新興宗教
おいおい、カードキャプターさくらアニメ化、ブギーポップアニメ化、オーフェンアニメ化って21世紀の話じゃないだろ……。私のスマートフォンが20世紀末のニュースを流してしまったのかと思った。このニュースが届くのは21世紀もしくは20世紀になることがある感じ。
「懐かしいってそんなに面白いのかな。」
「面白くはないですね。」
佐野さんは思いの外、即答だった。
この赤ウインナーをタコさんにしてもらうくらいには懐かしいは楽しくはないのかな?
いかつい店長に「タコさんにしてもらえたりできますか?」と聞いたら、「タコさんね」とさん付けリピートしてくれてちょっと嬉しかったです。
「子供的未来視点〜。」
「嶋井さんは?」
「んー、半々かな。この前友達と昔の話で大盛り上がりして、つい買っちゃったんだよね。これを」
最近職種を王族に変えた友達の格好が、フェティッシュというよりも「あの頃」のアニメっぽいと盛り上がったのだ。90年代的ヤングアダルト小説、その1つの流れを作ったあかほりさとる、その傑作の1つ「セイバーマリオネットJ」。
あのころの挿絵は布の服というよりもラバーとか謎素材で作られた感じの、コスプレで本物に近づけなくて満足できないあの感じ。それってSMバーにあったんだ。子供の頃には気づけなかった世界の真実。
「あー!」
「え、佐野さん知ってるの?」
「いや、全然知らないんだけど、これが元ネタだったのか……」
「元ネタ?」
「アニメ絵柄の変遷画像で、90年代の顔がひしゃげたやつなんて見たことないってずっと思ってたんだけど、これだったんだ……ほんとにあったんだ……」
あー、あったあった。知らない人からすると90年代なんだこりゃってなるよね。あのほっぺに斜線描くのもなんだったんだろう。謎ではあるけど。
五千年後にこの絵を見た知的生命体は人間のことをこの姿形で把握したらどうしよう。
「ネタだと思っていたから実在するとわかると、なんか、感動すら覚えますね」
今、セイバーマリオネットに、この時期のことぶきつかさのイラストに感動できるのは佐野さんくらいじゃないか。
という私も実は読み返して、そして感動しちゃったりしたのだ。
「読み返したらさ、新天地目指して地球脱出したもののトラブルで不時着したメンバーは6人は全員が男でクローン技術で都市を築くまで復興するもののクローンだけでは限界があり、人類衰退が戦争の火種になりつつ、人類の最終目標女性復活のため、二国間の争いに巻き込まれる平民。」
「そのイラストと嶋井さんのあらすじが合わさってこないんですけど。」
「基本はハーレムものだから。でもちょいちょい考えさせられる設定やらエピソードがあって悔しいけど面白かったのよ。」
セイバーマリオネットJ再評価の波……きたらきたでいよいよ世界は20世紀だな。略してSMガールズって、今だとアウトじゃないかな。
「年を経て見返すと全く違った感想になってて面白くなっちゃうの、ほんと老害感あるけど、でも面白いんだよね。ああー、この前『ジーンダイバー』の話するの忘れたー!あれけっこうSF濃度濃かったなって今更だけど語りたい、まず見返したい! あれDVD-BOX出てたよね、買っておいたほうがいいのかな……。子供向けハードSFアニメって今ないいねー、もったいなーい」
「アニメはあんまり見てなかったな」
あ、佐野さんやっぱアニメすぐ卒業しちゃうほうか。ですよねー。卒業するしないでこう、のちの人生の道が分かれて交わることがなくなるのかしら? リア充との差は子供の頃からついていたんだね。あれもう追いつけっこないじゃん。
「その飲み会は懐かしい話しかできなくてさ、気が狂いそうで大変だったわー」
「楽しかった?」
「楽しさとかじゃない。麻薬中毒者が楽しい状態かってことよ。30前後の男女が「あずきちゃん」にマジギレしたり。主人公ががあざといというか、なんか実は全部計算のんじゃないかって。あいつの『私、普通の女の子』アピールまじうぜえ! って話してる分には女子会的な悪口だけど対象は昔の漫画のキャラっていうね。」
あずきちゃん悪口大会はすごく楽しくて、港区女子ってこういうことしてるんだそりゃ楽しいから毎夜毎夜開催するよなって実体験として理解できた。
これまで東京カレンダーのコラム馬鹿にしてたけど、ごめん、めっちゃ楽しい。
「嶋井さんはやっぱりそういう方が楽しいんですよね?」
「そういう?」
「共通の話題で盛り上がれる男とか……」
「いや、あずきちゃん知ってる男なんてそんないないいない! もうみんな好き勝手自分の話したいだけだから。知らないときはふーんって聞いてて、思い入れあるものにみんな勝手に前のめりになってるだけだから。集団的独語してるだけ。私も聖闘士星矢は通ってないからその間はふーんって、こいつら馬鹿なんじゃないみたいなクールタイムしてたし」
