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学園一美少女な俺の妹が突然男装女子になった件。  作者: Kazuchi
オレンジのダンシング

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ひとりあやとり

 それは一本の着信から始まったんだ……


 俺は歴史研究会の合宿で、花井姉妹の実家である天照寺に来ていた。

 もちろん土偶男子フェスでの完全優勝が目的だ、

 合宿の内容は部員の俺達にも知らされていなかった、

 紗菜ちゃんと香菜ちゃんの父親である花井住職、

 住職が優勝請負人だと、顧問の八代先生はそれだけ教えてくれた。

 しかし予想に反して、住職が俺達に命じた課題は掃除だった……

 ダンスパフォーマンス向上の修行と身構えていた俺達は、

 すっかり拍子抜けしてしまったが、香菜ちゃんとペアになり、

 天照寺名物、雑巾がけの長廊下掃除や、他の部員達が行った

 境内の掃除に花井住職の真意、作務の教えが込められていたんだ。


 長い一日の修行を終えた心地良い疲労の後、香菜ちゃんは

 天照寺に代々伝わる巫女舞で、俺に大会優勝へのヒントをくれたんだ、

 お互いに優勝を誓い合った一夜が明け、俺は天音達と朝食の最中だった。


 ポーチに入れてあった携帯が振動して着信を知らせる、

 スマホのロック画面に表示された相手は……


「もしもし、沙織ちゃん、合宿中にゴメンね、

 掛けようかどうか迷ったんだけど……」

 電話の相手は萌衣ちゃんだった、どうしたんだろう?

 いつもの彼女と様子が違う……


「おはよう、萌衣ちゃん、何かあったの?」

 萌衣ちゃんも歴史研究会の合宿日程は知っている筈だ、

 だだならぬ雰囲気が電話越しからも伝わってくる……


「宣人さんと至急、連絡取れないかな、

 携帯に掛けても全然、繋がらないの……」


 宣人の携帯に繋がらない、それは当然だ、

 今、女装男子として、俺は沙織ちゃんになっているから、

 整合性を取る為に、宣人は大学病院で入院中になっているんだ。


「どうしたの萌衣ちゃん、宣人さんに急用でもあるの?」


「電話では長くなるから、詳しくは話せないんだ、

 ゴメンね、でも……」

 気丈な萌衣ちゃんが言葉に詰まってしまう……

 事態の重さが伝わってきた、


「萌衣ちゃん! 大丈夫? 私で良かったら相談してくれないかな」


「沙織ちゃん…… ありがとう、私、どうしたらいいか不安で……」

 こちらの問いかけに、彼女も我に返ったようだ、


「今、何処にいるの、自宅、学校?」


「う、うん、萌衣が居る場所は……」


 大事な合宿の最中だぞ!冷静な思考の俺が頭の中でつぶやく、

 どうする? 俺。


「沙織ちゃん!」

 隣で俺の一部始終を見ていた天音だった。


「ここは私達で何とかするから、行ってあげて!」


「えっ! 天音ちゃん、何で分かったの……」

 天音は敢えて語らず、大きくうなずいた。

 やっぱり、お見通しだ、俺はきっと沙織ちゃんでなく、

 宣人の表情に戻っていたんだ……

 それに気付くのは天音だからなんだ。


「大事な仲間が困ってるんだよ、絶対、行かなきゃ駄目!」


「そうですよ、沙織ちゃん! だからこそ友達なんです」


「弥生ちゃんまで…… ありがとう!」

 一緒にテーブルを囲んでいた弥生ちゃんにお礼をする。


「車を手配しますので、すぐ準備してください!」

 さよりちゃんが、携帯電話で連絡を取ってくれる、

 多分、電話の相手は本多家の執事、皆川さんだろう。


「みんな、本当にありがとう……」


「さっ、泣くのは後でいいから、急いで支度ね」

 天音が俺の肩に手を掛け、送り出してくれる。


 部屋に戻り、急いで準備する、

 本堂を出て、あの長廊下を急ぐ、


「!?」

 廊下の途中で、俺を待っている人物がいた。


「花井師匠……」

 初めて会った時の格好、手ぬぐいを頭に巻き、作業着姿、


「宣人君、何も言うな……」

 その双眸には、よりいっそう慈愛の念が込められていた、


「師匠…… ありがとうございます!」

 深く一礼をして、長廊下の中間で花井住職とすれ違う、


「南無釈迦牟尼物……」

 静かだが良く通る声が長い廊下に響いた……


 帰ってきたら、差し向かいで語りましょう、

 そして俺に色々教えてください、師匠、

 俺の父との関係、そして何故、亡くなった俺の母を知っていたのか?

 振り返らず、ハイヤーの待つ駐車場へ急ぐ、


 門の前には本多家のリムジンが既に到着していた、

 運転手が後部座席の自動ドアを空けてくれる、


 その運転席には……


「皆川さん!」

 仕立ての良いスーツに身を包んだ、ロマンスグレーの紳士、

 そうだ、俺達にはおなじみの本多家、執事の皆川さんだ。


「さあ、急いでください、さよりお嬢様から事情は伺っております」

 後部座席に乗り込み、行き先の住所を告げる、


 俺の自宅近く、県営住宅がその目的地だ、

 萌衣ちゃんが指定した場所とは……


「約束してくれる? 宣人お兄ちゃんのお嫁さんにしてくれるって」

 あのお団子取りの約束を思い浮かべる……


「柚希…… 待っててくれ!」



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