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エルフの森へようこそ  作者: やゃや
2章「前髪さんrhapsody」
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2話「前髪ホームカミング(中編)」



「だーかーらーッ!! ミシェルは誘拐されたのよ!!」

「そうなんだよ大変なんだよ!」


 雪の止まない12月のお昼前、お馬鹿さんが二人客間の入り口でまくし立てていた。

 "前髪さんが誘拐された"とか戯言をいっていた。


「親御さんに実家に無理矢理連れていかれて今レモンティーとワッフルでもてなされてるのよ!」

「……それ実家に帰省させられたってだけっすよね」


 冬休みくらい家に帰れってやつだよね。


「違うんだよ違うんだよ! 実はミシェルさんは家出少女ででもすぐバレて豪邸に住まわされてたんだけど冬休みになって強制送還からドレスと科学でメイクアップフィーバーなんだよ!!」

「話がとっ散らかって何がなんだかっす……」

 

 この馬鹿二人に説明を求めるだけ無駄な気がしてきた……


「なんでわかんないのよ! いい!? もう一回言うわよ!? ミシェルは今まで家出してメイドと執事で豪邸住まいだったけどアーマードケルベロスと一緒に実家に戻されてレモンティーとワッフルでドレスアップしてるんだってば! あと今アタシに馬鹿って言ったわね!? 後で覚えときなさいよ!!」

「なんか情報が増えたっすよ!?」


 ああもう! 余分な情報が多すぎるんだよ! もうすこし分かりやすく!


「レモンティーだのウェイクアップだのそれ重要なんすか?」


 そもそも家出っていうわりに前髪さん豪邸住まいなのはなんなのさ!


「一気に二つも三つも言われても困るんだよ!」

「私達だって動揺してるんだから! 汲み取って! 状況を! 雰囲気で!」

「……ダメっすねこりゃ」


 もうこれ前髪さんに電話で直接聞いたほうが早いな。


「スマホってこういう時便利っすね」

「待って !電話は駄目よ! アプリも! 逆探知されるわ!」


 逆探知ってそんな、警察みたいな……あ、繋がっちった。


"お嬢様へのアクセスが検知されました、強制転移プログラム作動します"


 ……は?


「え、何すかこの声!? スマホから!?」


 なんかスマホが勝手に魔法起動しちゃってる!?


「遠隔操作ってやつすか!?」

「法律的にどうなのそれ!?」

「そういう家族なの!!! ミシェルの家のエルフはみんなこうなのよ!!! だから親から離れて家出してたのよ!」

「あ、ミシェルさん家出してたんすね」

「今頃!? さっきから何回も言ってたでしょ!」

「あぁ!! エリちゃん大変! 今気づいた! 私達朝ご飯まだだ!!」


 今それ重要じゃないだろ!?


「ねぇねぇヤバイっすよ!! スマホからなんかすっごい魔法陣出てきたっすよ!!」

「いけない! 魔法でどっかに飛ばされるわ! 喋ってたら舌噛むわよ!」


 飛ばされるってどこ、うごぉおお!?


「飛ぶってか吸われてるっすよ!?」


 ワープ式!?ワープ式なの!?超高位魔術じゃん!?


「朝ご飯! せめてパンだけでも!!」


 朝飯は諦めろ! 今はそれどころじゃないんだ!

 俺のエロ本が!! 魔方陣に!! 魔方陣の中に!!


「そっちっすか!? ウチらの身の安全はいいんすか!?」

「だから喋ってたら舌噛むってば!」


 あぁあ!! 俺のエロ本がぁああ!!


「あさごはんまだなのにぃいいい!!」

「舌噛むっつってんでしょうが!! 口閉じなさいよアホ共ぉお!!」

「いったぁ!? なんでウチが叩かれ……ふなゅう!?」


 AM9:25、突如出現した魔法陣に吸い込まれ、俺達4人は眩い光の中へと放り込まれた。


 

 ……それからどれくらい経っただろうか。


「……ゃんッ!……ねえ……リちゃんッ!!」

「うぇぇ……舌噛ん……っす……」


 クリスとルチアさんの声だ、頭の中によく響くがどこからだろう、意識がはっきりしない。

 ここはどこ?私は誰?俺が超絶美少女なのは確かだが。


「……リちゃん! エリちゃん!! 起きて! 大変だよ!」


 そうだ、なんか吸い込まれて飛ばされたんだ。

 慌てて頭を振り起き上がると、やがて焦点の定まらぬ両眼から周囲の光景が送り込まれてくる。


 ……信じられない光景が広がっていた。

 なんと目の前には裸でまぐわうエルフの女性が!ピンク色の光に包まれ貝を合わせる二人の美女が!?

