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エルフの森へようこそ  作者: やゃや
1,5章「ストーム・エピローグ」
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5話「時計塔のイチリンソウ(後編)」


「このままだと、エルフの国は滅亡するわ!」


 伝説のアホが、アホみたいなことを口走った。反応に困る。


「でも私ならそれを解決できるのよ! お願い、力を貸して!」


 ……そうなんだ、姉御はすごいね頑張って。じゃあ俺帰るから。


「え!? 今の流れでどうしてそうなるの!?」

「待って金髪ちゃんどうしたの? なんでそんなにレイチェルちゃんに冷たいの? お腹痛いから?」


 冷静になって考えてほしい前髪さん。

 エルフの国の危機は百歩譲ってありとしよう、だがそんな危機をこのアラサー女子高生が解決できるなんておかしいのではないだろうか。

 仮に魔法のプロだとしても、このアラサーがだ。


「あー、それはね?その……レイチェルちゃんにも色々とあるのよ」

「ミシェル、火急の事態だもの隠す必要はないわ!」


 姉御は制服の上のガーディガンを翻しこちらに向き直った。


「私の本当の名はレイチェル・フリューゲル・ローリング! 伝説の不良とは、魔法のプロとは仮の姿! 何を隠そうその実態は! マナラインの守護者にして、ローリング家当主に選ばれし魔導士官なのよ!」


 そうなんだ、姉御はすごいね頑張って。じゃあ俺帰るから。


「なんで!?なんでそうなるのよ!!?」


 普通に考えて、留年13回もするアホな人が、そんなすごそうな肩書の職に就けるわけないでしょ。


「落ち着いて金髪ちゃん、普通に考えたら13回も留年する人はいないわ!」


 ッ!? 言われてみれば!?


「あなたもあんまり人のことアホって言えないわよね?」

「そうよ! アホって言う方がアホなんだからね! 私は管理者として学校のマナラインを守護しやすいようにわざと留年してるのよ!」


 そ、そうだったのかすまない姉御、何も知らずに馬鹿にして……


「本当に留年したのは最初の3回だけよ!」


 前髪さん、やっぱりこの姉御信頼できないんですけど!


「なんでよ!? 私正直に話したのに!!」

「あのね金髪ちゃん、ここだけの話なんだけどローリング家ってかなりいいところの名門で……あの子のパパが留年の理由付けの為に管理者や魔導士官への推薦を……ね? わかるでしょ? だから安心して?」


 安心できないんだけど!?

 安心できる要素が何一つないんだけど!?


「でもレイチェルちゃんが管理者ってのは信じられたでしょ?」


 納得はできるけど納得いかないよ!

 ‎こんなのがライフラインを管理していいのかエルフの国!


「いっておくけど管理者の最終選抜はズルできないガチの試験なんだからね! そこだけは頑張ったんだから!!」


 "そこだけは"っていっちゃったよ!

 ‎せめてもうちょっと取り繕ってくれません!?


「まぁまぁ金髪ちゃんその辺で、こんな仕事のレイチェルちゃんが助けて欲しいっていうのだから手伝ってあげた方がいいと思うわ」

「そう、そうだわ忘れてたわ! 今まさにマナラインが危ないのよ! 国の危機なのよ! 手伝って欲しいの、お願い!」


 忘れちゃ駄目だろ管理者様よ。


「でもそんな一大事に私達で手伝えることって何かしら? マナラインの管理ってすごい高度な技術が必要よ?」


 そもそも何が起こって国の危機になったんだよ姉御。


「待って! 一度に二つも三つも質問しないで! 順番! 順番にお願い!」

「そうね、じゃあまずマナラインが危ないとはどういうことなの?」


「実はこの塔の真下にあるマナラインから魔力の製造工場に向かってなんらかの侵食行為が行われているの! 放っておくと最悪の場合、この国全体で魔法が使用できなくなるわ!」


 魔法技術はこの国の様々な生活基盤を支えるものとなっている。

 それが使えないとなったら本気で大変だ。

 ‎俺だって無関係ではいられないだろうし、協力しないわけにもいかない。

 それはいいとしよう。


 ……で、そんな一大事に姉御はなぜそのマナラインに直行しないで俺らに助けを求めてるの?


