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第2話 14歳

さて。私は14歳になっておりました。

そろそろ結婚相手を決める時期なのですが、私は全く乗り気にはなれません。

どうせ浮気されるのです。

顔の良い人は皆浮気するのです。

そして貴族というものは皆顔が良いのです。

なぜ私の家系は、貴族だというのに代々不細工の方が継がれているのでしょうか。理不尽です。


パーティなどにもお呼ばれするようになりましたが、皆様私を不細工だからと上から目線になります。うんざりです。

一応、結婚相手候補を探すのですが、当然のことながら皆様私に目もくれません。

むしろ、私に目をくれるような人がいたら逆に変なので疑いの眼差しで見てしまいます。

まぁ、いませんけどね。


***


お相手が決まる可能性も見出せません。

私は、自棄になっておりました。

加えて、孤児に優しくして、という案は、止めたとはいえ、エスペランサと企んでいた時は楽しかったのです。それがエスペランサを失う原因になりもしましたが、一方で結婚の絡んだ、稀にも楽しい思い出だったのです。


それらの影響で、私は、変装して町に紛れるということを隠れた楽しみにするようになりました。勿論護衛はついてきております。

正直、町民の誰にも気づかれておりません。


初め恐る恐るでしたが、今では結構細い路地もウロウロします。危険はありません。本当に駄目な場所は、先に護衛が止めて来ますから。止めてこない限りはまぁ大丈夫なのでしょう。


そして、そんな路地で、私には友人ができました。

同じ年頃の女の子です。

向こうから、声をかけてきたのです

見かけない顔だったのと、良い服を着ているから、という理由で。


私は気軽に声をかけてきたエミリが気に入りました。

エミリは私が良いところのお嬢様ということを見抜いてしまったので、正直に事情を話しました。

「貴族令嬢も苦労するんだね」

と同情してくれたのは嬉しかったです。顔立ちを馬鹿にするでもなく、対等に話をしてくれるのですから。


それから、私は町に行くと、エミリを訪ねる事も多くなりました。

お土産にクッキーを持って行くと、とても喜んでくれました。


ある日、エミリは何の気なしに願いを口にしたのです。

「私もドレスを着てみたいなぁ」


私はドキリとしました。私には、願いを叶えることができます。エミリはそんなつもりで言ったわけではないと分かるからなおさら。


私はエミリにドレスをプレゼントしたいと思いました。私の屋敷に招くのです。

だけど、エミリは私より背が低いので、エミリに合うドレスを先に見ておいた方が良いかもしれません。


***


準備も整えて、家の者にも計画を伝え、エミリを迎えに行った日です。

エミリが見つけられません。

せっかく整えたのに。探し続けていたら、エミリは捕まっていると護衛が知らせて来ました。果物を盗んだそうです。

どういうことでしょうか!


