街を目指してるんだろうなぁ」
周りのプレイヤーの波に呑まれないように、端に寄りながら、ウルさんを探す。
「んっ?あっちの方が騒がしいな?」
東門の門扉のした辺りに、人だかりが出来ている。なんとなく、嫌な予感を感じつつ、人だかりの方へと足を進める。
「何かあったんですか?」
人だかりの一番外にいるプレイヤーに、声を掛ける。
「んっ?あぁ、何か、門の下に居た女性プレイヤーに、男のプレイヤーが絡んでるらしいよ?女性のプレイヤーが断っても、しつこいみたいでさ」
「そうか、ありがとう」
これは、ウルさん確定なのでは?少しずつ人を掻き分けながら、中心へと進んでいく。中心に近づくにつれて、会話が聞こえてくる。片方は男性のもの、もう片方はウルさんの声だ。
「お前、俺様が誘ってやってるんだから、さっさと付いてこいよ。楽にトゥールースまでいきたいだろう?」
絡んでる男性プレイヤーなんだが、滅茶苦茶頭が悪そうな気配がする。
「さっきから同じことを、何度も言っていますが私は人を待っているんです。トゥールースには、その人と行くので遠慮しておきます」
「そんな奴ほっとけよ。俺様の方が絶対に強いしな。それに、お前がもってるのは、武具だろう?大きさからして大剣とかか?俺向きじゃないか」
男性プレイヤーが、ウルさんの持っている包み(おそらく俺用に作ってくれたハン・アングリーラビットの大剣だろう)に、てを伸ばす。
「やめてください。これはあなたでは使えません」
ウルさんもイライラしているのか、語気を強くして否定する。
「あぁっ?俺様に使えないわけないだろ。いいから寄越せよ」
男性プレイヤーが、無理やり武具を奪おうと、手を伸ばしたタイミングで、俺は中心にたどり着いて、男の手首を握って手を止める。
「あっ、エージュさん」
「あぁ?なんだお前?」
ウルさんと、男性プレイヤー(オットスと言うようだ)が、同時に反応する。
「この女性の待ってた相手だよ。ウルさんお待たせしました」
オットスの手首を掴みながら、ウルさんに詫びを入れる。
「お前がこいつの待ってた奴か?だが諦めな、こいつは今から俺様と一緒にいくことになったからな」
俺の事を値踏みするように見ながら、嘘八百を言ってくる。
「そんなことは、ウルさんは、一言もいってないと思いますよ?」
「うるせえ、俺様が決めたから決定なんだよ」
俺が正論で返すと、男が切れて突っ掛かってくる。
「なら、PvPで決めましょう?エージュさんが勝ったら、貴方は私たちには、もう関わらないでください」
「えっ、ちょっ、ウルさん」
「いいぜ、こいつが俺様に勝てたらな。だが俺様が勝ったら、お前は俺様と一緒に来な、それにお前は、金と素材全部俺様に寄越せ」
ウルさんの急な提案にオットスが乗ってくる。
「なんでこうなるかなぁ」
俺のSCOでの初PvPは、負けられない戦いになってしまった。




