ダンシングドール
危ない所だった……
天音の掲げる制服自由化に一番反対の狼煙を上げているのが、
何と、さよりちゃんのお祖父さんだったなんて……
深刻な顔の俺と運転席の執事さん、天音と弥生ちゃんは、
何にそんなに焦っているのか分からず、狐に摘ままれた様だ。
「お兄ちゃん、何か隠し事してるでしょう?」
天音の厳しい追及が始まる。
「そ、それは……」
しどろもどろになる俺、その時、運転席のナビゲーションに
電話の着信が入る。
執事さんがハンズフリーマイクで応答する。
「もしもし、皆さん聞こえますか?」
さよりちゃんの声だ! 執事さんがみんなで会話出来るように、
外部マイクに切り替えてくれた。
「今日はせっかくお見舞いに来てくれたのに、本当にごめんなさい、
会えない理由は、猪野先輩は分かってくれると思いますが、
私も本当は歴史研究会に入部したいんです……」
さよりちゃんが本当の気持ちを告白してくれた、
良かった、入部したくない訳じゃなかったんだ。
天音と弥生ちゃんが反応する、
「えっ! 歴史研究会に入部してくれるの?」
「さよりちゃんとなら楽しく部活動出来ますね!」
「私、天音ちゃんと弥生ちゃんに出会えて本当に幸せなの……
男性恐怖症も悩みだったけど、それ以上に怖い事があったんだ、
今までの友達の多くが私、個人じゃなくて私の家柄ばかりに
注目していたから」
さよりちゃんが今まで言えなかった想いを俺達にぶつけてくれた。
「中学の時、親友と思っていた仲良しグループの女の子二人が、
こっそり話しているのを偶然、聞いてしまったの……」
「何で私と友達になったかって、私の親がお金持ちでなければ、
あんな奴と友達にならないよって二人で嘲笑ってた、
もの凄くショックだった……」
「最低……」
「さよりちゃん、可哀想だよ……」
天音と弥生ちゃんがそれ以上、何も言えなくなる。
「それから、しばらく人間不信みたいになって、ああ、私個人なんて
誰も見てくれないのかな……って」
「家が裕福だって分からないように、学校まで車で送迎してもらうのを
やめて、電車通学にしたんだ」
「だから電車で痴漢にあっても、電車通学をやめなかったんだね」
俺の言葉に、電話越しの彼女が沈黙したのが何よりの答えだ。
「私達はさよりちゃんしか見ていないよ……
家が裕福なんて関係ない! だってさよりちゃんが大好きだから……」
「天音ちゃん、本当に?」
「私も大好きだよ、もっと一緒にメイク練習しようよ!」
「弥生ちゃん……」
「もちろん、俺も大好きだ!」
流れで俺も告白する。
「猪野先輩は私じゃなく、弥生ちゃんに告白してください」
冷静なツッコミで返される……
「えっ! 告白、猪野先輩が私に……」
あたふたする弥生ちゃん、
その様子に一同笑い転げ、泣き笑いのようになる。
運転席の執事さんまで微笑んでいる。
「さよりちゃん、一緒に部活動しようよ!」
「それは……」
途端に電話越しの声が暗くなる。
「みんなはお祖父様の厳しさを知らないんです、
あの人は孫娘の私を溺愛してくれていますが、
日本女性の作法には特に厳しいんです」
「亡くなったお祖母様も苦労したそうです、
私にだけはよく、お祖父様の愚痴をこぼしていましたから」
「何か、お祖父さんの弱点は無いのかな?」
「弱点ですか、そう言えば亡くなったお祖母様が、
一つだけあると言っていました……」
「それは何? さよりちゃん」
「お祖母様はお祖父様にお灸を据える時、その事を持ち出して、
反省させたと自慢していました」
「だけど何かは教えてくれませんでした……」
突破口になるかと思ったんだが、残念だ……
「ただ、お祖父様の書斎なら、何か分かるかも……」




