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約束

「あのお団子取りの夜の約束を忘れたの?」


「宣人お兄ちゃん!」

 柚希ちゃんが思い詰めた表情で俺に問いかける……


 お団子取りの夜?

 俺は何故、幼い頃の時の記憶を封印してしまったんだろう……


 あの夜に一体何があったんだ?


 記憶の仄暗い淀みに、俺は深く深く沈み込んでいく、


 あの村一番の柿の木が真っ先に、俺の脳裏に浮かんできた……


 そして水色のワンピースを着た少女が佇んでいた、


 ゆずき、柚希、その名前を口腔で転がすように呟いた……


 一瞬で俺はあの頃の少年時代に戻っていた。


 胸は早鐘の様に、ドクン、ドクンと脈打ち、

 両頬が赤くなるのが自分でも分かった……


 彼女を目の前にするといつもこうなんだ、

 まだこの感情が恋だとは気がつかないほど、俺は幼かった、

 今だったらハッキリ理解出来る、

 俺は柚希が好きだ……


 彼女の何気ない仕草、困ったように笑う癖、

 その頬に片方だけ、浮かぶえくぼ

 彼女の全てが愛らしかった……


 だけど気持ちとは裏腹に、俺はぶっきらぼうな態度をしてしまう。


「何だよ、早く言えよ!」

 さも、お前なんかと話すのは面倒くさい言う体を装う俺、


「お団子取りが済んだら、二人っきりで出掛けられるかな?」


「二人っきりって、何処に行くの?」

 さっきの偉そうな態度から、急にキョドる


「内緒……」


「宣人お兄ちゃんには、絶対見せたい物なの……」


「……」

 何も言えない俺、二人っきりで女の子と出掛けるなんて、

 妹の天音以外では初めての事だ。


 彼女が微笑む、リップクリームのせいで桃色に彩られた唇、

 その口唇からこぼれる白い八重歯が目に焼き付いた……


「柚希、精一杯おめかししていくね」


「えっ!何で?」

 俺は間抜けな質問をしてしまう、


「もちろん、宣人お兄ちゃんの為だよ」


「じゃあ、お稲荷さんの前で待ち合わせね!

 他のみんなには内緒だよ……」


 また困った様な笑顔に戻る彼女、

 急に照れながらその場を立ち去る……

 水色のワンピースの裾が軽やかに脈動する様を、

 俺は呆けたように見送るしか出来なかった……

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