「それは……その……」


 ?


「道に……迷っちゃって」


 よし、帰ろう! 帰って警察に連絡だ!


「なんでそうなるのよ!?」


 国の明日を左右するような事件に素人が手を出したらダメでしょ?


「プーローでーすーッ!! 私がマナライン守護のプロなんですーッ!! 増援要請受けて来てるんですーッ!!」


 どこの世界に現場で迷子になるプロがいるんだよ!?


「だってしょうがないじゃない!! 私こんなとこ来たの初めてなんだもん!! "がいこーもんだい"とかなんとかで地図も渡されなかったんだもん!! うわぁあん!!」


 ちょっと泣かないでよ!? それは反則でしょ!?

 ‎そもそもあんた俺よりずっと先輩なんでしょ!?


「年齢の話はしないでよぉ!!」

「はいはいレイチェルちゃんこっちおいでー」

「うわぁあん! ミシェルぅ! 金髪がいじめるぅうう!!」


 アラサーの公務員が高校の制服着て現役の女子高生に抱きついていた。

 なんのプレイをしてるんだあんたらは。


「アリエルちゃん、私からもお願いしてもいいかしら? この子の手伝いしてくれない?」


 ……正直もっとちゃんとした人なら安心してお手伝い出来るんだが。


「私もフォローするから、ね? それに手伝ってくれたら体で奉仕するわよ、レイチェルちゃんが」

「え!? 何勝手に決めてるの!?」 


 ごめんなさい、要りません。


「拒否されるのもなんか屈辱なんですけど!!」

「こうなったら残る手段はデビルアネモネしかないわ……」

「もうちょっと何かあるでしょミシェル!?」


 しょうがない、それで手を打とう。


「私の奉仕そのドロドロ以下なの!?」


 はっきりいって、姉御は体だけなら俺の好みどストライクである。

 金髪ロングのエルフで背の高い美人さん、胸が小さいこと以外は完璧である。


 ‎が、オツムの方を考えるとちょっと……

 うちの赤毛さんと同じくらい何するかわからないレベルのアホだもの。


「ねぇなんでこの人さっきから動物を見るような目で私を見てるの!?」

「これは金髪ちゃんなりの照れ隠しよ、素直に手伝ってあげるっていえない照れ屋さんなのよ」


 違うよ! 違うからね!! 手伝った方が胃に負担がかからないって思っただけだから!!


「あら?手 伝わない方が胃が痛いってことかしら!? あらあらぁ!?」


 ち、違っ……これは……


「ふふん、私の目は誤魔化せないわよ!! 貴女は栗毛さんと同類のチョロウーマンね! 間違いない!」


 待って! 俺はあそこまでチョロくない!!


「二人とも何の話してるの?」


「お嬢ちゃん達? うちの店の前で騒ぐのやめてくれねぇかな!?」


 いかん、騒ぎすぎて店の人が注意しにきた!

 そういえばさっきの魔道具屋の前からまだ一歩も動いていなかった。


「ああもぅ! 何でもいいわ! 怒られる前に早く行くのよ! 地下! 地下にいけばいいの!」


 おいやめてくれ姉御! 腕を引っ張るでない!


「あらあら!? こうして見ると二人とも姉妹みたいね! お揃いの金髪で!」


 前髪さん、あんた何を考えて……


「ブツブツ……姉妹丼もアリ……効率よくくっつけるには……」


 !?


「何でもいいからさっさとどっかいってくれ! 荷造りの邪魔なんだよ!」


 ねぇ今何を言おうとしてたんだ前髪さん!


