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エンドレス スプリングⅢ

「兄貴! 助けてくれ……」


 遙か遠くに流れるボードを視界の隅に捉えながら、

 自分の体力の限界を感じた、

 深く、暗い海面下に沈みこみながら、意識が遠のいてくるのを感じる。

 もう駄目だ、と観念したその時、眼前を白い影が勢いよく横切る。


「宣人、俺のボードに掴まれ!」


 兄貴だ!

 俺の異変に気が付き、駆けつけてくれたんだ……

 涙で視界が曇る、いつも俺の窮地には兄貴が来てくれたっけ。

 今回も助けられたんだ、やっぱり兄貴には敵わない……


 中学一年の時、俺が駅で不良に絡まれた時も、兄貴が颯爽と現れ、

「俺の弟分に手を出すな」って、

 一瞬でゴロつき共を一掃してくれた。

 あの頃から兄貴は俺のヒーローだった……


「宣人、お前はもっと強い男になって、天音ちゃんを守ってやれ……」

 兄貴は俺に良くそう言った。

 その頃は意味が分からなかったが、今は良く理解出来る。


 従兄弟の兄貴は、俺達、兄妹の関係を俯瞰で見てくれていた。

 俺と血の繋がらない関係である天音の深い部分である悩みを、

 兄貴は理解して俺にそう言ったんだ。


 お麻理にも、兄貴は冗談っぽく、

「宣人は色々めんどくさい奴だから、麻理恵ちゃんしか、

 手に負える女の子は居ないから、これからもこいつをよろしく頼む」

 って、茶化していたっけ……


 当時のお麻理の気持ちに気が付かない鈍感さが

 哀しくも可笑しくもあったのだが。


 あの事件が起きる前夜、俺と兄貴はゲレンデの浜辺でテントを張り、

 二人っきりで満天の星空を眺めていた。


「宣人、お前は将来、何になりたい?」

 兄貴がグランドシートの上に寝そべりながら問いかける。

 眼前にはこぼれ落ちそうな星空が広がっている。


「兄貴はどうなの?」

 俺が逆に質問する。


「俺は世界的なウィンドサーファーになりたい、

 あのロビーナッシュみたいな、レジェンドライダーを目指すよ」

 ウィンドの歴史を作ったと言われる帝王ロビーの事だ。


「お前は俺なんかより、まだまだ伸びしろがあるんだから、

 貪欲に吸収してみろよ。」


「俺が、兄貴より上手くなるって事?」

 そんなことは到底想像出来ない。


「そうだ、お前はまだまだ上手くなる、それは俺が保証する」

 兄貴に言われると、何だか出来そうな気になってしまう……


 しばらく、俺達の間に沈黙が訪れた。

 実際は数分だったかもしれないが、とても長く感じられた。


「宣人、もっと速くなろうな……」

 兄貴が星空を見上げながら呟く。

 次の瞬間、流れ星が一筋の軌跡を描きながら虚空に消えていった……


 その時の俺は、兄貴との関係が永遠に続くと思っていた。

 だけど永遠なんてなかったんだ。

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