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学園一美少女な俺の妹が突然男装女子になった件。  作者: Kazuchi
春を呼べ

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遊びやせんと生まれけん

 太平洋に面した恋人達の白いベンチに腰掛けて、俺達は時間が経つのも忘れて、

 色々な事を語り合った……

 この場所では何故が自分を飾らず、弥生ちゃんにありのままの自分を

 伝える事が出来た、

 今後の歴史研究会の事、さよりちゃんの事、ただ、あの肖像画の事は

 これから訪れる最終目的地の事を思うと、話題に出せなかった……


 陽射しも傾いてきて、海からの風は、かなり肌寒く感じる、


「弥生ちゃん、そろそろ戻ろうか?」


「はい…… 風邪引いちゃうといけませんからね、

 でも、先輩とこんなに二人で話せたのは、初めてなので嬉しかったです」

 彼女と俺も同じ気持ちだ……

 今まで、俺は何処か無理していたみたいだ、

 歴史研究会の問題を全て、解決しなければいけないと、

 意固地になっていた気がする。


 弥生ちゃんの笑顔が、俺の綻んだ気持ちを修復してくれる、

 この時間がずっと続けばと思ってしまう……

 でも、俺には最後に確かめなきゃいけない、あの場所がある。


 今回の最終目的地だ……


 全てを語り尽くした俺達は無言でバイクに跨がる、

 これから訪れる目的地が、今の俺にとって重要な場所だからだ、


 子供の頃、天音の母方の知人が経営している関係で、

 その場所は夏の定番の我が家の避暑地だった……


 灯台から出発した俺達の乗るバイクは元の来た道を少し戻るルートだ、

 南総最大の観光都市に近い海岸に、その記念碑は変わらず佇んでいた。


 目的地が近い、記念碑を紹介する看板が手前に見えてくる、

 細い海岸に降りていく道、その場所に俺は子供の頃の記憶が蘇ってくる、



 昭和の美の鬼才、内藤純一、終焉の地。


 純一が療養していた別荘はもう取り壊されている、

 彼の晩年は、決して恵まれたものではなかった……


 ひなびた漁村に療養していた純一は、その生きた証を残すがごとく、

 精力的に作品作りに没頭していたようだ、


 それは以前の挿絵に見られる、美麗な女性画ばかりではなく、

 男性をモチーフにした作品も多く散見された。

 晩年は人形制作が純一のライフワークだった……

 少年と青年が並んで立つ人形は、伏し目がちな青年と、天真爛漫な少年の

 表情の対比が素晴らしいコントラストを生む、

 その作品は一説にバイセクシャルの噂もあった純一の真骨頂だった。

 純一の作品集で、その人形を見たとき、俺は恥ずかしい気持ちになったんだ。


 何故、俺は変わることをこんなに恐れているんだろう……

 タブーに挑戦する純一のようなむき出しの気持ちは出せないのだろうか?


 天音が男装で現れた、あの日のように……

 その出来事は、俺を一瞬で、暗い悩みの連鎖から解き放ってくれたんだ。

 俺のちっぽけな悩みなんか、軽々と越えて来た天音の変身……


 俺は子供の頃の記憶を呼び起こしてみる、

 まだ、幼い頃の俺と天音、この場所は猪野家の夏の避暑地だった、

 天音が石碑にかかれてた詩をメロディに置き換える、


 天音のおばあちゃんが子守歌によく歌ってくれたそうだ。

 その天音の歌声に俺は聞き惚れていた事を思い出した……


 天音の歌は今でも良く覚えている、それを替え歌にして幼い兄妹は

 はしゃぎながら飽きずに口ずさんだ。


「美しい花の佇まいは一朝一夕に作られた物では無い……」

 その美しいフレーズは俺の脳裏に焼き付いていた。


 内藤純一、終焉の地、それを記念して建てられた記念碑、

 その石碑に刻まれた文字を指でなぞりながら、俺は一言一句を思い出している。


 俺は石碑を前にして、その場に思わず跪いていたんだ……

 膝が汚れる事も気にせず、その言葉の意味に圧倒されてしまった。


 美を追究した一人の男の生き様がここに存在した事を、

 その理念を後世に伝える為に、この記念碑は静かに存在している、


 記念碑の前に跪く俺を、弥生ちゃんは黙って見つめてくれていた。


 全てを理解出来なくとも、俺の思いは間違いなく彼女に伝わっていた……



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