 まさかここが夢にまで見たイチャイチャパラダイスか!?


「ほんにこの人はブレないっすね……」

「アホなこと言ってないでとっとと起きなさいよ、蹴るわよ?」


 声の方向に目を向けると、雪の上に佇むアラサーの姉御がこちらを見下ろしていた。

 正面に向き直るとエロ本の一ページが木に張り付いていた。

 俺が警察の監視を掻い潜り必死で確保した、レズ物R18本のちぎれたページが湿り気を帯びて木の根に張り付いていた。ただのそれだけだった。


 周りを見回して改めて状況を確認するが、美女エルフの百合空間はどこにもない。

 視界に映るのは雪化粧した針葉樹の森、足跡ひとつない新雪の野、親しき馬鹿達。

 そしてもっとも目をひくのは破れて散らばるエロ本の残骸。


「……ねぇなんでエリちゃんさんそんな世界の終わりみたいな顔してんすか?なんで膝から崩れ落ちてむせび泣くんすか?」

「ほっときなさいよ、それより周りに気を付けて」

「気をつけるって何にっすか?」

「ねぇねぇおかしいよこの森! 雪降ってるのに全然寒くないよ!?」


 失意に絶望する俺の脇、クリスが叫んでいた。

 赤毛の指摘に言われて気付くが、たしかに寒さを感じない。

 雪が降る屋外なのに。


「それにこの雪!!」


 何を思ったか赤毛の馬鹿は、積もった雪を抱えて我々3人に向かってぶん投げた。


「ちょっと何を!?」

「いやああ背中に!背中に入ったっす!」


 おい冷たいじゃないかこのやろ……あれ?


「冷たく無いっす……」 

「ね!? ね!? 変だよ! その辺の木に触るとちゃんと冷たいのに! 雪は冷たく無いんだよ!!」


 手の中で溶けて水になっていく雪は、間違いなく我々の知る雪である。

 まったく冷たさを感じない以外は。


「いったいどうなってるんすか……?なんでこんな……」

「そうだ、ミシェルから聞いたことがあるわ! ミシェルの両親が改造した、とある森の話を!」


 何か知っているのか姉御!?


「え? なんて言ったっすか? 森を改造?」

「ミシェルが子供の頃おばあちゃんと遊んだ思い出の森を、両親が管理できる様に機械へ改造しちゃったって話を少し前にしていたのよ」

「エリちゃんエリちゃん! この木、引っ掻いたら中からメタリックな何某が!!?」


 え? この森の木もしかして全部機械なの!? 寒くないのもそのせい!?


"その通り! この森は魔法と科学の粋を集め! あらゆる危険を排除しているのだよ!"

「!?」


 唐突に男の声が森に響く。

 我々4人の正面、雪に埋まった地面から男が一人、台座と一緒にせり上がってきた。


「我がリンドグレーン家の私有地へようこそ、娘ミシェルの友人達よ! 歓迎しよう! 盛大にな!」


 地下から派手にせり上がってきた金髪の男は、黒いスーツにダサい仮面、尖ったエルフ耳にインカム装備という奇抜な格好で我々の前に現れた。

 なかでも特筆すべきは下半身……


「まずはこんな誘拐にも似た形で正体をした非礼を詫び」

「「「「へ……」」」」」


「……へ?」


 なにより仮面の男は……仮面の男はズボンを穿いていなかった。


「……え? あ……あぁ!? ま、待ってくれ誤解だ! 多分いませり上がって来たときにベルトかなんかが引っかかってそれで……」

「「「「変態だああああああ!!!」」」」

「違うんだああああああ!!」


 機械の森にいくつもの叫び声が響き渡った。

 魔法で連れられやってきた、前髪さん家の森の中。

 そこには馬鹿しかいなかった。



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