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エルフの森へようこそ  作者: やゃや
1,5章「ストーム・エピローグ」
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2話「女神不転生」



 女子高生生活が始まって一週間、穏やかな秋風の吹く放課後。

 授業を終え机に突っ伏す俺には一つの悩みが付きまとっていた。


 ルチアさんが冷たい。


 ロリコンの騒ぎが終わって1週間、ルチアさんがどこか余所余所しいのだ。


 俺が初日に卑猥な肉の棒を先生に没収されたのが原因か、はたまた後ろの席の前髪さんと一緒に「あの人強引に頼めば色々やってくれるわよね? 今度一緒に試してみない?」等と話していたことが原因か……と思っていたが、うちの赤毛に対しても少し距離を取ってる様子。


 何か別な要因で二人そろって嫌われたのだろうか。

 まぁもっとも、彼女と出会ってから日が浅いので、初日は猫をかぶっていただけということもありえるのだが……


「ルーちゃんルーちゃん! お願い! 明日の二人一組の魔術実習一緒にやって欲しいの! エリちゃん他の人と決めちゃったんだよ!!」

「え? えーっとウチはその、できれば遠慮したいっていうか……」

「お願い! 私エリちゃんとルーちゃん以外このクラス友達いないの!! お願い!!! お願いだよぉ……」

「あぁもうわかったっすよ! やるから! 一緒にやるから泣かないで!」


 やっぱり訂正。

 ‎ないわ、ルチアさんが猫をかぶっていた線はない。

 教室の窓際でうちの赤毛に絡まれている様を見るに確信できる。


 あの人のお人よし加減(チョロさ)は筋金入りだ。

 うちの赤毛の馬鹿とまともに友人ができているのだから。

 きっとあの人は根っからの聖人君子なのだろう。


「ねぇねぇ?ちょっといいかしら?」


 すすり泣く赤毛を慰めるポニテのヒューマンをみつめていると、後ろから前髪長い人が声をかけて来た。


「最近赤毛さんと栗毛さんの仲がぎこちないようだけど、まさか倦怠期とかだったりしない?」


 唐突に何なんだこの前髪さんは。

 出会って一週間足らずの二人が倦怠期ってなんだよ。

 そもそもあの二人は恋仲ではない。


「ふふふ、隠したって無駄よ! 私のレズセンサーがあの二人の熟練カップルっぷりを受信してやまないのだから!」


 そのセンサー壊れてませんかね。


「あんな尊いカップリングを独占なんて許さないわよ! 私にも供給してちょうだい!! ここのとこ取り締まり厳しくてもう辛抱たまらないのよ!! あ、まさかあなたがあの二人の恋に割りこんだりとか!? そう、たとえば最初は幼馴染を取られて嫉妬していただけ……そんな金髪ちゃんも次第に自分の恋心に目覚める……しかしそこに立ちはだかる栗毛さん、どろどろの三角関係が今ここにッ!! ……アリね!!! それはそれでおいしいわ!!!」


 思考が明後日に飛び始めた前髪さんは一人で興奮し顔を赤くしている。

 もう俺帰っていいですかね。


「ふぅ……ごめんなさい少し興奮しすぎたわ、それでなんの話してましたっけ?」


 もう帰っていいよね? 帰るよ。


「待って! 逃げないで! わかってる! わかってるから! 栗毛さんの様子がおかしいんでしょう!? 大丈夫、私に良い考えがあるから聞いて!」


 勝手にまくし立てた前髪さんはなにやら鞄をごそごそしている。

 正直嫌な予感しかしないのだが、前かがみになった前髪さんの胸が思いのほか大きかったので話を聞くのは継続しようと思う。


「いいこと? 金髪ちゃんも赤毛さんもグイグイいきすぎなのよ、栗毛さんはエルフで無くて人間なのよ?」


 前髪さんの指摘がよくわからない、人間だから何なのだ。


「……あなた、ここが何の国かわかってる?」


 エルフの国でしょ、さすがにそれくらい知ってるよ。


「そう! エルフの国よ! 右を向いても左を向いてもエルフエルフエルフ! そんな中彼女はこのクラスで唯一の人間なのよ! そんな場所に置かれた栗毛さんの気持ちは一体どう!?」


