初めての戦闘・森の中
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「さてさてー。ではー。これからの行動を説明するねー?まずはこの小屋を出たらー森が広がってるからー。そこで剣と盾の練習をちょこっとしよっかー。」
「それはレベル上げというやつでしょうかご主人様?」
「そうそうー。ヒトでも魔族でも、精霊でも獣人でもー、それと魔物でも倒したら持ってたマナを吸収できるからー。でー。吸収したマナから必要な分だけ使ってレベルアップ!うんー。そんな感じー。やー前世の記憶があると話が早くていいねー。」
レベルアップは自動で行われないのか。
「でー。こっから西に3時間くらいかなー?それくらいで森を抜けられてー、森の外すぐに村があるからー今日の目標はそこねー?レベルアップしながらでもお昼過ぎには着くでしょー。」
「わかりました。」
とりあえず今は早朝なのだろう。
「じゃぁ鎧着よっかー。あーでも素肌に鎧だと変態みたいだからー、最低でも下着がいるよねー。うーん・・・。まぁちゃんとしたのは村に行ってから買うとしてー。それまではわたしの魔力で作ったものを着てもらっておくかなー。」
そういうとご主人様は怪しげな呪文を唱えて、Tシャツとトランクスらしきものを作ってくださった。
「ありがとうございます。」
「いいのよー別にー。それにー1日ぐらいで消えてなくなるからー。うーんやっぱり魂入ってない物質の具現化って難しいねー?まぁいいやー。とりあえずそれ着てその上に鎧ねー。でー。剣と盾持ったら出発しよー。」
「はい。」
すぐに身に着ける。
「あーその前にー“♪わたしとキミとはパーティー♪”これでオッケー。じゃぁキミが前でテキトーに歩き回ろー。おー!」
「おー!?って今のは何ですかご主人様?」
「いいからいいからー。」
教えてくれないが、まぁそこまでデメリットはないだろうしいいか。
小屋から出るとうっそうとした森の中だった。西はどっちだろうか。きょろきょろと見回していると、
「道はわたしが案内するから大丈夫だよー。ていうかー、まずはちょっと進んで森の中で戦闘訓練だよー?あー。あと最初に言っておくけどー。わたしは攻撃能力一切ないからねー。その代わり死ぬほどの傷を負っても、仮に死んだとしても治してあげるからー。」
とご主人様から声がかかった。死んでもって、どんなモンスターが居るというのか。そしてそれでも治せるというその回復能力がコワい。頼もしいと思えば良いのか。
「アッハイ、わかりました。それでご主人様、この辺りにはどんな生き物がいるのですか?」
「んーとねー。まーそこまで大型のはいないはずだよー。多分いちばん多いのが螺旋角兎かなー。危険を察知すると額に生えてる角を基点に回転しながら突っ込んでくるからーがんばって盾ではじいてねー?角度によっては避けてもいいけどねー?」
「がんばります。」
どんな兎だ。兎自体は目を回さないとでも言うのだろうか。
とりあえず。攻撃を避けました、後ろにいるご主人様にあたりました、じゃ無能すぎるから兎の攻撃ラインはしっかり見よう。
「あとは何だっけー。えっとねー。その兎を主食にしてる大フクロウは夜じゃないと出てこないか・・・。あっそうだ!野衾。手と足の間に皮があってそれで空を飛ぶネズミ。えっとねー・・・・これだ、モモンガ!たまーに顔を狙って高速で飛んでくるから注意ねー?取り付かれたら魔力を吸われちゃうんだー。」
「わかりました、気をつけます。」
モモンガをここでは野衾というのか。いや魔力を吸う時点でモモンガじゃないけど。
「うんうん。まーとりあえずはそれくらいかなー。じゃーいってみよう。さ、さ、盾と剣を構えて!あっそうだー。剣がしっくりこないと思ったら言ってねー?ピンとくる武器に当たるまでいろいろ試してみよー?」
「はい!」
剣というか武器全般を振った記憶は全くないので、自身の適正なんて全くわからないが。色々と試させてくれるのだからやるだけはやろう。
まずは足音を立てないように注意して、森を歩く・・・。いた。前世の記憶と同じくらいの大きさの兎だ。もっとも記憶の兎には角が生えてはいなかったが。とりあえず攻撃をしよう。この場合だと振り下ろすよりも突いた方がいいだろう。
パキィッ!
あせっていたのだろう、踏み込むときに小枝を踏んで音を立ててしまった。その瞬間振り向く兎。が、俺はすでに剣を突く体勢に入っている!届く!
と確信したがあっさり回避され、剣が地面に突き刺さった。そして回避した兎画正面から突っ込んできた。思ったより速いがこれくらいならはじけなくもない。兎の突撃を盾に受け、その勢いも利用して刺さった剣を抜きながらバックステップ。立ち上がれたところで兎を丁寧に弾き飛ばす。そこに突撃してくる兎の第2陣第3陣・・・って1羽じゃなかったのか!
「ぐっ!」
鎧を着ていたから刺さらなかったものの、兎の角の衝撃はかなり強く、しばらく息ができなくなった。
「初めての戦闘はどうかなー?いけそうー?」
軽い感じのご主人様の声が聞こえた。
「大丈夫です、やれます。」
「怪我はどうー?」
「今はまだ大丈夫です。」
「そうー?あせらなくていいからねー?」
「はい。」
なんて会話をしつつ兎を警戒する。いまや5羽になった兎がこちらを注視していた。お互い様子見か。よく見ると右端の1羽の角が欠けている。先ほど盾ではじいた固体だろう。まずはそれから落とすか。
視線と体の向きは左側へ。角欠け兎が俺の死角に入るように。おそらくこの螺旋角兎というのは相手の隙を逃さず突撃するのだろう。そして連携もとる。つまり隙を見せれば突撃がくる・・・ほら!
キュル!キュルルルル!
鳴き声なのか回転音なのかわからないが、かすかな音を捉える。
先ほどの動きとその音から軌道を予測し剣を振ったのだが、それが面白い具合に決まった。振りぬいた剣は回転する兎を真横から捕らえて両断した。あとは次々と死角から飛んでくる兎を盾で叩き落し、剣ではじき、最後の1羽は逃げようとしたので後ろから剣を突きたてた。
「コツをつかめば楽勝でしたよご主人様。」
「うんうんー。コツをつかむまでが思ったより早くてよかったよー。よし、どんどんいってみよう。わたしは回収とかをやるから、ねー?」
戦闘後の回収とかも覚えた方がいいのだろうか。