慌てて警備兵の詰め所に向かいます。

ひと悶着ありましたが、家柄が良いのでワガママをごり押し、結果として私はエミリを入れた牢に踏み込みました。

とはいえ、ずっと警備兵が私を押しとどめようと周囲を囲ってくるので、私は先に大声を出しました。

「エミリ! どこですの! 助けに来ましたわ!」


すると、色んなところで、俺も出してくれ、儂も出してくれ、私も、と声が上がるので慄きました。

怯んだのを察した警備兵が、「こんなところに来てはいけません!」と私を戻そうとします。

だけど私は嫌でした。エミリが、エスペランサのように会えなくなってしまったらと怖かったのです。


怖くて涙が出て来てしまいましたが、結局私は押し切りました。

貴族令嬢なので、警備兵は私に触れることはできません。一歩踏み出せば一歩下がるので、進むことができます。


色んなところから声がするし音がするし、大変怖くて、でも私は泣きながらエミリに向かって訴えました。

「エミリ! どうして盗みなど! もうしないって約束して!」

「お腹が減ったの! 私、見栄を張ってたけど、お金持ってないの!」

エミリが叫び返してきました。


私は、世の中の事が詳しく分かっていない貴族のお嬢様でした。

「だからって盗んじゃ駄目よ! もう会えなくなっちゃうわ」


うわぁああ、とエミリが泣き声を上げました。

つられて私も泣きました。


「盗んだら罪人、なのよ。盗まれた方は、とても辛いの!」

お兄様とお父様の事が、この時私の脳裏にありました。浮気をされたということは、妻を盗まれたと同じだと、私はエミリとそんな会話をしていたのです。その会話が思い出されたのは、私には、他に具体的に『盗まれる』という経験をしたことが無かったから。それしか考えつく事の出来ない、浅い人間です。


あまりにエミリと私が泣いているので、護衛が警備員と話をつけてくれました。

エミリは、釈放されました。

こんなに反省しているのだから、と。盗んだものの代金も、護衛が払ってくれてもいたのです。


私たちは泣きながら町に戻り、そのまま私はエミリを屋敷に招きました。

エミリを雇おう、そうお父様に頼もうと、思いました。


***


エミリにドレスを着せさせ、食事をしました。

エミリはとても驚き、戸惑いながら、次第に喜んでくれました。


ただ、父はエミリを私付きの侍女にすることを渋り、決断を先延ばしにしました。少し様子を見てから考えよう、と。

素性の知れないものを私の傍に置きたくないと父は考えていたのです。


結果として、この父の判断は賢明だったという他ありません。

私が思慮深くなかったのです。


エミリは、純粋に私と良い友人でした。

なのに、私がエミリを屋敷に招いたことで、変わってしまいました。


エミリは私に頼みさえすれば、欲しいものを手にする事ができました。初めは遠慮していたのが、貪欲に。

次第に私の持ち物をねだるようになりました。


「私の方が似合いそう」

とエミリは言い、私は密かにショックを受けながらも、頷いてネックレスなどを貸しました。

エミリの方が私よりも可愛いので、勿論ネックレスも私より似合いました。

エミリはそれを、私からもらったと判断したようで、返してくれなくなりました。


だけど、断る事が私にはできないようになりました。

エミリのようなお友達が、他にいないからです。愛想をつかして私の元を去ってしまったらと怖かったのです。


そのような状況に私たちがなってしまっていたことに、父も兄も気づきました。

そして突然、エミリは私の傍からいなくなっておりました。エスペランサの時のように。


「路頭に迷わない程度のお金を持たせて、町に返した」

と兄が私に言いました。

じっと言い聞かせるように。

私はじわりと泣きました。どうしてでしょう。

別離の悲しみと、見てくれていた事、強制的に切り離してくれた事からの安堵と。


「二度と出会ってはいけないよ。でないと、私たちは、あの子を遠くに連れ出さないといけないから。レイチェル、間違えてはいけない。あの子はもう、友達なんかじゃない。甘い汁をすおうと、私たちに群がる害虫になり果てたんだ」

兄は悲しそうな目をして、私を慰めてくれました。

そして、兄の言葉は、私自身が察していながらも、認めたくなかった事実でした。

そして、私が、エミリをそんな風にしてしまったことも、よく分かってしまいました。

町で出会って、仲良くお話をしていたころは、本当にお友達だったのに。


***


私は憂鬱な気分で日々を過ごす事になりました。

エミリが変わってしまった今、全て、私が関わると、良いものも悪くなるのだと思えました。


結婚相手も決めなければいけませんが、もう無理でしょう。いえ、政略結婚はあるでしょうが、浮気をされる事でしょう。

それならいっそ・・。修道院。楽しいのでしょうか。楽しくは無いのでしょうね。むしろ私に務まるでしょうか・・・。その方が心配。


性格的にも暗くなってしまったと思います。

そんな中、私に縁談がもたらされました。

何の悪い冗談かと思いました。あり得ないと思ったのです。

だけど、会う事になりました。

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