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エルフの森へようこそ  作者: やゃや
1,5章「ストーム・エピローグ」
17/54

6話「悪魔教室」


 高校入学から一か月と少し。

 木々の色づきが峠を過ぎ、赤や黄色の広葉樹の下には茶色の枯葉が積もる今日この頃。

 新しい学校にも慣れ、心にゆとりのできた我々新入生に……


 地獄が訪れる。


「エリちゃん……ついに来たよ、あの長く苦しい日々が」


 ああ……今回も生き残れるといいな……


「生きて帰ってこれたら、またたくさん遊ぼうね……」

「たかが中間テストで何を大げさにいってるんすか二人とも」


 放課後の教室、赤毛と俺とで沈痛な面持ちしている所にルチアさんがツッコミを入れた。

 "たかが中間テスト"

 そう、筆記テストの時期がやってきたのだ。


 人通りの多い玄関先に生徒の成績を晒し笑いものにする、あの地獄のイベントがやってきたのだ!


「そういう意図はないと思うっすけど……」

「いいや! 絶対あれは頭の悪い人を馬鹿にするための掲示だよ!!」

「クリスちゃんまで……ってか二人ともそんなに成績悪いんすか?」


 俺は生まれてこの方、赤点ギリギリ以外とったことないぞ。


「私は授業全然わかんなくていつも寝てるよ!!」

「二人ともどうやってここの高校はいれたんすか……?」


 この高校、かわいい娘がたくさんいるって聞いて頑張りました。


「エリちゃんに介護してもらわないと生きていけないので頑張りました!」

「もうどこからツッコんでいいかわかんねぇっす……」

「やった! 私達の勝ち!」


 いぇーい。


「いぇーい」

「ハイタッチしてる場合じゃないっすよ!? 赤点とったら補習になるんすよ? 放課後一緒に遊べ無くなっちゃうじゃないっすか!」

「そ、そうだった! どうしようエリちゃん!」


 こればっかりは伝家の宝刀"一夜漬け"を使うしかないか……


「テストまでまだ二週間はあるんすけど!?」


 われら劣等生に計画的な勉強なぞ出来るわけなかろう!!


「なかろう!」

「そんな威張られても……」


"ふははは!お嬢さん達、話は聞かせてもらったわ!!"


「え? この声は……!」

「私に良い考えがあるわよ!!!」


 前髪さん! いつから俺の後ろに!?


「ええ!? 私、始業式からずっとあなたの後ろの席なんだけど!!」

「エリちゃん記憶力よく無いからね」

「それより"良い考え"ってなんすか?」


 どうせいつもの変態行為でしょうよ。


「"勉強会"よ! 誰の家でもいいわ、女の子4人でひとつ屋根の下! 勉強会を開くのよ!」

「おお!」

「なるほど、この人達が一人で勉強するよりはずっとよさそうっすね」


 はいはい、いつもの変態行為ねすごいすごい……

 ……え!? 前髪さんがまともなこと言ってる??? 


