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エルフの森へようこそ  作者: やゃや
1章「Welcome to the ジャングル」
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5話「自称プロとヤクザとハゴロモ2」


「「「何やってんだあの馬鹿!!!」」」


 土砂降りの雨のエルフの国、その西部にある空飛ぶ廃ビルの群れ。

 ビルの屋上に突如現れた巨大な火の鳥に、そしてその火の鳥の頭に跨った赤毛の馬鹿に、我々3人は同時に驚愕を口にした。


 なんでアイツがあそこにいるの、とか。

 あの火の鳥はなんなのか、とか。

 糞ロリコン借金野郎は今まで何してたんだ、とか。


 もうツッコミどころしかない!


「どど、どうするんすか!? と、ととと、とりあえずあの火の鳥は"リザちゃん"の真の姿ってことでいいんすかね!? 話の流れ的に!?」

「いやいやいや! 今そんな事確認してる場合じゃないでしょ!? それよりまずはあそこの一般人でしょ!? あんな所にいたら危ないわよ、命の危機よ!? うっかり死んだら大変よ!?」


 あわわわ、ま、まま、ままま、まずは電話だ!

 電話で確認だ! 報連相は大事だもんな!!


「電話!? 誰に!?」


"もしもしアリエル君!? この緊急事態になんだい、今クリス君が大変なんだが!?"


「ちょっと!? なんで借金大王に電話してるのよ!?」


"あれ!? その声、もしかしてレイチェル君もそこにいるのかい!?"


「気安く人の名前呼んでんじゃないわよこの穀潰し!!!」

「まあまあ落ち着くすっすよレイチェルさん……」

「名前で呼ばないで!! ああもう!! 極秘任務なのに!! 私、エージェントなのに!!」


"やっぱりか! どうりで来ないと思っていたら……"


 んな事はどうでもいいんだよ、なんでクリスがあんなんなってんだよこの無能ロリコン野郎!

 責任者がなに保護児童を危険に晒してんだ!


「エリちゃんさんも落ち着いて!? 自称プロのテンパりが伝染ってるっすよ!?」

「自称プロって何よ!?」


 あの、うるさいんで二人とも静かにしてもらえます!?


"あー、クリス君ね……いや、まあその、色々あって、私は冥界のロボ達と敵対しててね……なんやかんやであんな風に……"


 なんやかんやってなんだよ!?

 敵対ってなんだよ!?


「あれ? あのロボさん達人類の敵じゃないんじゃ……?」

「またアンタ"何か"やらかしたのね!? アンタ何回私に尻拭いさせれば気が済むのよ!?」


 このド低能、借金に誘拐だけじゃ飽き足らず、余計な衝突まで引き起こしてやがったのか!


"いやぁごめんごめん、またいつもみたいに頼むよレイチェル君!"


「名前で呼ぶなっつってんでしょうが!!」 


"それより君達の方にも死神ロボが何体か向かっていったよ、レイチェル君は対処よろしく! クリス君とリザちゃんの事は私がなんとかするから!"


「対処よろしくって……」


"君達はリザちゃんを元に戻すハゴロモを守るんだ! それを奴らに渡さなければ……"


 おいちょっと待て、肝心なところがまだ……


"……"


 あ、通話切りやがった!!

 結局あの野郎、肝心なところは話さなかったし!

 そもそも羽衣ってなんだよ!?


「うわ、ちょっとエリちゃんさんそれどころじゃないっすよ、窓の外! 本当にロボがこっち来てるっすよ!? どうするんすか!?」


 どうするって言われても、逃げるしか……


「……待って、あの借金大王の処理でき無かったロボを倒せば、私の方が上ってことになるわよね……?」

「は? 何言ってんすかあんた!?」


 頼むからこれ以上事態をこじれさせるの止めてくれませんかね!?


「そもそもこの世の住人には倒せないって自分で言ってたじゃないっすか!?」

「そうよ、でもこの世の住人では倒せないのなら! この世の住人では無い物を呼べばいいじゃない!」


 またなんか変な事言い出したよこの人!