「な、何でもないわよ!? ちょっと考え事してただけだから!!」

「無視しないでくれ! 頼むよ、これ以上ここで騒がないでくれ!! なんならお金払うからさぁ!」


 

 <<数分後>>



 魔道具屋のおっちゃんの"もう二度と来るな!!"を背に受けて、時計塔地下へ向かうこと5分と少し。

 俺の案内で黴臭い地下への隠し通路をいくつか抜けると、マナラインの直上となる管理者室へとたどり着く。

 ここの部屋のライン上から異常が検知されたのだそうな。


「さぁーてお仕事はじめますか!」


 姉御は張り切っている。


「レイチェルちゃんその顔goodよ! そのまま右に目線ちょうだい!」


 前髪さんはカメラを構え発情している。


 よしよし二人とも状態は万全だな、じゃあ俺は帰るね。


「なんでよ!? みんな一緒に行きましょうよ!」

「待って!! 帰っちゃダメ!! 帰り路がわからなくなるわ!!」


 ならせめてここで待機させてくれよ!

 なんで俺も一緒に突入する流れなんだよ!

 もう嫌な予感しかしないんだよ!


「大丈夫よ金髪ちゃん! こっちにはレイチェルちゃんがいるんだから!」


 だから心配なんだよ!?


「ちょっと!? どういう意味!?」


 それに見てよあの管理者室の扉! 

 めっちゃガタガタいってるんよ!?

 絶対なんか危ない奴いるって!


「細かいこと気にしたらハゲるわよ!! さぁ突入よ!!」


 いやぁああ殺される! 馬鹿に殺される!!!


「安心して! 私がフォローするから!」

「私がいるんだから天下無双よ! 安心しなさい!」


 なんであんたらそんな自信満々なの!?


 必死に抵抗するがエルフ二人がかりには勝てるはずもなく、俺はずるずると引きづられ部屋へ連れ込まれる。


 姉御が扉を蹴り開けると、そこは武骨な機械の並ぶ時計塔地下の管理人室。

 先程の扉をガタガタさせていた正体は……


「これは……?」

「デビルアネモネ?」


 部屋の中は大量のタール状半固形物で埋め尽くされていた。

 時計塔を維持し、ひたすら上に上に伸ばす役割を持つはずのその物質は、なぜか地面に向かってウネウネと歩みを進めていた。


「これが異常の原因ね! こいつらぶち殺せば解決なのね!」

 

 姉御、落ち着いて。こいつらは無生物だよ。


「問答無用! 魔王を封印せし地獄の凍土を呼び寄せて、この辺り一帯ごと死の氷でぶちのめすわ!」


 え!? ねぇそれ俺達まで巻き込まれない!!?


「アリエルちゃん、学校で最低限の対魔防御は習ったはずでしょ? いつも通りやれば大丈夫よ!」


 巻き込む前提かよ!!?

 というかこの人魔王を封印とかどうとか言ってるんですよ!?

 前髪さん俺の成績知ってるでしょ、学年最下位だよ? 防げるわけないでしょ!!


「私がフォローするから安心して?」

「さぁ地盤ごと凍死させるわよ!! 気合入れなさい!!」


 いやあぁあ!! 殺される! 馬鹿に殺される!!!


「魔導士官、レイチェル・フリューゲル・ローリングが全物質に命ず!」


 マナラインに接続した姉御から尋常ではない魔力が溢れだす。

 あ、やばい防御がどうとかじゃない。これ俺死ぬ。


「凍りなさい! 一片残らず全て!」


 これといった光も音も無かった。

 姉御の言葉が終わると同時に、時が止まったように視界に入るすべてが凍結した。

 一瞬の後に、霜があらゆる場所に付着する。


「はい、おしまーい! マナラインに引っ付いたやつらもこの部屋でうろちょろしてる奴もぜぇんぶ凍死したわよー!! どう!? どう!? 今度こそプロだって信じてくれるでしょう!?」


 死ぬかと思ったあああ!! 怖がっだよ前髪ざんん!!!


「はーいよしよし大丈夫よー、フォローするって言ったじゃない安心してー」


 あったかいよぉ!! 人の肌ってあったかいよぉ!!


「ねぇ無視しないで!!?」


 うるさい! 周りの迷惑も考えない破壊者め!!!


