チュートリアル
真っ暗だった視界が白く染まる。
目を開けているはずだが辺り一面が真っ白で、ここが部屋なのかどうかさえわからない。
『やぁやぁ、君が新しい天生者かな?』
いきなり脳内に声が響いたと思ったら、目の前にぼんやり光る光の玉がフワフワと浮いていた。
『あぁ、そのままだとしゃべれないんだっけ?今体を顕現させるから待っててね』
光の玉がそう言うと、自分の周りに光が渦巻いていく。
『さぁこれで声が出るだろう?早速だけど、
チュートリアルを始めるよ』
「えっ?あぁ、本当に声が出るな。で、チュートリアルって何をするんだ?」
『色々やるよ。まずは見た目だね、今鏡出すからそれを見ながら容姿を決めてね?髪色とか長さとか、瞳の色、肌の色とか変えられるよ。身長とかも変えられるけど、あまりにも現実と違いすぎると上手く動けなかったりするから気を付けてね』
「そうなのか、わかった」
光の玉の話を聞いて鏡を見てみる。写っているのは毎朝見る自分の顔のはずだ。はず、というのは何となくイケメンになっていないかこれ?
『あぁ、現実での顔ばれを防ぐために補正がかけてあるんだよ』
疑問が顔に出ていたのか、光の玉が補足する。
そういうことなら仕方ないな。取り敢えず髪の色を黒に近い紺色に変えて、瞳も同じ色にしておく。髪型はどうしようか?まぁ、ゲームでよくあるウルフカットにしておこう。
肌の色はそのままでいいか。
一通り決めると、また光の玉が話しかけてくる。
『出来たみたいだね。じゃぁ次は君の名前を教えてくれるかな?』
名前というのは、ゲーム内のプレイヤーネームのことだな。まぁ、いつも使っている名前からもじったものでいいか。
「エージュでたのむよ」
『オッケー、エージュだね。さぁどんどんいくよ、まだまだ決めることはあるからね』
どうやらまだ設定が続くようである。
『さぁ、どんどんやってくよ。次は種族を選んでもらうね』
「どんな種族があるんだ?」
『人間族、獣人族、精霊族、角人族だよ』
「それぞれの特徴も知りたいんだが」
『いいよ、人間族はザ・汎用型。物理も魔法もこなせる万能型、悪く言えば器用貧乏かな。見た目は今のままでなにも変わらないよ』
人間族は想像した通りか。
『次に獣人族は、AGL(素早さ)が高い種族だね。機動力・回避力が高くなるよ。けど防御力が低くなりがちで、所謂紙装甲ってやつさ。見た目は獣の耳と尻尾が付くよ』
獣人族は高機動・回避型と。
『次は精霊族だね、精霊族は魔法関係が伸びやすい種族だね。その代わり物理関係が伸びにくくなっているよ。見た目は耳が尖るくらいかな?』
精霊族は所謂エルフだな。
『最後は角人族だね、角人族は精霊族と逆で物理関係の伸びがよくて、魔法関係の伸びが悪いんだ。見た目は額やこめかみ辺りなんかに角が生えてるよ』
角人族は鬼のようなものかな?物理職にいいだろう。
『ざっとこんな感じだけど、君はどの種族にするのかな?』
「そうだなぁ、人間族か獣人族なんだけど、どうしようか」
『だったら獣人族の見た目も見てみる?何の動物になるかわかんないけど』
「そうだな、見せてもらえるか?」
『いいよ、じゃぁ鏡を見ててね』
そういわれて、俺は鏡を見てみる。するとさっき作った自分のアバターに変化が起こる。
「……って耳は?」
変化が終わったあと俺には耳がなくなっていた。その代わり背中に1対の翼が生えている。
『ありゃ珍しい。鳥類の、しかも梟の獣人族かぁ』
そう言われて翼を見ると、図鑑なんかで見たことのあるような白梟の羽のようだった。
『大抵は犬とか猫とかなんだけどねぇ、大当たり引いちゃったね』
梟の獣人族は珍しいらしい、それならあいつにも自慢できるしこれでいくか。
「大当たりなんてラッキーだし、せっかく当たったんだから獣人族にするよ」
『いいんじゃないかな。じゃぁ獣人族で君の魂を固定するね。
……これでよし、これで君は獣人族になったからステータスで確認してみて。ステータスって言うか、念じると出てくるから』
「ステータスね、了解。ステータス!」
