国がなくても軍から指名手配されることもある
・7
「改めて、初めまして。私はカーミラ。種族は吸血鬼よ。村のヒトはわたしのことヒトだと思ってるのもいるから、外で私の種族についてしゃべるのは禁止ね。」
部屋に招かれて、お茶を出された後、カーミラさんがそう切り出した。この自己紹介は俺に向けてっぽいので
「初めまして、ブラックです。種族はアークデーモン。ミュウハ様の使い魔ですね。よろしく。」
と自己紹介を返しておく。
「改めましてー。ミュウハです。種族は偽聖女だねー。ヒトの領域に居るときはヒトの振りするからー。よろしくねー。」
なぜかミュウハ様まで自己紹介している。というか種族名初めて聞いたな。偽聖女ってなんだよ。
「へぇ。アト、あなた。いつの間に召喚術なんて身につけたの?」
「そのあたりは秘密でー。色々と訳有りなのー。あっそうだーわたしって魔王軍から指名手配されたりはしてないかなー?もしかしたらされてるかもしれないんだー。それから私のことはミュウハって呼んでー?」
何をしたんだ。
「手配は・・・されてないみたいよ?軍関係なら・・・そうね。“3日前にヘルハウンドが膨張しながらランダムテレポートの魔術を全方位に吐き出して、フユギ将軍直属の部隊が壊滅”という噂しかないわよ?そのヘルハウンドは指名手配されてるみたいだけど、ミュウハあなたはヘルハウンドじゃないものね?」
「わたしの種族は昔から変わらないからー。うんーカーミラさんありがとー。さすがは情報屋だねー。ていうかもしかしてー、わたしが3日前にこの村の様子を遠めに見てたの気づいてたりー?」
「ええ。まぁそのときは何かいるな、程度だったけれどね。まぁいいわ。とりあえずこの村の現状を伝えておこうかしら。そのあとであなたたちの状況も教えて頂戴?何かお互い出来ることがあるかもしれないし、ね?」
俺が口を挟む余地はなさそうだ。それにしても情報屋か。
「この村は今は一応帝国領ってコトになっているわ。でも実態として魔族もヒトも住んでるのよね。帝国側は完全に自国領だと思ってるし、表向き住んでる魔族も居ないことになっているわ。で、帝国の冒険者ギルドイッチの村支部なんてのもあるわよ?ヒトっぽい格好で帝国領と思って来たんだから冒険者登録目当てでしょう?ギルドマスターは私だから登録審査なんてパスさせてあげるわよ?」
「わたし達はアレだよー。端的に言うとブラックさんを次期魔王にする感じー。ヒトっぽい格好なのはイッチの村がヒトの領域っぽかったからー、揉め事回避のためだよー?冒険者は面白そうだけどー、考えてなかったかなー。」
「・・・カーミラさんは俺たちを冒険者にしたい理由があるんですか?」
「あら。操り人形かと思ったら鋭いのね。なんてね。実はね。この村の周りには弱いモンスターしかいなくて冒険者が寄り付かなくってね。でもね、北の方のゴブリン鉄鉱山がそろそろあふれそうなのよね。前は一人だけもぐってる冒険者が居たんだけどね。いつからか姿が見えなくなってね。で、ゴブリン鉄鉱山って魔族領でしょ?ヒトの冒険者を帝国中央から呼ぶのも、って思ってたのよね。魔王目指すなら短期間で強くなりたいでしょ?どう?冒険者になってゴブリン鉄鉱山攻略してみない?」
何だろう、この都合のいい感じ。
「報酬は魔族の通貨でももらえるのかなー?それならブラックさんが頑張っちゃうけどー?」
「現物支給ならどうかしら?軍装備より性能のいい鎧と片手剣なら出せるわ。」
「まずはそれ見せてもらおうかなー?報酬として満足したら受けるって感じでどうかなー?」
「わかったわ。よろしくね。」
ブラック君“が”頑張るのか。俺だな。確かにレベル上げは大切だろう。ごぶりんか。兎よりは強いのだろうがどうなんだろうな。経験効率とか。