「何よ! ミシェルがちゃんと守ってくれたじゃない! 考え無しにやったわけじゃないわよ!」

「でもこれでレイチェルちゃんが管理者できるくらいの魔術師だって信じるでしょ?」


 まさかそのために俺を危険な目に合わせたのかよ!!?


「まぁここまで無差別攻撃するとは思ってなかったけど……」

「だってこの方がすぐ終わるじゃない!!」


 やっぱり姉御を管理者にするのは間違いなのでは、エルフの国よ。


「まぁなんにせよこれで万事解決ね!」


 いや、まだ原因究明してないでしょ!?

 このままじゃまたアネモネが降りてくるぞ!?

 大体なんで上へ上へ行く習性のデビルアネモネは地面に向かってるんだよ!?

 そもそも元々ここを管理してた奴はどこいったんだよ!?


「そういうの調べるのは頭のいい人がやればいいと思うの……」


 おい管理放棄すんなよ管理者!


「だってさっきからここの管理人と連絡つかないのよ!? どうせ逃げたに決まってるわよ!」


 そんな無責任なことあるかよ!?


「知ってる金髪ちゃん? マナラインの管理者って他の魔術公務員より給料よく無いのよ?」


 今そんな世知辛いこと言われても!


「大体このドロドロ達だって重力に負けたい時くらいあるでしょ? またこうなった時はもう一回凍らせてあげればいいと思うの!」


 ふーん? 姉御ここにくるまでの道覚えてる? 結構隠し扉つかったよ?


「そのときはまた貴女にお願いするわ!!」


 そのたびにまた俺ごと凍らす気じゃないだろうな!?


「重力……? あ……あぁ!! ね、ねぇねぇアリエルちゃん!!」


 急にどうした前髪さん。


「デビルアネモネが上にいく習性って、もしかして機械で操ってたりしない!?」


 あー、元々は魔法だけでやってたけど、塔が巨大化するに従って補助装置を付けたってのは聞いた事がある……あぁ!!?


「え? その装置が無くなったから今回みたいになったって事?」

「その装置ってやっぱり……」


 その補助装置の名は、反重力装置……

 まずめったにお目にかかれない超レアモノで、それの所持者はついさっき荷造りをしていると言っていた。


「呼びましょうか、警察」

 




 一時間後、魔道具屋のおっちゃんは警察と管理者の合同チームにより逮捕され、今回の事件は無事解決した。

 "金に困ってたくさんの物を盗んだ、反省している"

 "マナライン管理者にあるまじき行為だと思う"

 とはおっちゃんの供述である。


 一方で姉御は、今回の件で珍しくお偉いさんに褒められたとかでウキウキしている。


「いやー私ったらお手柄だってさ! ありがとうねミシェル! アリエル! あなた達のおかげよ!!」

「よかったわねレイチェルちゃん!」


 うん、よかったと思うよ? 一応は……


「あれ? どしたの?」


 でもさ今回の事件、姉御が同業者である魔道具屋さんの顔覚えてたら、俺が危険な目にあうことなく解決したと思うんだよね。


「え!? いや、それは……ほら、誰だってそういうことだってあるじゃない!」


 この件はお偉いさんにも話を通した方がいいと思うんだよね。


「え!? 待って! 待ってお願い! 今までこの仕事褒められるなんてこと一回も無かったのよ!! 今回だけは! 今回だけはお願い!!!」


 えー? どうしよっかなー?


「あ! ほら、赤毛さんから聞いてるわよ! 体でご奉仕されるのとか好きなんでしょ!? どうせ女同士だし、私のならいくらでも使っていいから!!」


 そうやってすぐエロで釣るのはよく無いと思います。


「なんで私だけ反応が違うのよおぉお!!?」

「あらあら、仲いいわねぇ」

「ねぇミシェルお願いよ! あなたからも何とか言ってよ!!」

「えー? どうしようかしらねぇ?」

「なんでぇ!!?」


 時計塔に姉御の叫びが響き渡る。

 時刻は19時ちょうど、姉御の叫びに呼応するかのように時計塔の鐘が鳴った。


 世界は今日も平和である。





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