言葉を口に出すと目の前に半透明のウィンドウが出てくる。
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名前:エージュ
種族:獣人族
Lv:0
HP:100
MP:100
ATK:10
DEF:10
INT:10
MND:10
AGL:30
スキル:
ミックスキル:
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『見れたみたいだね、それぞれの数値の説明はいいかな?』
ステータスの中身はまぁわかるな。
「大丈夫だ、次にいってくれ」
『じゃぁ次ねSTpをあげるから好きな風に割り振ってね。
初回は50p次からは、獣人族はレベルが上がるごとに5pもらえるよ。それに追加でAGLに5p振られていくよ』
獣人族は自動でAGLに振られる分があるのか、STpの振り方には気を付けていかないとな。
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名前:エージュ
種族:獣人族
Lv:0
HP:200
MP:150
ATK:20
DEF:15
INT:15
MND:15
AGL:40
スキル:
ミックスキル:
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考えた結果こうなった。HPやMPはSTpを1振ると10上がるみたいだ。
『じゃぁ、次はスキルの説明いくよ~』
とうとうこのゲームのメインコンテンツを決めるわけだな。おらワクワクすっぞ。
『まずは簡単にスキルについて話すね。スキルにはスキルとミックスキルとの2種類あって、天生者は通常スキルを5個しか身に付けることができないんだ』
スキルには5個という縛りがあるのか。そうなると何のスキルをとるかが重要になってくるな。
『ミックスキルについては制限がないから安心してね』
「そもそもミックスキルってなんなんだ?」
『ミックスキルってのは、スキルクリエイトして出来上がったスキルのことだよ。ちなみに、スキルクリエイトとは複数個のスキルを合体させて新しいミックスキルを造り出すことさ』
このゲームのタイトルにもなっているスキルクリエイトがここで出てきたな。
「そのスキルクリエイトってやつはどうやるんだ?」
『最低でもLvが1、5、10と5の倍数の時に1回ずつ使えるよ』
レベルアップだけってことはないだろうし、最低でもって言ってるくらいだから何かしらまだやる方法はあるんだろうな。
『話を戻そうか、スキルを覚えるためには2種類の方法があるのさ。剣を振ったりして自分で経験を積んで覚える方法と技術巻物を使って覚える方法だね』
「覚えられるのは5個と言ったよな、もしスキルを5個覚えた状態で技術巻物を使ったりしたらどうなるんだ?」
『その時は技術巻物がなくなって終わるね』
「なくなるだけ?」
『なくなるだけ』
「マジか、絶対やめとこう」
『その方が賢明だねぇ。さぁ、これでチュートリアルはおしまいだけど、他に聞いておきたいことはあるかな?』
「聞いておきたいことか。……そうだ、君に名前はあるのかい?」
『僕の名前?そんなの聞いてどうするのさ?』
「どうもしないけどな。このゲーム始めて初めて会ったやつだし、名前くらいはと思ってな」
『……そう』
「聞いたら不味かったか?」
『不味くはないよ。少しビックリしただけだからね。そうそう僕の名前だったね?僕はミラード、アストラッドにおける守りの神さ。名前を聞いてきたのは君が初めてだね』
「えっ神様だったのか?」
自分は神だという光の玉の暴露にビックリしながら俺は光に包まれていく。
『また、アストラッドで会えればいいね。バイバイ』
その言葉を最後に俺の目の前はホワイトアウトするのだった。
『エージュ君か、面白そうな子だね……。そうだ、こっそりプレゼントを送っておこう。彼の驚く顔が楽しみだよ』
ミラードがポツリと呟いて今まで二人のいた空間はかき消えていった。