ファミリー
柚希の家からの帰路、まだ冴えない頭の中で考えた。
俺の初恋だった彼女、その結末はどうだったのか……
考えを巡らすには俺の家は近すぎた、
県営住宅から橋を渡り、左右の田園風景に囲まれた道路、
そのスロープを駆け上がると、国道にぶつかる。
国道はダンプ街道として大型車の往来も激しい、
消防小屋を横目に右折する、ここも子供の頃、良く遊んだっけ。
記憶のフタが次々に開いてくるのが分かる、
だけど、頑丈な鍵で開かない記憶もある、
開けてはいけないパンドラの箱、指先に刺さった棘のような
鈍い痛みが俺の胸に広がった……
自宅に続く細い道を駆け下り、排気音で家族を起こさないように
手前でエンジンを切り、惰性で走りながらガレージにバイクを停める。
時刻はまだ午前六時前だ。
玄関の鍵を出来るだけ音を立てずに開ける、
ドアを後ろ手で押さえながら玄関内に身体を滑り込ませる。
ふうっ、何とか気付かれなく帰宅出来た……
安堵しながら後ろを振り向くと、鬼の形相の天音が立っていた。
「うわっ!」
驚いて手にしていたヘルメットを落としてしまう、
「お兄ちゃん、おかえりなさい」
天音の声のトーンが低いのが逆に怖い。
「朝帰り、何処に泊まったの?」
うっ、未遂とはいえ、女の子の家に泊まって、
裸でベットインなんて口が裂けても言えない……
でも、寝ぼけて胸は揉んだから、完全にアウトかも。
「友達の自転車が壊れ、困っていたのをバイクで送ってやったんだ」
全くの嘘では無い、女の子という部分はカットしたが……
「じゃあ、何で一本電話くれないの、バイクで事故でも起こしたのかと、
お父さんとすっごく心配してたんだよ」
天音の言うとおりだ、バイクで出掛けて帰ってこなければ、
最悪の事態を考えてしまうだろう、
「本当にゴメン、心配掛けてしまって……」
天音が深い溜息を漏らしながらうつむく、
「本当に無事で良かった……」
やっといつもの笑顔を見せてくれた。
「これからは気を付けるよ、天音に一つ貸しな……」
両手を組みながら合掌土偶様の、決めポーズでおどける
「わかった! 後日命令するから、覚悟しておいて」
天音の命令は過去を振り返ると、結構、鋭い物が多い。
「身体で払うのだけは勘弁して……」
自分の胸の前で腕を組み、両胸を押さえながら、イヤイヤをする。
「馬鹿! そんなの一番要らない」
天音がみるみる真っ赤になり、玄関に転がるヘルメットを投げつけてくる。
調子に乗りすぎたようだ、ヘルメットを上手くキャッチしながら、
天音の横をすり抜け、階段を駆け上がる。
普段の日常が戻ってきたのが嬉しく感じられた、
そんな今朝の出来事だった……




