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エルフの森へようこそ  作者: やゃや
1章「Welcome to the ジャングル」
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9話「台風一過」


(まっっっったく!!! 何て事をしてくれたんだい、この問題児が!!!)


 日付変わって9月2日、エルフの国。

 入学式も終わり、何も無い普通の平日の朝。

 学校に行く準備をするはずの朝。


(あんたの所為で各界のパワーバランスがめちゃくちゃだよ、どうしてくれるんだい、まったくもう!!!)


 ハッピーエンドで終わったはずの神様騒ぎの件で、俺はおばちゃんから説教を喰らっていた。

 おかしいな、俺の計画は完璧だったはず……


(なーーーにが完璧だい!! おかしいのはお前の頭の方だよこの大馬鹿者が!!)


 怒ってないで説明をして欲しい。

 何がそんなに悪かったんだ?


(説明? んなもんたった3行で済むわ!! 冥界が、神の力を、手に入れた!! 以上!)


 ……何の問題が?


(パワーバランスが崩れたって今行ったばかりだろがい!!! 今まで持ちつ持たれつ何とか同格としてきたのに!!! 奴らの世界が突然上の立場になっちまったんだよ!! おかげでこっちの世界もあっちの世界も大騒ぎさ!!)


 ……よくわかんないけど難しい話?

 世界の危機とかではないの?


(世界の危機はもう去ったわ!! ……まあそこは紛れもなく"誰かさん達"のおかげだがね)


 じゃあもういいじゃない。

 通学バスがもう来そうだし、行っていい?


(よく無いわ!! ここからが一番肝心な所だよ!! あんたの行動は以上二つの点から、最終的に収支合わせてぎりぎりマイナス! 結果、ペナルティが課せられたんだよ!!)


 ぺ、ペナルティ!?


(入寮の話がパアになるかもしれないんだ!!)


 あー……そういえば昨日、そんな話もあったね。

 新しい責任者次第とかそんな話。

 その話を俺への罰則として使おうってわけだ。


 しかしまあ、ペナルティなんていった割にそれだけなのか……


(……? ずいぶん軽い反応だね? 昨日あんなに行きたがってたじゃないか! 急にどうしたんだい!?)


 何故、と問うおばちゃんの質問に、俺は少し言葉に詰まった。


 別に急にこのボロ家が好きになったわけではないのだ。

 冬は隙間風で極寒だし、夏は熱がこもって蒸し風呂みたいだし。

 借金取りのおっさんが管理、改善を申し出てはいるが、正式に受理されてあれこれ出来るようになるのは春が来てからだろうし。


 ……ただ、無理に出ていかなくてもいいんじゃないか? と、そんな風に思っただけなのだ。


(……昨日、なんかあったのかい?)


 別に劇的な変化が起こるような事は無かった。

 しかしまあ、強いてあげるとすれば…… 


「エリちゃんエリちゃん! 何してるの、まだ寝てるの!? バスバス!! バスがもう来る時間だよ!! 早く行こうよ!!」

「あー、エリちゃんさんまだ起きてないんすか? わざわざ訪ねに来たのは正解だったすね」


 騒々しい馬鹿が一人増えた事、責任者不在の孤児院が集まるのに都合の良い場所である事、等等……


(よく分からんけど、寮に行けなくても、あんたは納得できるんだね?)


 まあこの孤児院も7年間洗ってないコートみたいなものだ、受け入れよう。



(……? ……何言ってんだいアンタ)


 ……ごめん! 今のなし! 今のなし!!

 自分でも何言ってんだか分かんない!!

 なんか上手い事言おうとして失敗した!!


(7年間洗ってないコートみたいなものだ)


 リピートするんじゃねえ糞ババアぁああ!!! 


(7年間洗ってないコートみたいなものだ)


 やめてくださいお願いします!! 死んでしまいます恥ずかしさで!!


(7年間洗ってないコートみたいなものだ)


 もういっそ殺してくれ……!!!


「何やってるんすかエリちゃんさん?」

「バスもう来ちゃうよ!?」


 助けてくれ二人とも!!

 7年間洗ってないコートが俺を殺しにくる!!


「何言ってるんすかあんた……」

「変な夢でも見てたの?」


 何も聞かないで!!! そして早くここを出よう! 遅刻する!


(7年間洗ってないコートみたいなものだ)


 あー! あー!! 聞こえない! 何も聞こえない!!!


「なんすか今の声!? 幽霊っすか!?」

「いや、今の声はおばちゃんの……? コートがどうかしたの?」


 遅刻するぞ!! 早くバスに向かおう!!


「誰のせいでここまで遅れたと思ってるんすか……」

「よくわかんないけどいいんじゃないかな? エリちゃん楽しそうだし!」


(馬鹿だねぇ……)


 嵐が去り、青空が広がるエルフの国。

 高気圧に覆われた今日の日は、秋模様の肌寒い空気から一転し、暖かい空気に包まれていた。


 新品のスクールザックを下げ登校する、小学生の集団の中。

 いかつい顔のおっさんに見送られる、一人の銀髪幼女の姿があったのはまた別の話。


 エルフの国は、今日も平和であった。





「……あ、そうだ! ところで二人とも知ってるっすか? 伝説の不良の話」

「伝説の不良?」


 平和な平和なバスの中。

 今日は何でもない平日の日……だというのにルチアさんが不穏当なワードを投げかける。

 この科学蔓延るエルフの国で、不良って……

 

「過去700回の赤点を喰らい、留年する事13回!その全てを生き延びてしまった伝説の不良!その名も"不死の悪鬼"!」

「何それ!? かっこいい!!」


 それ伝説の不良って言うか、伝説の馬鹿じゃねえの?


「なんでも、毎日次のバス停でこのバスに乗るって噂らしいっすよ!」

「なにそれ! 見たい見たい!!」


 いや、いいよ面倒事の臭いしかしないもん。

 極力関わり合いにになりたくないよ……


「えー、なんでなんで?」

「あ、それよりバスが止まったすよ! このバス停から乗るのはその伝説の不良……だけらしい…………っす……」


 バスの入り口、運転席側。"伝説の不良"らしき人物が乗ってきた。

 我々の座る席はバスの入り口付近。

 当然その不良と目が合うわけで……


「あ」


 あ。


 我々とも、その不良の声ともつかない"あ"だった。

 そいつの顔は"あ"としか言えない顔だった。


 なぜならそいつは……


「「「「あああああああ!!!??」」」」


「な、なんでアンタ達がここにいるのよ!?」

「それはこっちの台詞っすよ!?」


 昨日嫌というほど顔を合わせた、自称プロその人だったのだから。



 平和の訪れたエルフの国。青空広がる穏やかな朝。

 だが平穏な学校生活というモノは、どうやら俺には無いらしい。


 9月2日、なんでもない普通の日。

 エルフの国"は"、今日も平和であった。


 俺の生活とは、まるで対極であった。




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