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バンギャとアイオタと、そして全ての敬虔な信者たちへ

「ウイリアム・ギブソンの本がようやく電子書籍化したんですよ」

「言ってましたね、この前」

「でもスプロール・シリーズだけだったんです」


正確にはディファレンスエンジンも電子書籍化された。あと他にもいくつかあった。


「今日本人が読むべき『あいどる』は電子書籍どころか再販されないんですよ! なんで、どうして!? 角川バカなの? 死ぬの? 商機逃しまくってるけど大丈夫なの? だって『世界的有名なロックバンドのボーカルがいきなり二次元アイドルと結婚するって言い出したのだが私はその噂信じない』が導入だよ? 今でしょ、いや正確には2007年か。それとも2010年か、2011年なのか。と、に、か、く今すぐにでも読むべき人に読まれないといけないんですよ。それは誰だって。それはバンギャとアイオタ、それから全てのファンたちにだよ!

この主人公のチア14歳は自分の大好きなロー/レズが日本のあるクラブでいきなり「二次元アイドルと結婚する」って言い出して、その噂を確かめるためだけに日本に来るんだよ。これだけでまず素晴らしいですね。バンギャこれくらい普通。この頭おかしさわかる。勉強会って親に嘘ついておっかけ。

この子は自分の誕生日の一週間前にファーストアルバムが発売されたことから『私が生まれた瞬間からロー/レズのことを好きなんだ』って思ってるの。この曲私のことを歌ってるですよ。このバンギャの思い込み、すごく気持ちわかる。誰だって好きなものに対して自分のためだけに誂えられたと思い込むのやる。

で、『震災が起こって復興したあと』の東京にやって来て同じファンの子の家に泊まる。携帯?モバイルパソコン?で翻訳しているから言葉とか気にしなくていい、もうロー/レズが好きだからという理由だけで日本の女の子も家に泊めるし、チアも泊まる。

それから向かうファンコミュニティ日本支部、まずこのファングループがくそ。規律正しく追っかけするジャニーズや宝塚のオタのように同調圧力高くて形式にこだわるのをチアはイライラするんだけど、そこも含めてファンじゃない人間からすると、そういう統率の取れたオタ芸みたいな集団大好き。実際そのファンならチアみたいにイライラすると思うんだけど、やっぱ隣の芝生や隣の行列は美しいと感じてしまうわけですよ。アバターマウンティング、私もやりたい。畳の柄がインタビュー映像で着物の柄がシークレットライブの映像とか、セカンドライフでこんなマウンティングしたい。

なんやかんやあってバンドのファンが集まる中、主人公はスタッフの車で通り抜ける。自分は外の普通のファンの女の子にはもう戻れないんだって気付いちゃうの。なんやかんやのところでチアはもうただの何も知らないファンじゃなくなって半オタ関係者になっちゃうの、他にもまあ色々あるんだけど、気づいちゃうの。恋に落ちたファーストアルバムの彼はもう親くらいの年だって、スターたちは退屈で信じられない世界を生きるただの人なんだって。知ってしまうともう知らなかった頃には戻れない。

この半オタ関係者の悲哀っていうのかな、誰よりもロー/レズに会いたかったのに、それはファンではなくなっちゃうことなんだっていう二律背反。この悲しさがなんか友達のバンギャやアイオタを重ねてしまって私はとても悲しい気持ちになるのです」


「アイオタって男?」

「え、女ですよ、なんで男だと思うんですか?」

「いや、別に」

「で、佐野さんはアイオタでもバンギャでもないけど読んで欲しいので私の貸します。読んでください」


「あいどる」ウイリアム・ギブソン……わたしはこの小説をやはりバンギャ、アイドルオタの話だと思う。好きなボーカルの結婚発表の噂を確認するためだけに来日するオタ。規律の多いファンコミュニティを作るオタ。どこにいるという情報が出れば現場に集まっちゃうオタ。半オタ関係者であることに優越感を感じてボランティアで火消しをするオタ。絶対に会うことのない、インターネットだけの友達がいるオタ。最高のアイドルオタSF小説、それが「あいどる」。


2007年……初音ミクさんの発売と一大ムーブメント。二次元アイドルといったら伊達杏子という時代は遠くなりにけり。初音ミク登場で沸いたSFファンはギブソンのツイッターにリプを送ったんだけどギブソンが「初音ミクはハイレゾじゃない」といって軽く混乱、最後はギブソンが「ごめんね、初音ミクすごいね」という始末。再販されないのはこれのせい?


2010年……5月30日放送のMUSIC JAPANでももクロが怪盗少女を歌い、かなこがエビ反りジャンプをしたアイドル戦国時代の幕開けの瞬間。


2011年……東北大震災。


アメリカから日本に来るの普通…… そのうち日本からブラジル以外は近いのレベルが来るかもしれない。今は台湾近いのレベル。で、結局勉強会といって出かけたチアの嘘は親にはバレていて、帰ってきて避妊とセックスのお説教されるの思春期女の子外泊あるある。


この曲私を歌ってる……二階席で、わ、目があった。レスが来た!など全ての思い込みが愛おしい。


規律正しく追っかけする……宝塚の出待ちはすごく整然としていてうっとりして元気をもらっている。


アバターマウンティング……セカンドライフが定着していたらこんな世界線に私も行けたのかな。ちなみにチアがアメリカでのオタ友の1人に「こいつ可愛いアバター使ってるけど絶対デブだな」って思うところはきっとみなさま経験があるはず。


貸します……今見たらマーケットプレイス、いいお値段していた。そんなん貸せないから早く再販してほしい。

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