「大丈夫! 私、霊術1級の資格も持ってるから! 降霊術でもプロだから!」


 訳のわからないことを言い出した自称プロは、そう言って大きな水晶玉を取りだした。


 そうこうしている間に、窓の外にはメタリックな死神が複数こちらに押し寄せている。

 赤いレーザーサイトがいくつもこちらに伸びていて、今にもレーザーが発射されかねない。

 にも関わらず、自称プロのレイチェルさんは身を隠すことなく姿をさらし、水晶玉を頭上に掲げている。


「冥界の管理者? 死神? それが何よ! だったらこっちは、冥界の王でも呼んでやろうじゃないの!」


 そう言って自称プロは、水晶玉に力を込めた。

 素人目にもわかるほどの強大な魔力が、水晶玉に集まっていく。

 まさか、本当に冥界の王でも呼び寄せるのだろうか。


「さあ、降臨の儀はここからが本番よ! 括目しなさい! 我が雄姿を!」


 水晶に集まった巨大な魔力が収縮し、大きく輝いた。

 魔法陣が展開され、巨大な存在の息遣いが、腹に響く重低音であたりに響き渡る。

 窓の外のロボ死神たちが、我々素人にも分かるほどに委縮していた。


「もしかして、本当にあのロボを一掃しちゃったりとかできるんすか……?」


 だが、我々は忘れていた。

 この自称プロの周りには、赤く光るレーザーサイトが既に無数に照射されていたことを!


「さぁ、出でよ! 冥界のお」


 自称プロが何かを呼び出そうとしたその瞬間、水晶玉がレーザーで撃ち抜かれた。 


「あ、あれぇ!?」

「え? ノーガードだったんすか!? ノーガードで敵前に突っ立ってたんすか!? 馬鹿なんすかこの人!?」


 邪魔されて当然である。

 自称プロの水晶は容易く砕かれ、集まった魔力は霧散、魔法陣も消滅した。


「ねぇこの人本当にプロなん……うひゃぁ!?」


 そして、水晶を貫通したレーザーは、ビルの廊下の壁に当たり、大きな爆発を引き起こした。


「ぶぇえ!?」


 レーザーから身を隠すため、物陰に伏せていた俺やルチアさんとは違い、自称魔法のプロは先述の通りノーガードで仁王立ち。

 爆風をもろに浴びて吹き飛んだ。


 状況打破の頼みの綱の、自称プロが、背中から爆風を浴びて吹き飛んだ。

 吹き飛んで、壁に激突して、そして気絶した。


 爆発が収まり、もうもうと立ち込める煙も晴れて、状況が改めてはっきりする。

 窓の外には攻撃準備万端の無数のロボ。

 自称プロは気絶中。

 動けるのは戦闘力皆無の我々雑魚が二人。


「…………ど、どうしましょうエリちゃんさん」


 戦闘なんて当然無理。

 だがまぁ、一応、策ならある。


「……聞かせてもらっても?」


 まあ策といってもたった一つのシンプルな行動なんですが。


「はい……」


 逃げるんだよおおお!!


「だと思ったっすよ畜生!!」


 気絶する自称プロを抱え、俺はルチアさんと走りだした。

 幸いにもロボ死神たちはまだ窓の外。

 入り組んだ廃ビル内部ならば、奴らを振り切り逃げるのは容易なはず!


 廃ビルの廊下はやたら幅が広く身を隠すのは不可能だが、エレベーターのあるエントランスホールを抜け、狭く入り組んだオフィス部分まで逃げ切れれば勝算はあるはず……


「あの……エリちゃんさん、こんな時になんなんすけど、なんか携帯電話鳴ってますよ!?」


 どうにか勝算を見出したその矢先、俺の懐のスマホが鳴りだした!

