オレンジのダンシング
涙で頬を濡らして、少女は今宵も眠るのだろう……
溜息ばっかりつくと幸せが逃げちゃうって、あの人に叱られたっけ、
せめて夢の中でだけ、一緒に過ごせたらいいのにな……
そう言って少女はまた深い溜息をついてしまうんだ。
君には笑顔がお似合いだ、だけどその笑みを引き出せるのは僕じゃない……
僕がもう少し、背が高かったら君を守る傘になれたのかな?
君に降り注ぐ悲しみの雨で、その澄んだ瞳を曇らせなんかしないのに。
「!?」
喉の渇きで目が覚めた、うっかり部屋の冷房を掛けたまま、
寝てしまったみたいだ。
身体のあちこちが悲鳴を上げ、しばらくベットに横たわったまま、
身じろぎする事すら出来なかった……
壁掛けの時計は静かすぎる夜を告げていた。
俺は天井をみつめたまま、先程の夢を思い出していた、
何故、人は夢を見るんだろうか?
よく言われる諸説は、普段の記憶や体験が蓄積されて、
断片的に再生される、出来の悪いダイジェストムービーみたいに、
だけどそれが夢だったなら、自分が体験したことしか再生されない筈だ、
体験だけじゃない、過去だけでなく、時には未来も夢に現れる、
それが予知夢とよばれる現象だ、
夢で見た見知らぬ少女、だけどなんで懐かしく感じてしまうんだろう……
俺はきっと片想いしている、まだ会った事のない少女に、
そのまま深い眠りに引き摺りこまれてしまう、
もう朝まで夢は見なかった……
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「早く降りてきてください!」
階下から呼びかけられ、のろのろと部屋を出て階段を降りる。
「おはようございます!」
明るい声が食卓に響く、挽き立てのコーヒーの香りが心地良い、
開け放たれたカーテンから朝の陽射しが室内に降り注ぐ、
「パン焼けてますよ、あ、ご飯の方が良かったかな?」
気を遣う所は相変わらずだな、思わず吹き出しそうになる、
カウンターキッチンの向こうで慌ただしく朝食の用意をする
その人は……
「柚希! 俺、パンで良いんだけど……」
俺をまじまじと見つめて、何か失敗したかな?って顔を曇らせる。
「パンは二枚お願いしてもイイ?」
「ぷっ!」
何故か笑い転げる柚希に、意味が判らず怪訝な俺。
パンの枚数を指二本立てて伝えて、
期せずしてVサインを出してしまった事にやっと気がついた。
「やっぱりあの頃のままだね、お調子者な所は変わってない……」
お皿を持ちながら、俺に飛び切りの笑顔を向けてくれた、
もうあの頃の困ったような顔ではない、
だけど守ってあげたくなる所は変わらない
俺の初恋の人、二宮柚希。
「宣人おにいちゃん…… おかえりなさい!」




