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エルフの森へようこそ  作者: やゃや
4章「Do the 姉御 motion」
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エピローグ


 5月8日、空に青色が戻ったエルフの国。

 幽霊も消え、生活が元に戻ったエルフの国の首都。時刻は9:00、場所は朝の警察署。


「それではオルグレンさん、もう一度復唱をお願いします」


 わたしはよそ様の店の物品を破壊しました。

 その賠償を支払うとともに、今後二度とこのような事がないよう硬く誓います。


「はいありがとう、この宣誓によって術式と契約は完了です、お疲れ様」


 俺はぐずぐずに溶けて消えた右腕の再生も終わり、先のGW中に犯した罪の清算を行っていた。


 正直あの状況では仕方なかった、と声を大にして言いたかった。

 ……が、人ん家の物を壊したのは間違いようのない事実。

 ダメなことをしたなら、きちんと"ごめんなさい"と言えるのがデキる超絶美少女だ。

 打ち首獄門になるわけじゃあるまいし、清算できるときに素直に清算する方が良い。


 再犯防止の宣誓魔法を担当する婦警さんが、前回逮捕された時と同じ婦警さんだったのは偶然か意図的か。


「ところでオルグレンさん? 貴女、もう"ここには二度とこない"と言っていましたが、あれは嘘だったのですね?」


 意図的のようだった!!

 すきあらば余罪で俺にとどめを刺す気だ!!


 ……あ、いや、違うんですよ婦警さん!!

 これは、その、あの……そう! あなたに会いたくて!


「ほほう? 女性の貴女が私を口説こうと?」


 そうそう! ええそうなんですよ!

 以前お目にしたときから気になって!


「同性愛は、この国では犯罪ですよ?」


 ……あ。


「これは打ち首獄門の刑ですねぇ」


 待って、違っ! こ、これには深い理由が!!

 えーっと、えーっと……!!


「冗談ですよ、さ、帰りの準備ができましたので、さっさと帰って下さい?」


 警察さんが言うと冗談に聞こえないんですが!


「しかしこうも短期間に逮捕が続くと、次回は冗談にならないかもしれませんねぇ」


 もう絶対! 二度とここには来きません!! 

 これだけ釘刺されれば大丈夫です!!

 絶対に、絶対です!!


「はい、いいお返事です、それではこれを持ちまして貴女は釈放です、ご自宅までお送りしますね」


 前回と同じく婦警さんが個室の出口のドアに手をかける。

 数秒、そのまま動かず何やら呟いていたが、やがてゆっくりとドアを開いた。

 ドアの先は前回と同じく、俺の住む孤児院の玄関に繋がっていた。


 前髪さんといい婦警さんといい、空間を繋ぐというのは個人でできるものなのだろうか?

 いつか自分も、できる日が来るのだろうか?

 そんな思案をしながら、靴で溢れた玄関の、湿気で歪んだ壁紙を横目に孤児院の廊下を歩く。


 しん、と静寂に包まれた、木造二階建てのボロい孤児院。

 十字になった廊下を右折し、角部屋となる自室のドアまでたどり着いて、俺はようやく違和感に気付く。

 おかしい、あまりに静かすぎる。


 最初は、鐘の故障でクリスやルチアさんが別の場所に避難していたのだろう。

 そう思っていたのだが、それなら玄関が靴で溢れていたのはおかしい。

 そもそもGWは既に終わっている。


 何か理由があるのだろうか、まずはクリスを探し話を聞いてみるか。

 自室のドアノブから手を離し、そう思いたったその時!!


"しくしくしく……"


 自室の隣の空き部屋から、女のすすり泣く声が聞こえた!

 さらに、べちゃり、べちゃりと、何か粘質性のある生物が歩くかのような音もする!

 それだけではない!


 恨み、妬み、嫉み、僻み。

 女の他にも異なる声色の負の感情の声が、そのすすり泣きに合わせてお経の如く唱えられているではないか!

 勘弁してくれ! もうGWは終わったのではないのか!?

 

 ……まさか、鐘が壊れたことで、あの二人は怨霊に憑かれてしまったのか!?

 B級映画の如き幽鬼共が、あの二人を悪鬼へと変えてしまっていたのか!?

 

 隣の空き部屋の前で躊躇する俺を尻目に、地獄めいたお経は勢いを増していく!!


 幽霊は、怖い。

 その感情はいまだ消えることなく俺の心を縛っていた。

 だが! アンジェラさんとの戦いを経て、俺は一つ成長したはずだ!