クールタイムで常識人ぶって、「そもそも聖闘士星矢ってファンタジーなの?現代の変身ものなの?」って聞いたら「聖衣だよ!全然違うよ!」と返された。こういう顔でこういうこと言う奴だいたい友達だなって思った。私もこういうことこう言う顔で言ってるな。エヴァ関係で。
「嶋井さんは友達とは仕事の話とかしないの?」
「そもそもなにしてるか全く知らない人もいるし……うん、あの場では半分知らないや」
「で、嶋井さんってなにしてるんですか?」
「私?私はネジの会社でたくさんのネジを発注する営業事務です。ミリ単位の長さに自信あります。」
「もう本当のことはあきらめるんでなんで愉快な嘘つこうとするのか理由を教えてくださいよ。」
仕事の話なんてつまらないこと口にしなくちゃいけないほど私は私がないわけじゃない。本当に話題が尽きた時に「最近仕事どう」なんて大人みたいなことを言うんだろう。そんな大人になれるのかわからないけど。
「でもみんな無差別に語ってたと思うけど、ギリギリのギリギリでひどい厨二的なことは蓋してたと思うんだよね。そこパンドラだから、開けちゃったら世界終わるよね。そういうデリカシーあるところが大人として理性あるなって、私思うの」
「嶋井さんの中二ってなんですか」
「おおっと、お前は私を殺したいのか?」
人の厨二は探ってはいけないってお母さんに教わらなかったのか。
「中学生の嶋井さん、きっと楽しそうだなって。」
「いや、佐野さんのほうがいい中学生でしょー」
公園通り上がって下っておしゃべりしながら買い物してる感じの。
「中学生でエヴァを見ることができたっていうのは幸福だったけど、あ、ハーモニーを中学生で読めるなんてなんと悲しい朗報なんでしょう。」
尊い百合をこじらせて私、人生が変わっちゃいそう。
「いや、あれは、病床の伊藤計劃が『病気のない世界』を書いたってのが業が深くも悲しい物語なんですよ。ディストピアとして書かれているものの、伊藤計劃にとっては病気のない世界はユートピアなんですよ。それをシニカルに自分も含めて描写しているんですよ。ハーモニーは。」
「え、でもやっぱあの二人は厨二……」
「虐殺器官の男性の世界と対の構造なんで、女の子が主人公なのはその、構成上の狙いなわけで。そこが伊藤計劃なんですよ。中二的なとか揶揄しないでください。嶋井さんは劇場アニメの絵柄に引きずられてそういうこと言ってるでしょ」
そういえばこの前本屋さん行ったとき、伊藤計劃勧めたっけ。あ、佐野さん伊藤計劃好きになったのか……。劇場アニメも見たのかな。
「やけに伊藤計劃の肩もつね」
「いや、すごく面白かったのと、メタルギアはけっこうやってたんで……、作者が好きだっていうのが嬉しくて。ブログも読みましたよ……」
照れてるのか顔が真っ赤だ。誤魔化すように緑茶ハイを飲んでいるけど、全然誤魔化せてないし。
すねてるみたいな空気はなくなって私は少しほっとして笑ってしまった。ニヤニヤと言う感じで。
「嶋井さん中二だっていうけど、今は伊藤計劃以後なんで、そういう時代なんですよ。むしろ劣化フォロワーが中二感出してるんですよ。」
「佐野さん、どっちかというと欅坂好きでしょ」
「好きっす」
やっぱりねー。
新興宗教……新興宗教オモイデ教(大槻ケンヂ著)なのか井上喜久子率いる17歳教なのか、資本主義なのか、恋愛なのか。信仰は増殖して争いを生む。
「懐かしいってそんなに面白いのかな。」……クレヨンしんちゃんの劇場版「オトナ帝国の逆襲」の風間くんの名台詞。懐かしいしか面白いことがなくなったら大人。
あかほりさとる……ちゅどぉぉぉぉん
セイバーマリオネットJ……そろそろこの辺もアニメ化するんじゃないかとヒヤヒヤしている。
ジーンダイバー……NHK教育で放送されたアニメ。「恐竜惑星」と「ナノセイバー」と合わせてバーチャル三部作の1つ。このシリーズ中で「時間の進みを遅めると空気の動きも遅くなるのでボンベをくわえていないと呼吸ができない」というシーンで、わたしの中のSFが1つ目覚めた感はある。
あずきちゃん……原作は秋元康。絵柄が絵柄だけに、主人公あずきちゃんがどれくらいの顔面レベルの女の子かわからず、こいつひょっとして養殖ぶりっ子なんじゃね? と女の女たる醜さを育てた漫画・アニメ。
「聖衣だよ!全然違うよ!」……知らない人からしたらおんなじじゃんって言われることにムキになって反応するオタク。
ハーモニー……高度医療社会で体内にナノマシンwatch meで管理されることによって病気になることのなくなったディストピア社会に二人の元少女が世界と対決する。この作品は肺癌で入退院を繰り返していた伊藤計劃の遺作。
欅坂……アニメっぽい。あの頃のアニメっぽい。あのときスカした目で見ていたやつが欅坂を褒めているとなんだか、なんだかな気持ちになる。




