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学園一美少女な俺の妹が突然男装女子になった件。  作者: Kazuchi
オレンジのダンシング

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キミサラズの春を愛す

 俺は病院の受付で柚希の所在を確認したが、

 最初はそんな患者さん、入院してませんの一点張りだった……

 そんな筈はない、俺は確かに親父が電話で話しているのを聞いたんだ、

 例の女の子は大学病院に入院していると、親父の同僚から報告があったんだ。


「申し訳ありません、そのような患者さんは当病院には該当がございません」

 受付の制服を着たキレイなお姉さんはそう言った、

 口調は小学生の俺にも丁寧だが、取り付くしまもない感じだ、

 確かにセキュリティの観点から、そのような固い対応なのだろう、

 これだけ規模の大きな病院だと、不審者や詐欺、盗難目当ての輩も多いと聞く。


「確かにここに入院している筈なんです! もう一度確認してくれませんか?」

 俺は食い下がった、その態度に気圧されたのか、

 受付のお姉さんは内線電話で、どこかに連絡をして、

 しばらく会話した後、俺にはここで待つようにとロビーの椅子に案内された。


 警備に連絡されるとマズい事になるかな、と俺は内心考えた、

 小学生が平日のこの時間に学校に行かず、ここに居るのは不自然だからだ。


「よう! 誰かと思えば宣人君じゃないか……」

 しばらくして突然、後ろから声を掛けられた、

 振り向くと白衣を着た恰幅の良い男性が立っていた、


「臼井先生! お久しぶりです……」

 その男性は医師で、父の古くからの友人でもあった、

 俺の事も良く知っているのは、家族ぐるみの付き合いもあるからだ。


「先生じゃなく、臼井のおじさんで良いよ!

 あれっ、今日、学校どうしたの?」


 ヤバい、何とかこの場を切り抜けなきゃ!


「あ、ああ、今日は創立記念日で休みだから、友達のお見舞いに来たんだよ」

 咄嗟に辻褄の合う良いわけを考えてみた、満面の作り笑いが我ながらわざとらしい。


「そうか! 友達のお見舞いなんて感心、感心!」

 おじさんが単純で良かった……


「臼井先生、お話中、すみません……」

 受付のお姉さんが俺達の間に割って入る、

 どうやら臼井のおじさんに経緯を説明しているようだ。


「二宮、柚希?」

 柚希の名前を告げられ、今までにこやかだったおじさんの表情が険しくなる、


「宣人君、お父さんからどこまで聞いているんだ?」

 おじさんの言っている質問が、咄嗟に理解できなかった……


「えっ、どこまでって、お父さんは柚希の事、何も教えてくれないよ……」

 俺の言葉に、臼井のおじさんがじばらく考え込む素振りをみせた、


「状況を打破できるかもしれないな……」

 おじさんが独り言のように呟いた言葉を俺は聞き逃さなかった。


「臼井のおじさん! 柚希は何処なの? ここにいないって言われたけど、

 どうしても会いたいんだ! 会って話さなきゃいけない事があるんだ……」

 子供の頃から知っているが、おじさんがこんなに表情を曇らせ、

 考え込むのを初めて見た、何か隠さなきゃいけない事があるのか?


「宣人君、二宮柚希さんはここにはいない……

 いや、正確にはこの建物にはいないんだ……」

 一体、どういう意味だ、この大学病院は巨大な建物で、別棟は無い筈だ。


「宣人君、秘密は守れるな、約束してくれ!」


「はい、約束出来ます、柚希に会えるのなら……」


「私についてきてくれ……」

 おじさんが胸ポケットから見慣れない機械を取り出した、

 黙って後をついていく、おじさんは無言のままだ、

 メインホールのエレベーターには乗らず、

 その脇に設置された非常階段の重いドアを開け、

 一緒に階段を降りていく。


 初めて見るが、緊急の災害に備え、自家発電の装置室が最深部にある、

 災害時に長期の停電になっても入院患者さんが困らないとの配慮だ。


「おじさん、どこまでいくの、もう地下はないんじゃない?」


「宣人君、普通に生きていたら知らなくて良いことは沢山あるんだよ、

 まあ、大人になったら嫌でも分かると思うけど……」

 そう言いながらおじさんは、意味深な微笑を浮かべ、俺の頭を撫でた。


 おじさんは先程の機械を取り出した、表の透明なカバーを開けると、

 計算機のお化けみたいな無数の操作ボタンと、液晶画面がならんでいた、

 電気屋さんでも見たことのないメカに、俺は興味津々だった……

 それをおじさんは慣れた手付きで操作しはじめた。


「カメラに認証してください……」

 合成音声が流れ、おじさんが一歩前に踏み出す、


「顔認証、確認できました……」

 続けて合成音声と共に、巨大な発電機械ごとせり上がり、

 さらに地下への入り口が現れた、俺は目を白黒させて驚いてしまった、

 まるで変形ロボットみたいだ!


「宣人君、この下に君の友達が収容されている……」


「二宮柚希……君」

 大学病院の地下、そこには俺の知らない秘密が隠されているようだった、

 まるで勝ち目のないダンジョンに、向かうスキル最低の勇者のようだ……

 冷たい風がこちらに向かって流れてくるのを頬で感じる、


 その時、躊躇している俺の耳に確かに聞こえたんだ……


「宣人お兄ちゃん!!」

 空耳だったかもしれないが、俺の気持ちは固まった

 柚希が待っているんだ! 

 存在しない筈の地下、レベルゼロに俺は足を踏み入れた……









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