とまどうペリカン
火葬場に向かう長い車列。
霊柩車の長いクラクションが滑稽に感じられた……
桜の咲き乱れる季節の、皮肉にも彼岸開けの一日前だった……
俺は全ての感情を無くしていた、眼に写る光景が何だか自分自身の
身体ではない場所から眺めている気がした。
入棺の際、火葬場の係員の女性のポケットに入れた携帯電話が、
デコらているのが、厳かな場所にそぐわず、妙に可笑しかった。
更にそういう事を今、考えてしまう自分にまた腹が立った。
兄貴の骨は、まだ若いからなのか、かなり原型を残していた……
骨壺に入り切らない骨を係員が、無理矢理押し込んでいる様が、
自分の想いを断ち切られるようで辛かった。
次の瞬間、人間は本当にショックを受けると、
回路をシャットダウンするみたいに
気絶するという事が初めて分かった。
俺はその場に倒れこんていた。
その後の記憶は殆ど無い……
通夜の時、兄貴の両親に会った。
俺は一度も顔を上げる事が出来なかった……
お前のせいだと、俺を責めてくれればどれだけ楽だったろうか。
しかし、叔父さんと叔母さんは俺にこう言った。
「宣人君、真司はいつも君の事ばかり話していたんだよ。
俺に本当の弟が出来たって……」
何故だろう? 涙が出ない……
俺の中で感情が壊れてしまったみたいだ。
叔母さんが続ける。
「真司の分も、どうか生きてやってください……」
その言葉を聞いた瞬間、誰かが悲鳴を上げるのが聞こえた。
違う、これは俺の身体から出たんだ……
「うぁあぁ!」
それは俺の嗚咽だった。
その後、自宅に帰った俺は、自室に篭り、自分自身を傷付けた。
兄貴の居る場所に一刻も早く行きたかった……
次、眼が醒めたとき病院のベットに居た。
傍らには親父が心配そうに佇んでいた。
「死なせて欲しかった……」
俺が横を向きながら親父に懇願した。
親父が静かに語り始めた。
「宣人…… お前は亡くなった前の母さんが残してくれた宝物だ。
お前まで失ったら、父さんはどうやって生きていったらいい?」
親父の涙を初めて見た……
ずっと大きいと思っていた父の肩が妙に小さく、頼りなさげに見えた。
親父の涙を見た時、少しだけ胸の中に光が差し込んだ気がした……




