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エルフの森へようこそ  作者: やゃや
1章「Welcome to the ジャングル」
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4話「自称プロとヤクザとハゴロモ1」



 雨が本格的に降り始めたエルフの国。

 時刻は15時を少し回ったところ。


「うおおおお!? 落ちてるっす! ウチら落ちてるっすよ!?」


 ロボ死神に吹き飛ばされた俺とルチアさんは、空に浮く廃ビルの窓の外、地上数百mの空中をきりもみ落下していた。

 もちろん俺は空など飛べない。

 このままいけば、地上へ激突、待つのは死だ。

 

「やばいっすよ!? このままじゃウチら落下死っすよ!? どうするんすか!?」


 あールチアさんも飛べないんだ。

 これじゃあどうしようもないね、あははは。

 あ、見て、ちょうちょ。


「現実逃避してんじゃねえっすよ!? なんとか現状を打破しないと!」


 しかし、そんなことを言っても本当にどうしようもないのだ。

 空を飛ぶ魔法もこの世界には存在するが、それを習うのは高校生になってから、入学したての俺には使えない。

 スマホには魔法アプリも入れられるが、あいにく料金未納で魔力を止められ使用不可。


 こんな状況ではもう、エルフの国の空をパトロールしてる警察さんが、運よくみつけて助けてくれるのを祈るしかないのだ。ジーザス。


「そ、そんなぁ……」


 もはやこれまでか……せめて、せめて一度くらい、きれいなお姉さんとイチャイチャしたかったな……


「あー、エリちゃんさんそっちの趣味あったんすね……」


 今日あったばかりの人に、ソッチの趣味がある事がばれてしまった。

 しかしまあどうでもいいだろう、我々はここで死ぬのだから……


"え? な、なんでこんな所に民間人がいるのよ!? しかもそんな所に!?"


 諦めかけていた絶体絶命の我々の耳に、救い主の声が届いた。

 

「え、嘘、マジで祈りが通じたんすか!?」


 おお、神様仏様邪神様、なんたるお恵み、感謝感激です!!


"何言ってるのアンタ達、馬鹿なの!? いいからこっち、私の手を掴みなさい!"


 我々の前に現れた救い主、黒いフードを着た謎の女性は、近くのビルの窓から俺達に手を伸ばしてくれた。

 何と言う僥倖、しかし……


「え、そんな手伸ばしたぐらいで大丈夫なんすか!? 衝撃で腕の骨折れるんじゃ……」


"何言ってるのアンタ達……? 自分たちの今の状況、ちゃんと分かってる……?"


「状況って、そりゃ今まさにビルから落下の真っ最中で……」


 そういえば結構時間経つ割に全然地上が見えないような……?


「……周り、よく見てみたら?」


 謎の女性の発言に、俺とルチアさんは落ち着いて状況を確認してみる。

 あたりを見回してみると、我々は未だ先程いた廃ビルのすぐ横にいた。


 数分前に吹き飛ばされた窓よりは下に落ちているものの、ビルの近くを一定の高度は保ったままふわふわ浮いているのだ。

 救い主さんがこちらを伺う窓も、よく見れば少し手を伸ばすと届く距離。


「あのね、ここはつい最近まで使われてた現代建築なのよ? 落下防止の安全装置ぐらいちゃんとついてるわよ」


 ……よくよく考えれば、この周辺は大きなビルがいくつも浮いているのだ。

 その浮力が、ビルの周りにも働いていたって不思議では無い。

 人間やエルフの一つや二つ、浮かせたって不思議ではない。


「な、なんか慌ててたウチら馬鹿みたいっすね!」

「"馬鹿みたい"じゃなくて確実な"馬鹿"でしょうよ……」


 俺とルチアさんの二人は、黒いフードを纏った謎の女性の手を取りビルの中へ。

 地に足が付くというのはなんと落ち着く事だろう。


「それよりほら、早くここから出ていきなさい、今からこのビル危ないことになるんだから」

「あれ? そういえば今ここに居るのってウチとエリちゃんさんだけっすか? クリスちゃんとリザちゃんは……!?」

「ちょっと、アタシの話聞いてる!?」


 そういえば慌てていて気づかなかったが、うちの赤毛とポンコツ幼女、ついでにロリコンの姿が見えない。


「あ……ってことみんなはまだあのロボ死神のいる部屋ってことっすか!?」


 消去法でそうなるだろうなぁ……

 そうなるとこのまま知らんぷりして帰るってわけにもいかない。

 それにこの状況をゴブリンのおっさんにどう説明するかも考えないと……


「ねぇ、アタシ無視して話しないでよ!?」

「おっとそうでした、この人の事忘れてたっす!」

「ていうかアンタ達このままここに残る気!? 今アタシが危ないって言ったばっかりでしょう!?」


 危ないと言ったって、俺には高校生活がかかってるんだ。

 あとクリスの事も一応。

 なので帰るわけにはいかない。


「ウチも乗り掛かった舟っすから、リザちゃんやあのロリコンを見捨てるのは無いっす」


 その程度の理由で体を張るルチアさんは何なんだろうか?