「ちょっと何それ!? あんまりな言い草じゃないかしら!!?」

「勉強会ッ! おもしろそう!!」

「え? スルーなの貴女達!?」

「でもどこでやるっすか?」

「ねえフォローは!? 私へのフォローは誰かしてくれないの!?」


 普段の行いって重要だと思う。


「私はカメラ向けられたこと忘れないよ」

「まっこと申し訳ありませんでした!」


 見事な土下座だった。


「よろしい、許して遣わすぞよ」

「ははーっ!! ありがたき幸せ!」


 何のプレイしてるんだよあんたら。


「ねぇそれよりどこでやるんすか勉強会!」



<<30分後>>



「「で、でかい……!」」

「そうかしら? これくらい普通じゃない?」

「あんまりじろじろ見られると恥ずかしいっす」


 風が冷たくなってきた10月半ば、あーでもないこーでもないと会議をひとしきり終えた後。

 我々4人はルチアさんの家で勉強会を行うことにした。

 ルチアさん宅は比較的大きな一軒家で、敷地を囲う柵は警備用の魔法らしきものが淡く光っている。

 庭にはプールまでついているが、両親は共働きらしく駐車スペースは空っぽだ。 


「そしてこちらがウチの部屋っす!!」

「おお……これは……」

「なんていうか……」


 普通。


「そんな!? 気合入れて部屋のコーディネートしたのに!!」


 ルチアさんに招かれ通された部屋は、ベットがあって勉強机があって中央のカーペットの上にちゃぶ台が乗っかってる部屋。

 これといって派手な装飾も目だった趣味も見当たらない、いたって普通の女子の部屋だ。


「無難な部屋ねー」

「ほうほう、こっちの本棚は漫画ばかりだねぇ」

「ああ!? 何で物色始めてるんすか!」


 エロ本は無いの?


「エリちゃんさんはなんですぐそっち方向に話振るんすか」

「普通はそういうのスマホに入れると思うわよー? おや、ありました! アルバム発見!!」

「よっしぁあああ!! 早速見ていこうよ!!!」

「何やってるんすか!? ウチの家に来た理由忘れてないっすか!?」


 ルチアさんの恥ずかしい過去暴く会の開催でしょ。


「勉強会! べーんーきょーうーかーいーっっ!!!」

「正直このメンバーが集まった時点でこうなる事は予測できたと思うわ」


 おい提案者。


「畜生! 信じたウチが馬鹿だったっす!!」


 待ってくれ、今回のテスト、俺達は勉強する気は間違いなくあるんだ。

 これだけは信じてほしい。


「エリちゃんさん!」


 だがそれはそれとしてルチアさんの恥ずかしい秘密も知りたいのだ。


「エリちゃんさん!?」

「まぁまぁルーちゃん、まだテストまで2週間もあるから! 気楽にいこう!」

「まさかテストの日まで毎日来るつもりっすか!?」


 1回や2回の付け焼刃でなんとかなるほど高校のテストは甘くないでしょ?


「いいこと言ったわね金髪ちゃん! その通り、勉学は継続してこそよ!」

「一夜漬けでどうにかしようとした人のセリフとは思えないっす」

「あれ? これってまさかルーちゃんの"使い魔"召喚器?」

「あああ!!? クリスちゃんいつの間に人の机漁ってるんすか!!?」


 アルバムに飽きたなこいつ。


「ルーちゃん"使い魔"なんて使うんだね!」

「栗毛さんどんなのつかってるのかしら?」

「別にいいっしょ!? 気にしなくてもいいっしょ!?」


 そういえば今回のテスト内容には悪魔学もあったなー。


「つまりこれもテスト勉強だね!!」

「よし! まずは召喚プロセスの復習よ!!」

「駄目ぇ!! それだけは! それだけは後生っすから!!!」

「そーれ召喚よー」

「いやぁああ!!」


 ルチアさんの抵抗もむなしく、悪魔召喚プログラムに魔力が注がれる。

 やがて召喚器から呼び出されたのはそれぞれ犬と猫によく似た小動物2匹。

 2匹とも手のひらサイズの体躯で、クリクリの目とちっこい角と羽がとても愛らしい。


「あら可愛い」

「これのどこが駄目なの?」

「もういいっすよね!? ウチの子達もう戻してもいいっすよね!?」


 おー愛い奴愛い奴、君ら名前なんて言うんだ? ジャーキー食うか?


「あぁ、駄目っ!!」


"初めまして御主人のご友人! 私はクリスと申します!"

"私はアリエルと申します! ジャーキーうめぇ!!"


「……あれ?アリエルとクリスって私とエリちゃんの名前?」

「ち、違うっすよ!! 偶然! 昔から飼っていたのが偶然被ってしまってただけで!!」


"生まれたばかりで体は小さいですがしっかり悪魔ですよ!"

"たくさんたべて立派な悪魔になるよ!!"


「さっそく矛盾が生じたわよー?」

「いや、その、これは……」


"御主人! いつものなでなではまだですか?"

