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エルフの森へようこそ  作者: やゃや
3章「ラビ-LA-DI・ラビ-LA-DA」
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8話「Life goes on 後編」


「姫様は、私の中にいる」


 近衛兵の隊長がそう呟くと、魔力を放ち、姿を変えて大きな扉になった。

 隊長の放つ魔力は、時計塔の守護者やエロ本屋の店長と同じ、禁忌と呼ばれるもの。


 "こんな種族に生まれなければ"

 そんな隊長の発言に、すべての合点がいった。


 エルフの国が、獣人の国と国交を閉ざしている本当の理由。

 警察が、時計塔の出口の前で、武装ヘリすらも持ち出して彼らを確保しようとしていた理由。

 ウサ耳さんが、学校で習うような空飛ぶ魔法すら使わず、自前の脚力で空を"跳んでいた"理由。

 きっとこの人達は、昔の戦争の時に禁忌の魔術によって生まれた種族とかそんなんだろう。


 ……が、そんなことは今どうでもいい。


「え、エリちゃんさん!? どうしてこの部屋に!? どうやって!?」


 隊長が作った扉をくぐり、部屋の中へと侵入する。

 部屋の中には広い空間と豪華な調度。

 警備していたらしきロボポリス二機にお姫様が一人。


「だ、ダメなんです! これ以上わたしに近寄っちゃダメなんです !私、実はあの時計塔の化け物と同じだったみたいで……」


 ごめん! 今そんな話してる時間無いの!!

 早くこっちきて!!


「え? あ、ちょっと!? 何するんですか!? 腕を引っ張らないでくださ……」


"マザーコンピューターより照合完了しましタ……対象、アリエル・オルグレンの発言は偽証であル"

"対象を犯罪者と認識、現行犯により逮捕プログラム作動しまス"


「偽証!? 逮捕!? 貴女いったい何やったんですか!?」


 いいから外に逃げるよ!!

 隊長さん! 扉閉めて!! あいつら閉じ込めて!


「……無理だ」


 え!? な、なんで!?


「俺にも立場ってもんがある……」


 あ、そうか。

 近衛兵の隊長さんが、警察と表立って敵対するとなるといろいろ問題か。

 ここまでは警察の目が無いから手伝えたのだ。


「これ以上、お前の味方はできない、あとは自力でどうにかしろ」


 まあ仕方ない、ここまでありがとう隊長さん!


"対象、アリエル・オルグレンを捕縛しまス" 


 ……んで、結局こうなるか!!


「一体これは何なんですか!? 説明してください!!」


 うーんと、えーっと……

 ……よし、わかった! 説明しよう!

 今からあんたは俺の人質だ!


「はあ!?」


 おらおら止まりやがれロボ共!

 この女の命がどうなってもいいのか!!


「ちょっとその包丁どこから出したんですか!?」


"ぎぎギ、犯罪者との交渉、ハ認められていなイ……"

"し、しかし今回の任務ハ、姫の護送が最優先……?特殊なケース……"

"エラー発生……マザーコンピューターへのアクセス許可を求めル……"


 やっぱりこいつらポンコツAIだ。

 ほら、走るよウサ耳さん!!


「いやいや、説明になってないんですが!! 人質ってどういうことですか!?」


 よし、じゃあ走りながら説明するよ!

 だから服脱ぐね!


「いやなんで今この状況で服脱ぐんですか!? 馬鹿なんですか!? 変態さんですか!?」


 はい、俺のYシャツあげる。


「いや、そんなのいらないんですが!?」


 これで俺の目標、その1達成ね!


「意味がわからないんですが!! 脱ぎたてほやほやのYシャツ渡して何の意味があるのかさっぱりわからないんですが!?」


 匂いでも嗅ぐといいよ。


「私にそんな趣味有りません!!!」


 さて、それでは目標その2について説明しようか!


「待って下さいよ!? 結局このYシャツは何なんですか!? 説明になってないのですが!?」


 目標その2の説明の為に、まずは医務室に向うよ!


「すいません! 質問の答えになっていないのですが!! 私の話聞いてもらってもいいですかね!? お願いします!!」


 えー?

 ウサ耳さんだって今朝、地下に行くまで説明してくれなかったじゃーん?


「あ、まさかこれ今朝の当てつけですか!? わざと説明してないんですか!? そういうことするんですか! じゃあ私もエリちゃんさんの真似してやりますよ!」


 真似? いったい何、ぬふぅ!?


「へへーん! 背中に乗っかっちゃいましたよ! どうです! これで条件は対等ですよ!? 文句は無いでしょう! 言えないでしょう!」


 お、重い……


「お、おおお、重くなんて無いですーー!! これでも体重は平均やや下ですーーー!!」


 いやいや、でも俺は文句言わないよ?

 だってこんな重い体で俺をおぶって警察さんから逃げてくれたんだもんね?

 今朝の恩返ししないとね?


「重くないっていってるじゃないですかーーッ!!! じゃあいいですよ!! 言ってやりますよ私の体重!ビビって腰抜かすんじゃないですよ! 私の今年の体重は! なんと38kg!!」

「ひ、姫様……なぜこのようなところに……」

「ッーーーーーー!!??」


 ふふふ、医務室に着きましたぞ姫様?

