イニシャル「Y」の懸想文(ラブレター)
「お茶、ごちそうさまでした……」
朝霞部長に挨拶をして、歴史研究会の部室を後にする。
結構話し込んでしまったようで、外はもう薄暗くなっていた。
「さあ、これからが大変だぞ……」
部員捜しもあるが、大会へのエントリー期限も迫っている。
天音と二人で昇降口に向かう。
天音が下駄箱の扉を開けると、大量の手紙が落ちてきた。
「またラブレター?」
困惑気味に散らばったラブレターを拾い集める天音。
俺も一緒に拾うのを手伝う。
「んっ?」
手に取ったラブレターの差出人は、全部女の子名だ……
「おまえ、男になっても相変わらずモテモテだな」
「もうっ! お兄ちゃんのいじわる……」
そうなのだ、これほどの美少年を女の子が放っておくはずが無い。
「悪い、悪い。」
笑いながら俺も下駄箱を開ける。
あれっ、手紙が入っている……
天音に隠しながら、差出人を確かめる。
そこにはイニシャルでYとしか書かれていない……
同じ苗字なので、天音と下駄箱を間違えたか?
すくさま宛名を確認する。
「猪野宣人さま」
俺で間違いが無い……
「よっしゃ!」
思わず、心の中でガッツポーズを取りながら、
天音に見つからないように鞄の中にしまい込む。
その後の天音との帰路は、うわの空で良く覚えていない……
天音との雑談に、生返事で答えながら、
頭では家に帰って、一刻も早く手紙を読みたいと
そればかり考えていた。
自宅に着き、一目散に自室に駆け上がり、
鞄から取り出したラブレターを開封した。
薄いピンクの便箋に、女の子らしい丸っこい文字が目に飛び込んできた。
「前略
猪野先輩、初めてお便りします。
突然の手紙で驚かしてしまったらごめんなさい……
先輩は私のことを、あまり知らないと思いますが、
私は先輩の事をいつも見ています。
あっ、でもストーカーとかじゃないから安心してください。
先輩に近しい、ある人とのやりとりを遠巻きに見ています。
その人から、いつも先輩の話は聞かされていて、
勝手に私も、親近感を感じていました。
私には兄弟が居ないから、こんな優しいお兄ちゃんが居るって、
うらやましいなと思いました。
何時しか、先輩の存在が自分の中で大きくなって来ました。
こんな事言うのは生まれて初めてだけど……
私のお兄ちゃんになって欲しいけど、それはある人に悪いので、
お兄ちゃんじゃない、それ以外の存在。
えっと、恥ずかしいけど
勇気を出して言っちゃいます……
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先輩の彼女にしてくれませんか?
手紙を握りしめながら、
しばらくベットの上で放心状態だった……
無性に喉が渇き、何故か胸が苦しくなった。
もう一度、封筒の差出人を確かめる。
イニシャルY……
誰だろう?
心当たりが無い……
誰かのいたずらじゃないよな?
興奮のあまり、ぶつぶつ独り言を話す俺に、
隣の部屋の天音が、壁越しに声を掛けて来た。
「おにいちゃん、大丈夫、何か心配事でもあるの?」
焦りながら手紙を隠す俺。
「大丈夫、大丈夫、何でもないよ」
「そう、それならいいけど……」
ふう、何とか誤魔化せた……
急いで手紙の続きを読む。
「PS
明日の放課後、校舎屋上で待っています……」
明日、屋上で手紙の主と会える。
俺はまだ見ぬ可憐な少女を夢想した。