 なるほど、‎なにかしら壁を感じていてもおかしくはない。


「そうでしょうそうでしょう!? だからこそあの二人は尊いの! 間違えた、だからこそ私は考えたの! そんな種族の壁を取り除く方法を!」


 そういって前髪さんは鞄からなにやら取りだした。

 取っ手が付いていて、キラキラで、長さは15cmほどの金属のそれ。


「じゃじゃーん! 特殊な鉱石でできた魔術ナイフよ! こいつで私達の耳を削ぎ落しましょう!!」


 却下だバカモン!!


「ああッ!! なんで折っちゃうの!? エルフと人間なんて見た目耳の長さくらいしか違わないじゃない、どう考えても完璧な案でしょ!!」


 知人がいきなり耳削いで来たらドン引きするわ!!!

 ‎あとルチアさんが可愛いだけで人間はエルフほど美人じゃないからな!


「ならばプランBよ! まずはこの催眠弾をぶちかまして昏倒させ……」


 刑法に抵触するわ!!‎ 捨ててしまえこんなもん!!!


「落ち着いて金髪ちゃん! この国で同性愛はそもそも違法なのよ!」


 だからって他に何してもいいわけでも無いよ!?


「そういう意見もあると思って自分で耳を削ぎ落すのがプランAなのに……」


 もういいです前髪さんありがとう。もう自分で何とかしますんで。

 一緒にルチアさんのこと考えてくれたことは色々なこと抜きに感謝してます、ありがとう前髪さん。


「待って! まだとっておきのプランZがあるの!」


 いやもう十分なんで、もうほんと十分あなたの善意は伝わったんで勘弁してください!


「大丈夫! アレを見ればあなたもきっと満足するはずよ! だからお願いちょっとだけ! ちょっとだけ待ってて!」


 俺へ必死に静止を促した前髪さんは"絶対私抜きでなんかしないでね! 絶対だからね!"と言い残し、教室の外へと出ていった。

 "アレ"とは鞄で持ち歩けないほど巨大な何かなのだろうか。勘弁してほしい。

 しかし、前髪さんの発言にもいくつか気付かされる部分はあった。


 ルチアさんは人間で、我々はエルフ、種族の壁が存在するのだ。


 エルフとして15年も過ごしていたから忘れていたが、戦争という歴史により人間とエルフの間には少なからず壁がある。

 文明開化で友好関係になったとはいえ、過去にあった遺恨やわだかまりがチャラになるというわけでもない。

 そして現在この国の人口分布は雑種含むエルフ9割、その他種族1割。


 ……なんてこった! なぜ今まで気がつかなかった!? こんな国でルチアさんが迫害されないことなどありえようか! いや、ありえない!

 きっと過去の因縁を盾にあんなことやこんなことをされたに違いない! もしかしたら現在進行形!!

 いかん! 保護せねば! 可愛い優しいみんなのチョロヒューマンを保護せねば!


「いまなんかすげー失礼な発言が聞こえた気が……」


 うおおお!!! ルチアさぁああん!!


「うわぁ!? なんか来た!? 何!? いきなりなんすか!?」 


 俺を見るなり即逃げようとするルチアさん。

 だがしかし! 我が光速のエルフ反射神経は栗毛のヒューマンを正確に捕らえることができ、そこから大外刈りの要領で足を払いマウントポジションの確保までできるのだ!


「痛ぁっ!? いきなりなんすか!? 喧嘩売るってんなら買うっすよ!?」


 気づいてやれなくてごめんよルチアさん!


「何が!?」


 ルチアさんは今までたくさんの敵と戦っていたのだな!!


「そうですね!? 今まさにアンタに襲われてるっすね!?」


 だが安心してくれ! ルチアさんは我々が守る。

 ‎遠慮せず我が胸に抱かれて欲しい!