 デフォルト設定のやかましい高音が、フロア中に鳴り響く。


「これじゃ逃げきっても音で居場所ばれるじゃないっすか!?」


 この糞忙しい時に誰だよ!?

 これじゃあのロボ撒けねえじゃんか!?


「とりあえず逃げながらでも相手の人に事情話した方がいいんじゃないっすか……?」


 わかってるよ今出るよ!!

 畜生、誰だよ何の要件だよ!


"おうアリエルの嬢ちゃん、どうや、俺の娘、見つかったか?"


 借金取りのおっさんかよ!?

 あんたの娘のせいで今俺エライ目にあってるんだけど!!

 あんたの娘、今火の鳥なんだけど!? 俺今自称プロを担いでるんだけど!?


"な、何言っとるんじゃお前!?" 


 当然の反応であった。

 しかし、テンパってる俺にはそんなことなど知る由もない。


 だっておっさんの娘が火の鳥で死神が襲ってきて自称プロが気絶してるのだから!


「エリちゃんさん落ち着いて、それじゃ相手の人に伝わらないっすよ!?」


"というかうちの娘見つかったんか!? 場所は! 場所はどこじゃ!?"


 ば、場所!? 場所はえーっと……あれ?

 ここどこだっけ!?


"おまえ大丈夫か!? 頭の病院いった方いいんちゃうか!?"


「あ、待って、エリちゃんさんダメっすよ! リザちゃんがお父さんを危険な目に巻き込むの嫌って言ってたじゃないっすか!」

 

 あー、そういえば!!


"危険? 危険がなんぼのもんじゃい、こちとらヤクザじゃ! 危険な目なんぞ歯磨くのと変わらん茶飯事だわ、いいから教えろボケ!!"


「いや、でもウチら今追われてて……げぇ!? エリちゃんさん! レーザーが! レーザーの照準が、ウチらの額に!!」


 ルチアさんの声に後ろを向くと、ロボ死神の群れが俺達のすぐ後ろ、廊下の中ほどまで来ていた。

 距離的余裕は大分あったはずなのに、気が付けばレーザーの射程内まで詰まっている。

 現在我々のいる場所は、野球ができるほどに広いエレベーターホール。

 入り組んだオフィス内部へはまだ少し距離が足りない!


"なんや追われとるんか? ならいい裏技が……ってお前のスマホ回線開いとるやないか!? おい嬢ちゃん、死にたくないんやったらスマホ敵の方に向けてふせろ!"


「え? 何する気なんすか!?」


"ちょっと今からそっち行くわ"


「はい?」


 言葉の意味はわからなかったが、他に状況打開の手はない。

 とりあえずは借金取りのおっさんの言われた通り、スマホをロボの方へ向けて身をふせる。


 するとどうだろう、料金未納で使えないはずの俺の魔法アプリが、みるみるうちに起動し魔法陣を展開するではないか。

 先程自称プロが使ったものによく似た魔法陣。それが俺達をかばうように展開される。


 魔法陣からは、重く響く重低音。これも先程の自称プロと類似する。

 だが、先程とは異なる点が一つ。


「これって、車のエンジン音……!?」


 魔法陣からは、我々の聞きなれた人類の叡智の音が響いていた。


 我々を射程内に納め、高速飛行からレーザーの精密射撃体勢に移行するロボ死神。

 召喚を阻止しようと攻撃に移りかけた彼らを尻目に、魔法陣から銀色に光るクラシックカーが飛び出した。

 広い廊下に群がるロボ死神の集団を、攪乱するように銀色の車は走り回り、やがて俺とルチアさんの前で急停止する。


"今のうちや、はよ乗れ!"


 運転手はゴブリン顔のおっさんであった。


「え……乗れって、ここ地上数百mの空飛ぶビルっすよ!? それに今リザちゃんは屋上で……」


"いいからはよ乗れや!! あの薄気味悪い奴らに襲われてもええんか!"


