心の旅
「先輩は麻理恵さんと、お付き合いしているんですか?」
俺とお麻理が付き合っているって?
一瞬、弥生ちゃんの言っている意味が理解出来なかった……
思わず、弥生ちゃんの表情を伺ってしまう、
「ごめんなさい、困らせるような事を言って……
でもはっきり聞きたかったんです、先輩の気持ちを」
弥生ちゃんが真剣に俺を見据える、
彼女の想いが伝わってくる……
お麻理との関係は幼なじみに加え、身内のような関係性で
異性としては今まで意識した事は無かった……
俺と天音、お麻理でいるのがあたりまえだった。
「弥生ちゃん、俺……」
「先輩は気が付いていないかもしれませんが、麻理恵さんが
プールサイドに現れた時、感じてしまったんです……
先輩と麻理恵さんが、お似合いのカップルなんじゃないかなって、
私の入り込める場所なんてない……」
弥生ちゃんのプールサイドで見せた悲しげな表情の意味が
今、理解出来た……
俺とお麻理が付き合っていると勘違いしていたみたいだ。
「私、すっごく性格悪い事、聞いてますよね……
でも、こんなわがまま言うのは先輩に関してだけなんです」
普段は控えめな彼女が、こんなに真剣になる位、
俺の事を考えてくれている……
弥生ちゃんが、湯船で上気した頬に堪えきれず、涙の軌跡が流れた、
俺は思わず、彼女の涙を指先で拭っていた……
「猪野先輩……」
弥生ちゃんが頬に触れられて、驚いて顔を上げる、
次の瞬間、彼女をそっと抱きしめていた、
自分でもその行動に驚いてしまった……
「悲しい想いさせたみたいで本当にごめん……」
「猪野…… 先輩」
弥生ちゃんの身体から力が抜けるのが両腕から感しられる、
彼女が本当に愛おしく感じられたから抱きしめたくなった。
すごくシンプルな感情が俺の中に溢れてきたんだ。
この娘を守ってあげたい……
彼女の瞳に涙を浮かべさせたくない、
ここまで頑張って来れたのも、弥生ちゃんの笑顔に助けられて来たお陰だ、
天音にバイクのタンデムデートの時に言われた言葉が蘇る、
「お兄ちゃんを一番、見つめている女の子の事を、
もっと大切にしてあげて」
そうだ、俺は大事なことに気付いていなかったんだ……
弥生ちゃんの俺に対する強い想いに、
腕の中の弥生ちゃんがゆっくりと俺を見上る、
彼女の瞳が閉じられるのが分かった……
「俺、弥生ちゃんの事が……」
彼女の唇が緊張で固まった。