 なによりも、あの時あの二人を置いて逃げた俺の罪悪感が、恐怖をはるかに上待っていた!


 罪は清算する物、それがデキる超絶美少女スタイル!

 俺の所為で憑かれたならば、それを祓うのも俺の為事!

 震える足を気合で前に、今、俺は幽鬼共の巣へ、ドアを蹴破り突入する!!!


 その中で俺が見たものは……



「うわあああああん!! フラれたああああ!!!!」

"おお、姉御に憐みを"

"試練与えし神に災いあれ"

"レイチェルちゃんの敵に裁きを"


 泣きじゃくる姉御を中心に、クリス、ルチアさん、前髪さんの三人が怪しげな儀式を行っていた。


 ……人の私室のすぐ横で、こいつらはいったい何をやっているんだ。


「あ、エリちゃんお帰り!!」

「あら、アリエルちゃん! 帰ってきたの?」


 お帰りじゃないだろう、何やってんだ!?

 何の儀式やってんだお前らは!?


「あのねアリエルちゃん、実はあの後レイチェルちゃんが白スーツの人に告白したんだけど……」

「ご覧のあり様っす」

「"しばらく一人になりたい"って言われたらしいよ!」


 姉御の失恋はどうでもいいよ!


「どうでもいいですって!?」


 その失恋と! この儀式の関連性を示せといっているんだよ!!


「アリエルちゃん、古代エルフではね? 恋の破局は厄の塊として、きちんと祓わなきゃいけなかったのよ」


 ばっちぃ者みたいな扱い止めろよ古代エルフ、可哀想だろ姉御が。


「誰もアタシが汚いなんて言ってないけど?!」

「……まあ、現代でも恋愛がらみは禍根が残りやすいっすよね」

「無視!?」


 なるほど、だから儀式でそれを祓おうと。


「そうなのよ! 何と言っても今回は、相手が相手だもの、習慣に則ってきっちり厄を祓わないとね!」

「下らないとは思うけど、正直アタシも、あの一週間の出来事とはすっぱり関連を切りたいと思ってたから……裸エプロンとか裸エプロンとか……」

「はだか……?」


 気にしなくていいぞクリス。

 男の裸エプロンなんて誰も得しないからな。


「忘れたいっていってんのになんで掘り返すのよアンタは!!」


 こんだけ元気なら大丈夫だと思うが……


「一応これでも乙女なんですけど!! 心はかなり傷だらけなんですけど!!」


 慰めてやろうか? 体で。


「いらんわぁああ!!」

「まぁまぁ落ち着いて、折角だしアリエルちゃんも一緒に神を呪いましょう?」


 ほうほう神を……うん?

 どさくさに紛れて何言ってんの!? 

 え、何? 今これヤバい儀式してんの!?


「全然大丈夫よ~? "こんな酷い試練与えやがって!" "糞が!" "死ね!" "疫病神!" って言って悪い神様を追い出そうっていうだけよ?」

「泥! 泥投げるんだよ泥!」


 まさか部屋の中で泥投げてんのか!?

 べちゃり、べちゃり、はその音か!?


「汚れるからね、空き部屋つかってるんだよ! 終わった後掃除しやすいから!」

「そういえばエリちゃんさん、今の発言から察するに、この儀式の音を幽霊だって疑ってたんすよね?」

「あらそういえば、あらあらもしかして、あらあらあらぁ?」


 何想像してんだよ前髪さん、ちげえから!


「大事な人のために嫌いな事を克服する! いいじゃない、いいじゃない!」


 ちげえかんな!!


「その調子で恋愛とかもしてみたらいかがかしら、レイチェルちゃんみたいに!」


 姉御みたいにって、そんなん破局しちまうじゃねえか。


「人を失恋の代名詞みたいに言わないでくれる!?」


 しっかしまぁ、恋愛。 恋愛ねぇ……

 そんなものに関わる日が、いつか俺も来るのだろうか。

 いつか俺も、みんなに泥を投げてもらう日が来るんだろうか。




 よく晴れた青空のエルフの国。

 泥だらけの部屋の中で、神を呪う怨嗟の声が木霊する。 

 GW明けの空は、雲ひとつない快晴であった。



 桜はもう、とうに散っていた。

 すぐにも夏が来る合図であった。


 エルフの国では、秋は入学式や入社式等がある始まりの季節。

 そうなれば当然、夏は終わりの時期になる。


 夏が来る。

 終わりの季節が、やってくる。


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