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学園一美少女な俺の妹が突然男装女子になった件。  作者: Kazuchi
春を呼べ

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RIDE ON TIME

 春と言うには汗ばむ日差しを全身に受けながら、俺はバイクを走らせていた。

 俺の住む街から一時間程で目的の場所に着く予定だ……


 いつもならバイクに乗るときは一人の事が多いが、今日は違う。

 タンデムシートに心地よい重さを感じながら、バックミラー越しの

 彼女に視線を送る、スモークシールドで表情は伺えないが、

 俺の腰に廻した両腕から、彼女の気持ちの高ぶりが伝わってくる。


「どう? 疲れてない……」


「大丈夫! とっても楽しいです」


 ヘルメットのインカムマイク越しに彼女に声を掛ける。

 バイクの二人乗りで以前は出来なかった前後の会話が、

 機器の進歩で無線でやり取り出来るようになった。

 携帯電話の通話や音楽までもヘルメットに装着した小型の機器、

 一つで可能になる。


 高速道路としては珍しい、対面通行の直線道路を俺達は、

 車体に反射する光と追いかけっこをしながら、南にバイクを走らせる。


 先行する車のブレーキランプが急に点灯する、強めのブレーキングに

 タンデムシートの彼女のヘルメットのシールドの先端が、

 俺の背中に当たってくる。

 彼女の上半身の重さが俺の背中全体に押し当てられる。


「ごめんなさい……」


「こっちこそ、急にブレーキ掛けて悪かったね」

 そのまま、彼女が俺の背中に身体を預けてくるのが判る、


「しばらく、このままで居たいな……」

 殆ど、インカムマイクに乗らない程のつぶやきが聞き取れてしまった……

 性能が良いのも考え物だ、

 俺は敢えて答えず、前方を凝視する。


 きっかけは天音の一言だった……


「お兄ちゃん、この間の朝帰りの借り、返してくれる?」


「んっ、何のことか分からないんだか……」

 しらばっくれていると、天音がヘルメットを差し出してきた。


「お父さんの無駄使いが役に立つ事もあるのね」

 差し出されたヘルメットには最新のインカムマイクが装着されていた。

 親父の趣味で購入した物だ、

 親父いわく、天音とタンデムツーリングしたくて購入した物だが、

 親の心、子不知で一度も使わずじまいの一品だ。


「弥生ちゃんと一日、デートする事。ただデートすれば良いわけでは無く、

 完璧に楽しませる事が必須条件よ……」

 たたみ掛けるように天音が、俺に訴えかけてくる。


「最近、お兄ちゃんは他の問題にかまけて、本当に大事な事を忘れているよ、

 お兄ちゃんを一番、見つめている女の子の事を、もっと大切にしてあげて」


 タンデムシートの弥生ちゃんに話し掛ける、


「今日は付き合わせてゴメンね……」


「いいえ、付き合わせたなんて、逆です、先輩から電話を貰った時、

 本当に嬉しかったんです、二人っきりで出掛けられるなんて……」


 弥生ちゃんの鼓動が伝わってくるようだ、

 バイクのタンデムは車のドライブと違い、密着度だけで無く、

 前後で呼吸が合わないとカーブでの体重移動が上手く出来ず、

 事故に繋がる場合もある、


 高速道路はほぼ、直線なので問題は無いが、この後の

 一般道ではワインディングが続く。


 その前に休憩が必要だろう、

 高速を降りてすぐにある道の駅にバイクを向かわせる、


 その場所には、有名なスポットがある、

 バイク乗りやロードバイク乗りにはおなじみの、

 ダウトバーガーがある。

 ボリューム満点のハンバーガーを食べさせてくれるお店だ、

 今日は営業中だ、前に無性に食べたくなり、バイクを走らせたら、

 定休日だった時の落胆は今も忘れない、


 弥生ちゃんに是非、食べて貰いたい、

 ダウトバーガー全部載せを……


 ヘルメットを脱いだ弥生ちゃんは、かなり疲れているようだ、

 それもそうだろう、バイクは風に当たっているだけでも疲労度が増す、


 ここで元気をチャージしたい、


 ダウトバーガー全部載せをオーダーする、

 しばらくして、トレーに載せられたバーガーが鎮座する。


「えっ! これで一人前ですか?」


 弥生ちゃんが驚くのも無理は無い、顔より大きなバンズ、

 溢れんばかりの肉汁、それを上回る野菜のトッピング、


 俺も初めて食べたときは度肝を抜かれたもんだ……


「冷めないうちに食べよう!」


「はい!」


 俺達はボリューム満点のハンバーガーにかぶりつく……

 デートは始まったばかりだ。

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