 見張りの兵士もいますが、そんなこと言っていいんですかな?


「忠告するタイミングが遅すぎるんですが!!! なんなんですか!? 嫌がらせですか!?」

「あ、あの……姫様、私は何も聞いていませんので……」

「何も言わないでください!!! もういいので!! 黙ってそこをどいて下さい!!! その部屋の中に入るんですから!!!」

「も、申し訳ありません……」


 ひどいパワハラお姫様もいたもんだ。


「誰のせいだと思ってるんですか!!!」


 はいはい、私のせいです私のせいです。

 まったくしょうがないお姫様ですね。


「駄々をこねる子供に対する対応みたいなの止めてくれません!?」


 はいはい、じゃあ中に入りますよ。


「あ、お帰りエリちゃ……あー!! ルナちゃん!」

「本当っす! ルナさんじゃないっすか!!」

「え!? 確か、貴女達は……クリスさんにルチアさん!? どうやってこの船に!?」


 樽に乗って飛んできました。


「ああ、空を飛んで……え、樽!? 樽ってなんですか!?」


"すいませン、静かにしてもらえますカ?"

"ゲートを作るのに大きな振動はNGですのデ"


「う、うわああ!! ロボ!? ロボがいるじゃないですか!!?」


"静かにしてくださいといったでしょウ?"

"我々はこの方達の帰り路を作るのが仕事なのデ"

"我々の役割を邪魔しないでほしいのでス"


「え? 逮捕しないんですか!?」


 ポンコツAI……


「それよりもルナさん! さよならも言わずに帰るってどういうことっすか!!」

「そうだよ! 水臭いよルナちゃん!!」

「え? え? ルナ"ちゃん"って……え!? 私そんなに貴女方と関わってないんじゃ……」

「何を言ってるのルナちゃん!? 私達、友達じゃない!!」

「え、ええ!?」


 こういう奴らなんです、出会って3秒で友達とか言っちゃう奴らなんです。

 ルチアさんも半年くらい前はそういう反応でした……今ではこんなんだけど……


「だからね!! 私達ちゃんと別れの挨拶をしに来たんだよ!!」

「えぇ!? そ、そのために無茶してこんな所まで!?」

「人間関係において、挨拶は重要っすよ! 特に友達の間での、それも別れの挨拶は!」

「次にまた会おうね! って約束するもんだよ!」

「え? 次って……そんな機会はもう……」


 機会がないなら作ればいいじゃない。


「無茶を言わないでくれます!?」

「そっちが無理ならこっちから会いに来るっすよ!」

「国交断絶してますが!?」


 なんとかしろ。


「無理言わないでくださいよ!?」

「じゃあ今度は私達が密入国する番だ!」

「いやいやいやそういうの良く無いですよ!?」

「密入国者がなんか言ってるっす」

「あーもう! あーいえばこういう!!」


 お?言い返せなくなったな?


「じゃあウチらの勝ちっす!」

「「「いえーい」」」

「いえーいじゃないでしょうよ!?」


"みなさン、ゲートが完成しました"

"はやく帰って下さイ、我々には次の役割がありますのデ"


「だそうっす! そんなわけでウチらは帰るっす!」

「帰るって……結局貴女達何しに来たんですか……」


 だから挨拶しに来ただけだって、"次"の約束するために。


「次の……ですか……」

「うん! というわけで、ルナちゃん! これ!」

「え……!? これって……」

「伝説のエロ本屋のチケット! 一個余分に貰ってきたんだ!!」

「貰ってきたって……」


 おう、伝説のエロ本屋は実在したぞ。


「あ、あの嘘臭い写真って本当に伝説のエロ本屋の写真だったんですか!?」

「次はルナちゃんも一緒に行くかんね!! そんで、街で一緒に買い食いして! それで……」


"はいはイ、早く帰って下さいネ"

"これで我々も通常業務に戻れまス"


 "エロは人生"とか言う奴が、役割の一つや二つでエロを諦めてるんじゃないよ。


「そういうわけで改めて別れの挨拶っす!」

「またね!!」


 あ、そのチケットはそのままだと警察に没収されるだろうからYシャツにでも隠


"はい、ゲート封鎖完了でス"

"ミッションコンプリートでス、それでは業務に戻り巡回を始めるのデ"


「Yシャツにでもって……あ! まさか!」 




 3人がゲートに送られてより後、獣人の姫がロボポリスにより部屋に戻されるまでの1、2分。

 獣人の姫は、手渡されたYシャツの、胸ポケットの中を確かに確認した。


 船上で警察が行える簡素な検査では絶対に見つからないその隠し場所。

 "素晴らしき薔薇の花園 2絡み目"が、そこには確かに入っていた。


「エリちゃんさん……!」


 ただし、大量の人参も一緒に。生で。

 当然その本には、人参特有の臭いが染み付いて……


「"次"からは! 保管もきちんとしてください!!!」


 医務室に響いた姫の声に、近衛兵がひときわ大きく驚いたのは、また別の話。



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