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学園一美少女な俺の妹が突然男装女子になった件。  作者: Kazuchi
オレンジのダンシング

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213/230

A面で恋をして

 僕たちは傷つけながら大人になっていく……


 子供の頃、学校をさぼって隣町まで出掛けた事があった、

 親父にも天音にも、内緒だった理由は何だったっけ?

 それまで皆勤賞だった俺が、どうして学校に行かなかったのか、

 まったく変わりの無い朝、ただ何となくエスケープしてしまったんだ。

 後で理由付けするなら、俺は変わりたかったのかもしれない……

 いつもの通学路と反対方向に向かう、

 一駅隣まで行くのが、小学生の俺には大冒険だった、

 乗り慣れない路線バスに乗り込み、誰かに見つからないか、

 ドキドキしながら座席に隠れるように滑り込んだ。


 隣町には有名な大学病院があり、県内有数の高度医療が受けられる、

 その為、県外からの来院も多く、そこまでの国道も朝から混雑するんだ。

 路線バスも渋滞の長い列に飲み込まれていく、

 俺は所在なげに窓の外を眺め、リュックからある物を取り出す、

 赤黒ツートンのごつい外観、携帯カセットプレイヤーだ、

 親父から譲り受けたレトロな一品だ、今はデジタルに取って変わられたが、

 不思議と俺はこのプレイヤーの音が好きで、寝るときも愛用している、

 朝起きた時、イヤフォンのコードが首に絡まったりして

 ひどい事になるのはお約束だ。


 イヤフォンを片耳に入れ、再生ボタンを押す、

 曲が流れ始め、イントロ無しで女性ボーカルが歌い始める、

 その刹那、ここに居る意味を理解した……

 四角い筐体にはイヤフォンを刺す穴がもう一つある、

 今では過去の遺物だが、携帯カセットを譲り受けた際に、

 親父が若かりし頃、大好きな女の子とペアで

 音楽を共有する為に二つあったんだって、

 大切な思い出を懐かしむように俺に教えてくれたんだ、

 その時は何も思わなかったが、そのアナログな行為を

 まさか自分がやるとは夢にも思わなかった……


 カセットも親父様指導のもと、自作でダビングした、

 俺の申し出に、親父も乗り気で協力してくれた、

 親父の書斎に入ると、壁一面のレコードコレクションの中から、

 お勧めを何枚かピックアップして、ターンテーブルに載せる、

 レコードプレイヤーに赤いダブルカセットを繋ぎ、録音を開始する。

 どうせなら当時物だ! 俺には意味不明な事を口走りながら、

 親父は古びた雑誌を差し出してくれた、

 ポップな表紙の雑誌は、八十年代のFM情報誌だった。


「宣人、特別にこれをやろう、オリジナルカセットレーベルだ!」

 表紙より更にポップな絵柄で夏の景色が描かれていた、

 俺は初めて見るタッチが新鮮に見えて、その日からお気に入りになったんだ。


 親父と作った一本のカセットテープ、世界に一つしかない、

 オリジナルメドレーだ、俺はこれを一番誰と聞きたいのか?


 真っ先に浮かんだ女の子は……

 突然、俺の前から姿を消してしまった、親父はその件については

 何も教えてくれなかったが、仕事の電話などから漏れ聞く情報を

 断片的につなぎ合わせ、子供ながら俺は彼女の居場所を突き止めた。


「宣人、将来、このカセットをお前の大切な人と聞く時は、

 A面の五曲目に気持ちを伝えるんだ」

 親父が自信満々で完成したカセットを手渡してきた、


「お父さん、何で五曲目なの?」


「ふふっ、それはお父さんがお前のお母さんと初デートした時、

 その曲で上手く行ったからだ、忘れるな、五曲目だぞ!」


 真面目に聞いて損した気分だが、親父のなれそめを聞いて

 亡くなった母親の若い頃を想い、暖かい気持ちになった……


 軽い振動と共に、バスが目的地に到着した、

 慌てて荷物をまとめ、大学病院の受付に向かう、

 開始時間早々だと言うのに、受付前のロビーは外来の来客で混雑していた、

 俺は受付に向かい、面会の名前を告げた……


「二宮柚希さんは、こちらに入院していますか?」

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