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でも愛し合うことだけがどうしてもやめられない

私に彼氏ができないのは多分私が欲しいと思ったことがないからだと思う。

少女漫画は読んでいたけどどれも可愛い女の子が嫉妬したり不安になったり楽しそうとは思えなかった。


そんなことより漫画や小説の大冒険や不思議な世界のほうが楽しくてワクワクして羨ましくて憧れて大好きだった。その世界も主人公もヒロインも敵役もこの世界には存在しないけど、ときたま私の周りをふっと通り過ぎた。この気持ちってあの時の読んだあの気持ちだ。そういう気持ちのかけらは私の周りでいつまでもキラキラとしていた。


そういうことが一般的でないということは知っていた。私たちは本当はおしゃれをしなくちゃいけなくて、私たちは男の子のことを好きにならないといけなくて、私たちは男のために可愛くなくちゃいけなくて、私たちはセックスしなければいけなかった。あの楽しいと思えなかった少女漫画の可愛い主人公のように。


最初のキスのあとに起こったことはひどいこととも言えないつまらないことだった。


私は選ばれない。


大人になってみて、選ばれないのにエントリーし続けるなんてことする必要はなく、また同じように楽しいに貪欲な人たちがたくさんいた。

私がその理由が理解してあげられない別のものが好きな子も、その好きな気持ちのエントロピーは私となんら変わらないから楽しかった。同じものが好きな人や好きなものが好きな人と友達になってさらに楽しくなった。


私が泣きたくなるような話はきかせないで。きかせないで。


「好きです」


佐野さんがもう一度言った。

笑え、笑い飛ばせ。


「あー、私も佐野さんのことは好きですよでなきゃご飯食べたり買い物行ったりしないですよ」

「そうじゃない」


ごまかそうとして失敗した。


「誤魔化さないで」


だってこんなの楽しくない。

これまでと同じように本を読んで、これまでと同じように感想を言い合って、これまでと同じようにバカ話してるで十二分に楽しいじゃないか。余計なことをしなくても、余計な関係にならなくても。余計な恋愛をしなくても。


「俺のこと嫌い?」


嫌いじゃない。


「変わらないよ、なにも」

「じゃあ言わなきゃいいのに」


これからもずっとこういう楽しい感じが続くと思っているのに。この終わらないパーティーはずっとずっと続くと思っていたのに。


「好きな人に好きだって言いたい気持ち、嶋井さんもわかるでしょ」


楽しいことを楽しいと誰かに話すのは楽しい。そう、佐野さんといて、全くSFに無知な佐野さんに話して聞いてもらえることはとても楽しかった。

楽しいことを楽しいと話すのと好きなことを好きだと話すのは同じこと?


私はSFが好き。


「俺は嶋井さんが好きだよ」

「SFの次に佐野さんは好き」


あ、まつ毛長い。


「すげぇ嬉しい」

でも愛し合うことだけがどうしてもやめられない……2080年 人類最初の木星到達時、星野八郎太の言葉 「プラテネス」幸村誠

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