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ティーチ・ユア・チルドレン

「俺、弥生ちゃんの事がす……」

 言いかけた次の瞬間、目を閉じていた弥生ちゃんが、

 いきなり湯船に顔を突っ伏してしまった。


「や、弥生ちゃん!」

 ブクブク沈みこむ彼女の顔を慌てて支える、

 弥生ちゃんの身体には力が入っていない状態で、どうやらお風呂にのぼせて

 しまったみたいだ……


「弥生ちゃん! 大丈夫、しっかりして!」

 気絶状態の彼女をどうして良いか分からず、オロオロする俺、


 とにかくジャグジーから出ようとするが、全身から脱力している女の子を

 持ち上げるのは結構、大変な作業だ。


 誰か、助けを呼ばなければいけない、

 周りを見渡すが、俺達二人以外、誰も居ない……


「誰か助けてください!」

 思い切り叫んで助けを呼んだが、誰も答えてくれない、


 やっぱり駄目か……

 諦めかけた、その時、

 不意に声を掛けられた、


「小僧、どうした?」

 広い温泉エリアの頭上から声が響いてくる、


 この声は本多会長!

 さよりちゃん奪還作戦の時と同じで、天井のスピーカーから

 声が聞こえてきた……

 こんなとこまでモニタリングしているのか、本多会長は?

 でも今回は助かる、


「本多会長! 助けてください、弥生ちゃんが気絶しているんです」


「よし、部下を救援に向かわせよう」


 しばらくして女性の救護班のスタッフが到着してくれ、

 弥生ちゃんを担架に乗せ、連れて行ってくれた、

 一緒に行こうとする俺に、またもや頭上から声を掛けられる、


「小僧、女の子の介抱だから、男のお前は遠慮しておけ」


 本多会長の言うとおりだ、、着替えもあるだろうから、

 俺がついていっても弥生ちゃんに悪いだろう……


「結構、気配りが出来るんですね……」


「年寄りと思って馬鹿にするな、若い頃はフェミニストの

 真ちゃんと呼ばれていたんだぞ」


 本多会長の口から意外な言葉が出る、


「フェミニストの真ちゃん、そうなんですか……」

 神妙な顔つきになった俺に会長が続ける、


「馬鹿! 冗談だよ」


 以前の怖い会長のイメージとは違い、こんな冗談も言える人だったのか……

 お茶目な所もあるんだな。


 そういえば天音が言ってたっけ、


「真一郎くんって本当に面白いんだよ!」

 あの肖像画事件の一件で仲良くなった天音は、本多会長の違う一面を

 知っていたんだな……

 誰かが言っていたっけ、人の印象はある一部分しか見ていない、

 あくまで俺の視点でしか見ていない本多会長にも、

 色んな人生のストーリーがある、経営者としての厳しい側面、

 さよりちゃんに対する孫娘への優しい側面、その人が重ねてきた

 年輪のような物がある


「小僧、男同士で話したいことがある、最上階のコントロールルームまで

 来れるか?」

 本多会長が俺に何の話だろうか……

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