"猫なで声で頬擦りしながらのなでなではまだですか!?"


「いやあああああ!!!」

「へー? 栗毛さんそういう趣味が?」

「いやっ! 違っ……」


"初めてできた友達を我々に重ね、離れたら嫌っすよ?と泣きながら抱きしめるいつもの御主人はまだですか?"

"NOといえる女になると決意したのに、避けられてると勘違いされて泣きじゃくって転心した御主人はまだですか?"


「oh……」

「殺せーーッ!! いっそ殺せーーーッ!!!」


 悪魔か!

 ……悪魔だったわこの子ら。


"どうやら今は御用がないようなので我々は戻りますね!"

"またジャーキー下さいね御主人のご友人!"


 油断すると使い魔は使役者へ牙を剥く。

 肝に銘じておかないとルチアさんのようにレイプ目にされてしまう。

 大変ためになる授業だった、また明日もお願いしますルチアさん。


「もう……勘弁してくださいっす……」

「羞恥に悶える栗毛さんの表情最高だったわ!」

「アルバムに載せるネタ増えてよかったね!」

「悪魔だ! あんたら全員悪魔っすよ!!!」


 たしかにルチアさんだけ辱めるのは不公平だな、俺の恥ずかしい使い魔も紹介しよう。

 なんとサキュバスだぞ!


「妥当過ぎて何も言えないんすけど!?」


 そいつの愛称が"ルチア"だとしても……?

 

「ドン引きっすよ!!」

「落ち着いて栗毛さん、金髪ちゃんの魔法技術でそんな高位な悪魔よべるわけないでしょう?」


 まあ俺の技術じゃそのサキュバスさん1秒も肉体がもたないんだけどね!


「ああ、たまにエリちゃんの部屋にある肉片って……」


 もちろんルチアさんの肉片だ!


「ドン引きっすよぉお!!!」


 まぁそんなわけだ! ルチアさんより下なんて俺くらいしかいないので安心してほしい!


「安心できる要素が無いっすよ!?」

「うん、そう……ね……」

「ミシェルさんどうしたの?」

「私もサキュバスを少々……」

「そんな趣味聞かれた時みたいな!?」


 で、名前は?


「……アリエルとレイチェル」

「エリちゃんさんと姉御?」

「二人を絡ませるのが趣味でして」


 ドン引きだよぉおお!!!


「わ、私もサキュバス呼べるようになったほうがいいかな!?」

「やめて! クリスちゃんお願い! せめて一人くらいは綺麗なままでいてほしいっす!」


 おっと、偶然にも俺の鞄にサキュバス召喚セットが。


「なんでそんなの持ってるんすか!!?」

「私、やるよ! みんなと一緒にサキュバスさん呼べるようになるよ!」

「なんでそうなるんすか!!?」


 でもサキュバスさん呼ぶためには色々な理論覚えないとなー。


「じゃあちゃんと勉強しないといけないわね」

「そうだったね! そのための勉強会だもんね!」

「赤点回避のためっすよ!!!!」

「そうだ! そういえばテスト前だった!!」

「何しにここに来たと思ってるんすか!!?」


 夕焼けが眩しいルチアさんの部屋に、女子達の騒がしい声が長く響く。

 勉強会という名のルチアさん弄りはまだまだ続く。


「お願いだから、ちゃんと勉強して欲しいんすけど!!」


 テストが来るまでの2週間、馬鹿3人に振り回されるルチアさんには終始疲労の色が耐えなかった。


「地獄っす、これは地獄っす!」


 だが、その声にはどこか嬉しそうな感情が含まれていたのは、俺の気のせいではないだろう。


 2週間後、ルチアさんの親身な指導により、俺と赤毛の劣等生二人は見事学年上位に。

 それもルチアさんより上位の成績を修めた。


「納得いかねええええ!!!!」


 次のテストもお願いしますね。


「2度と御免っすよ!!!」


 今後これが恒例行事になるのだがこれはまた別の話。

 世界は今日も平和であった。


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