ぼくがつくった愛のうた
「ただ、お祖父様の書斎なら何か分かるかも……」
さよりちゃんが歴史研究会に入部出来るように、
何か解決の糸口になれば良いんだが、俺達で勝手に探す事は違法行為だ。
「さよりちゃん、明日は学校来れるよね?」
「はい、お陰様で体調は良くなりましたので大丈夫だと思います」
「放課後、部室に来て欲しいんだ、詳しい話を聞きたいから」
一度、今後の対策を相談する必要がありそうだ。
「お祖父様に気付かれないよう長時間でなければ……」
お祖父さんに厳しく時間管理されているんだろう、
「じゃあ、お昼休みに中庭で集まろうか、それなら時間も取れるし」
「中庭ですね、了解しました」
良くお弁当を食べる憩いの場所だ。
みんなで集合する約束をして、さよりちゃんとの電話を終えた。
まだ分からない事が多い、本多会長は何故、天音の掲げる制服自由化を
強固に反対するんだろう?
そして孫娘である、さよりちゃんの歴史研究会への入部も認めないのか。
「猪野先輩、大丈夫ですよ、絶対にさよりちゃんを入部させてみせます」
俺の不安な様子を察してくれたのか、弥生ちゃんが励ましてくれる。
「だってメイクの練習会の時、大事な約束しましたから……」
「えっ、何の約束?」
「それはガールズトークなので、先輩には教えられません」
弥生ちゃんが指を口元に当て、内緒のジェスチャーをしてみせた。
約束って何なんだろう? 俺に関係ある事かな。
天音がそんな俺達を微笑みながら静かに見つめていた、
夕暮れの日差しが車の窓越しに差し込んできた、
夕陽に照らし出された笑顔が、あの肖像画の微笑みと重なった……
帰宅すると、珍しく親父が先に帰っていた。
何やらリビングで作業をしていた。
「親父、何してるの?」
「ああ、お袋が実家の改装で、要るか要らないか分からない物を
判断して欲しいって、荷物を送って来たんだよ」
お袋とは俺のおばあちゃんの事だ、
リビングの一角にある親父の作業机一面に古い写真が広げられている。
「この写真は何?」
「それは良い機会だから、猪野家の古い写真を、
パソコンに取り込んでデジタル管理しようかと思ってな……」
確かに紙の写真は嵩張るし、劣化もするからデジタル管理は
便利だろうな、マメな親父らしい。
机に置かれた大量の写真の中で、一枚の写真に視線が止まる。
「親父、これは……」
その写真には病院の保育室に入れられた乳児を、
窓越しに見つめる若い夫婦の写真だった。
その夫婦は心配そうな表情をしていた、
「ああ、宣人の写真だよ、生後まもなくのお前は早産で、
普通の赤ちゃんよりかなり小さかったんだ……
抵抗力も弱いお前を、お父さんとお母さんは一度も抱くことが出来なかった、
心配で心配で、出来ることなら替わってやりたいと心底思ったんだ」
そんな事があったなんて初耳だ、
「生存率は五分五分で助かっても、障害が残る可能性があると。
お医者さんには言われていたんだ……」
「だからお前がこんなに成長した事を、お父さんは嬉しく思う、
これは奇跡かもしれないと……」
兄貴の葬儀を終えた夜、自分で自分を傷付けた事を思い出す。
親父の涙を初めて見たあの夜だ……
古い写真は色んな記憶を呼び起こす、まるで時間旅行のように、
あの肖像画もそんなスイッチなのかもしれない……