「いや今一番やばいのはエリちゃんさ、痛っだぁああ!! 背骨が、背骨がぁああ!!」

「エリちゃん落ち着いて! いきなりベアハッグなんてどうしたの!?」


 クリス、ここ最近ルチアさんが冷たいのはきっと俺達がエルフだからだ!

 彼女はエルフと人間の種族間抗争に俺達を巻き込むまいとしているのだよ!


「な、なんだって!? 水臭いよルーちゃん!!」

「いや、違っ」


 安心してくれ! 種族は違えど我らは心の友だ!

 ‎いかなる困難も共に乗り越えられる!


「たとえエルフの国全てが相手になろうと! 私達はルーちゃんの味方だよ!」

「心意気はありがたいっすけどそういう話じゃなくてね!!?」


 さぁ、国会議事堂に火を放つぞ!!


「応ッ!!」

「"応"じゃないっすよ!? 何さらっとテロ行為しようとしてんすか!?」


 ルチアさんを苦しめるエルフ社会なんて潰してしまおうかと。


「なんでウチがエルフから迫害されてることになってるんすか!?」


 だって最近のルチアさん冷たいんだもん。

 他のエルフにいじめられてるくらいしか理由が思い浮かばないんだもん。


「なるほど! 名推理だよエリちゃん! さっそくその人達にヤキいれなきゃ!」

「いやいやもうちょっと他に思いつくのあるっしょ!? 二人ともアホなんすか!?」


 じゃあなんで我々のこと避けてたんです?


「……言わなきゃだめっすか?恥ずかしい話なんすけど」

「言わないとこれから毎日国会議事堂を焼きにいくよ」


 落ち着けクリス。

 脅すのはやめなさい。


「はぁ……しょうがないっすね、まあ簡単に言うとウチは生まれ変わったんすよ」

「へ?」


 なんてこった、頭の病気だったか。


「違うんすよ! ほら、みんながみんないっつもチョロいだの頼めば何でもやってくれるって言うから流石に怒ったんすよ!!」 

「言ってたのエリちゃんとミシェルさんだけだった気がする」


 まったく記憶にございません。


「だから! ウチは、この一週間を境に生まれ変わったんすよ!! 流されないNOといえるヒューマンに!!」


 なるほど、だからあの日以降態度が冷たく感じたのか。


「え?つまり前のルーちゃんはもう死んじゃったの?」


 あ、ダメだ! うちの赤毛さんわかってねぇ!


「始業式の日、不安だった私に声をかけてくれたルーちゃんはもういないの?」

「いや、違っ、そんなつもりじゃ……」


 落ち着けルチアさん! 流されない女はどこいった!?


「で、でもクリスちゃん泣いてるっす……」


 気にしなくていいよ! これ馬鹿なだけだから!!


「一昨日、足の遅い私の代わりにマラソン走ってくれた優しいルーちゃんはもういないの?」


 お前それサボりたくて代わってもらっただけじゃないだろうな!?


「クリスちゃん、大丈夫! ほら、全部嘘っすよ! チョロ優しいルチアさんはちゃんと今まで通りここにいるっすよ!!」


 いいのかルチアさん!?

 ここでチョロさを認めて引き下がったら高校生活ずっとチョロいキャラだぞ!?


「友達が泣いてるんすよエリちゃんさん、ここで行かなきゃ……」


 あぁ。


「ここで行かなきゃ女がすたるっすよ!!」


 あぁそうだったのか。

 赤毛の馬鹿のもとへ駆けだすルチアさんを見て、俺はようやく気が付いた。

 前髪さんの言っていた熟練カップルの電波のこと。

 それはこの馬鹿二人が同じレベルのアホであるが故に発していた、共鳴のようなものだったのだろうと。


「ルーちゃん!」

「クリスちゃん!」


 がっしりと握手を交わした馬鹿二人を見て、俺は考えるのをやめた。

 

 そして、その握手を見ていた人物がもう一人。


「な、なんでもう仲直りしちゃってるのよ!!?」


 手錠を片手に硬直している前髪さんがいた。

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