表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学園一美少女な俺の妹が突然男装女子になった件。  作者: Kazuchi
朝日のようにさわやかに

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/230

エンドレス スプリング

 あの頃、俺達はいちばん太陽に近い存在だった……


 道具の置いてある艇庫から、リグとボードを運び出す。

 砂浜の手前の芝生で、ゲレンデの風域に合わせたセイルのセッティングをする。

 風向きはクロス気味のサイドショアだ。

 この後、風が強くなるのを想定して、アンダー気味のサイズのセイルを

 チョイスした上で、ボートは海面に合わせ短めの板を用意する。


 俺達のやるスポーツ、ウィンドサーフィンとは、長めのサーフボードにリグと呼ばれる

 小型のセイルを取り付けて、ヨットよりも手軽で、

 サーフィンで面倒な沖に出ると言う動作を、風を動力として

 簡単に出来る様にしたマリンスポーツだ。

 自由に海面を滑走出来るこのスポーツに俺達は夢中になっている。


 このゲレンデに合わせてフィンは後傾した物をセットする。

 手前の付近で藻が多い為、絡まってしまわない様に

 失速を防ぐ意味合いもある、


 先に兄貴がランチングする。

 一連の無駄の無い動作でビーチスタートして、早々に海面を滑走して行く。

 その姿に遅れまいと、風をセイル一面に受けながら、

 足元のストラップにつま先を入れ、ボードコントロールをしながら

 俺も弾かれた様に浅瀬を後にする。


 沖合にあるブイをマークにしながら先行する兄貴が華麗なドライブターンを

 決める。

 俺も同じラインでターンを決めようとするが、

 セイルを海面に倒し過ぎてしまい。体勢を崩し、沈してしまう……

 転倒した悔しさで、海面を左手で叩く俺を尻目に、

 兄貴が、笑いながら声を掛けてくる。


「宣人、お前はセイルを倒すのが早すぎなんだよ。

 もっと前足の踏み込みを意識してからターンしてみな」


 沈した状態からセイルをリカバリーポジションにして、

 素早く、再スタートする。

 ブームと呼ばれるバーに取り付けられたハーネスに、

 全体重を掛けながらセイルを引き込み、トップスピードに持ち込む。

 それでも先行する兄貴には追いつけない……


 その差はどんどん開いていく。


「待ってくれ! 兄貴、俺を置いていかないでくれ……」


 同じ夢を何度、見ただろう……

 いつも兄貴に追いつけない所で眼が醒める。

 枕元のデジタル時計を見て、俺は慌てて飛び起きる。

 既に遅刻スレスレの時間帯だ。


 その時、玄関のインターフォンが鳴る。

 誰だろう? こんな時間帯に……

 天音や親父は、先に出掛けてしまったようだ。

 微かな頭痛を感じながらベットから降りる……


 続けざまにインターフォンが鳴る。

 階下に降りて、玄関ドアを開ける、


「おはよう、宣人……」


 そこにはお麻理こと及川麻理恵が立っていた。

 でもいつもと何か雰囲気が違う……


「お麻理、身体の方はもう大丈夫なのか?」

 先日の入院の件を心配する。


「大丈夫だよ、念の為、精密検査もしてもらって、

 異常は無かったから……」


 そこで、トレードマークの赤いフレームの眼鏡が無いことに気がついた。


「お前、眼鏡はどうしたの?」

 お麻理が真っ赤になりながら弁解する。


「べ、別に宣人に言われたから、急にコンタクトにしたんじゃないからね!

 眼鏡が壊れちゃったから、仕方なくこれにしたんだから、

 勘違いしないでくれる……」


 確かに普段の野暮ったい大きな眼鏡が無くなった印象から、

 以前より、かなり可愛く見える。

 思わず見とれている俺に、更に照れながらお麻理が続ける。


「一応、退院後、一番にお礼を言いたかったから…… 

 宣人、駆けつけてくれて本当にありがとう」


「うん、元気になって良かった……」


 玄関の前で、二人の間に沈黙が流れるが、

 俺が今の時間を思い出し、

「ちょっと待って、急いで用意するから」

 遅刻しない様にと、急いで着替え、自宅を後にする。


 駅までの道中を急ぎながら、お麻理が、思い出した様に切り出す。


「宣人 もうすぐだね……」


 今朝は風が強い、街頭に咲く桜が大きく揺れている。

 今日で一気に花が散る可能性もある。

 お花見の見ごろも、今日までかもしれない。


「そうだな、あの日もこんな風の強い日だったっけ……」

 散って行く、桜の花びらにまで複雑な思いを寄せてしまう。


 お麻理が視線を合わせずに、ぽつりと呟く。



「宣人、あの人の命日だね……」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