 聖人君子か何かなのか?


「あのね、このビルに現れる怪物は素人が手を出せるような代物じゃないの! なんの理由があるか知らないけど、怪我する前に帰りなさい!」


 そう言われても引くわけにはいかないのだ。

 主にうちの馬鹿どものせいで。


「そもそもそう言う貴女はどうなんすか? そんな危ない所にいていいんすか?」


 そういやこの人の事なんも聞いてなかったな。


「私? 私は仕事で来てるからいいのよ! なんたってプロですから! 魔法のプロ!」

「プロ……?」

「ええ! 政府から秘密裏の依頼で動く非正規エージェントよ!」


 そんな情報をほいほい民間人に言っていいのだろうか……?


「…………あ」

「"あ"、じゃねえっすよ」


 ……この人本当に魔法のプロなんだろうか。


「ぷ、ぷぷぷ、プロに決まってるでしょう!? だ、だったら出すわよ証明書! 政府公認の認可状を……」

「秘密裏で働く人が出していいんすかそれ?」

「…………あ、いや、それは……」


 この人、大丈夫なんだろうか……?

 なんかこう、色々と……


「プロなのは本当よ!! ちょっとまあ、その、テンパっちゃうとアガッちゃうだけで……」

「もういいっすよ、わかったっすよ、仕事で来たプロってことでいいっすよ……」


 仕事で来てるってことは、あの借金院長と同じなのか……?


「借金院長って……え、何、アンタ達あの借金男の事知ってるの?」

「借金で有名なんすか、あのロリコン……」

「あいつは魔法(マナ)ラインの管理者、私と同じエリート職よ!」


 ……アイツそんな勝ち組だったの!?


「エリート職……? あんなのがっすか……?」

「ええそうよ……けどアイツはね、遅刻に早退、無断欠勤etcの常習者! 勤務態度最悪で管理者の面汚しよ! アイツのせいで何回アタシが臨時で勤務の穴埋めしたか!!!」

「うわぁ……」


 なんていうか……うちの身内がホントすいません……


「そんな面汚しのダメ人間の癖に、私より仕事ができるって評価なんだからホントなんなのかしらね!! 死ねばいいのに!!」

「お、おおお、お落ち着くっすよ!? 死ねとか言ったらダメっすよ!?」


 なんかもう俺帰っていいかな……?

 申し訳なくて心がいたたまれない……


「いや、帰ったらダメっすよ!? リザちゃんとクリスちゃんを放置していいわけないじゃないっすか!?」

「いいわよ帰りなさい帰りなさい! アタシがあの借金大王もリザちゃんとやらも、まとめて吹っ飛ばしてあげるから!!」

「リザちゃんは吹っ飛ばしちゃダメっすよ!!?」

「まあとにかく、アタシはこれから世界の流れを正すって言う重要な仕事があるから、邪魔だけはしないでよね!」


 ……? あのロボ死神と戦うんじゃないの?


「何言ってるの? あんなのこの世の住人が勝てる相手じゃないわよ、それにあれは"人類"の敵ではないし」


 人類の敵ではない……?


「え、じゃあ貴女は何しに来たんすか?」

「私が受けた依頼は、幼女に化けた自然現象を本来のあるべき姿に戻すこと、本来の流れに戻すことよ」

「幼女に化けた……って、リザちゃんの事っすか……?」


 ちょっとあんまりな言い方じゃ……


「何言ってるの? そいつは異形の癖に子供の振りしてのうのうと生きてるのよ? 慈悲なんていらないじゃない!」


 ……子供の振りして……かぁ。

 あまり他人ごとではない話だ。


「どんな境遇であれその言い方はあんまりっすよ!」

「あーもう、そんなことはどうでもいいのよ! アンタ達とこんな言い合いしてる暇は無……きゃっ!?」


 自称魔法のプロが何かを言いかけた矢先、我々のいる廃ビルが大きく揺れた。


「うお!? 地震っすか!?」


 空に浮いているビルが地震で揺れるわけないでしょうよルチアさん……


「……ってことは、あのロボ死神が?」

「ああもう! こんな所でグズグズしてるから始まっちゃったじゃない!」

「始まったって何がっすか!?」

「異形をあるべき姿に戻す作業よ! きっと冥界の方で勝手に始めちゃったのよ!」


 窓の外をうかがうと、ビルの屋上に異形の生物が姿を現していた。

 火の粉を舞い上げ翼を広げる不死の鳥、フェニックスや鳳凰、ベンヌなどと呼ばれる鳥の異形がそこにいた。

 黒衣のロボも、それに纏わりついてレーザーを放っている。

 そして……


「あ、あれ……!!」

「え、嘘!? なんであんなところに一般人が!?」


 そして……火の鳥の頭には、赤い髪の馬鹿の姿が!


「「「何やってんだあの馬鹿!!」」」」


 先程まで喧嘩腰だった三人の心が、今この瞬間一つになった。





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