「わかったっすよ! 乗るっすよ! 乗ればいいんでしょ、もう!」


 ホールからオフィス部の廊下へ、車は俺達をのせて疾走。

 突然現れた自動車に動揺したのか、ロボ死神達はレーザーの照準を外している。

 そんな間隙を縫ったおかげで、ロボ達からはある程度距離を取れた、が……。 


「どうするんすか!? この廊下、どう見ても突き当りが行き止まりっすよ!?」


 おっさんの車が走るのは、かつては売店や喫煙所などが設置されていたであろう広い一本道。

 そして正面の突き当りには全面ガラス張りの休憩所が見えていた。

 放置されたイスやテーブルが散らばるそのフロアには、入り口以外の出口は見当たらない。

 袋小路だ。


"どうするって、んなもん決まっとるじゃろ!"


 しかし、借金取りのおっさんは、ブレーキを踏むどころか車を加速させた。


"空飛ぶ以外にないじゃろうが!!"


「う、嘘でしょ!!?」


"しっかり掴まっとけよ!!"


「いやあああ!! 死にたくない!! ウチまだ死にたくないっすよおお!!!」



 土砂降りの雨のエルフの国。 時刻は午後16時40分。

 廃ビルの休憩所から、銀色のクラシックカーがガラスを突き破り、ビルの外へと飛び出した。 


 ビルが空飛ぶエルフの国、車が空を飛んでもおかしくはない。

 ……が。


「ぶつかる! ぶつかるっす!!」


 ここは空飛ぶビルが"群れなす"オフィス街。

 勢いよく飛びたした廃ビルの外、すぐ目の前にはまた別な廃ビルが!!


"安心しとけやお嬢ちゃん、危険な目は茶飯事っていったじゃろうが!"


 そう言っておっさんは、空飛ぶ魔法のスイッチをオフにする。

 銀色の車は慣性の法則に則った放物線を描き、隣のビルの一段下のフロアへ、ガラスを突き破って着地した。


"こんな人目のつかない廃ビルは、俺らヤクザだってしょっちゅう使うからな! こんな芸当よくある事じゃ!"


 建設途中で廃棄されたらしきそのフロアは、柱と建材以外には何も無い。

 ゴブリン顔のおっさんは、着地後の衝撃をハンドルさばきで殺しつつ、車をビルの対岸ギリギリのところで停止させた。


 先程のビルを覗い様子を見るが、死神たちは追うのを諦めたのか出てくる様子はない。


 とりあえず死神は一時的に振り切ったようだ。

 ひとまず危機は乗り切ったのだ!


"さて、そんじゃあひと段落した所で……"


 そして第二の危機が訪れる。


"うちの娘はどこや? 何があってあんなのに追われとるんかも含めて、説明してもらおうか?"


 記憶を失ったやくざのおっさんに、貴女の娘は化け物なんですと告げなくてはならない、第二の試練が訪れた!


「……あれ、アタシなんでこんな車で寝てたんだっけ……?」


 さらに俺が脇に抱えていた、めんどくさい人まで起き出した!

 やばいどうしようこれ!?


 土砂降りの雨のエルフの国。

 雨はいよいよ激しさを増し、風と雷を伴って嵐となっている。


「え、何この状況、何このおっさん!? え? やくざ? なんでアタシ、ヤクザの車に乗ってるの!? アタシあのリザとかいう化け物退治しなきゃいけないんですけど!?」

「ちょ、レイチェルさん!?」


"あぁ!? うちの娘が化け物だぁ!?"


 そして自称プロが、言ってはいけないことを口にしてしまった!

 ヤクザのおっさんがついに切れる。


 無言で掴みかかるやくざのおっさん。

 それに負けじとメンチを切る自称プロ。

 険悪な雰囲気が加速する!


 誰か、誰か助けてくれ!!


 嵐の真っ只中のエルフの国。

 胃薬を求める俺の声は、吹きすさぶ風の音にかき消されていた。 

 そして、ロリコン院長の"羽衣を守って"という言葉も、すっかり忘却のかなたに消えていた。






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