手櫛で
・17
「これが・・・“モフる”・・・。もっと乱暴にもみくちゃにされるのかと思って身構えたけど。尻尾の毛繕いのことだったのね。それならそう言いなさいよ。これからはひと言言ってくれたらいつでもモフっていいわ。ブラックの精神安定になるんでしょ?協力するわ!」
美しい毛並みを乱すような趣味はないので、手櫛で丁寧に尻尾を梳かしたのだが。カナちゃんは思いのほか気に入ってくれたようだ。というか梳かしているときにはだらしのない顔をしていた。なんていうかはしたない顔だ。俺のためを装ってはいるが、待ち望んでいるのが丸わかりだ。これが快楽堕ちってやつか。違うか。
とりあえずひとつわかったのは、ハーフカーバンクルは嬉しくても尻尾を振らない。犬ではないってことだな。
「そうだな。また疲れた時にはモフらせてもらう。」
「遠慮しなくていいからね?」
素直になれないところも可愛いと思う。
「それでー。何があったのー?って訊くまでもなく大体はわかるんだけどねー?でも細かいところも知りたいから教えてー?」
と、俺が尻尾をモフっていたときに、カナちゃんの頭やら耳やらをなでていたミュウハ様から質問が飛んできた。
ので、さっきあった戦闘などの話をする。
「んー。やっぱり追いついてたかー。でもあっさり帰っていったのが意外かなー。あーブラックさんの予想通りー、あの子はフユギ隊のメンバーだよー。自称魔法盗賊/職業魔法剣士のホップ、だねー。今回はキミの力量がある程度わかったから帰ったのかなー?」
「俺が強すぎて勝てないって思ったってことですか?」
ホップはそんなに強そうに感じなかった。
「違うよー?確かにあの子は戦闘よりも追跡が得意だけどー、本気出したなら今のブラックさんではちょっと勝てないかなー?勝てるって思ったのならそう思わされただけだねー。まーでも追い返したのはお手柄ーだよー。」
エリートだもんな。生まれて1週間たたない俺より弱いってのは、俺の願望だったのだろう。
しかしそれなら、なぜ引いたんだ?
「とりあえずー。アークデーモンって名乗ったのはマイナス点だねー。そこは冒険者でよかったんだよー。気心知れてないのに種族教えちゃうとー、弱点突かれちゃったりするからねー。」
「まぁホップなら直感で、引いて報告した方がいいって判断しただけでしょ。で、フユギ将軍に修行中のアークデーモンが居るって情報が渡るわね。」
「そーよねー。でーあっさり引いたってことは多分ー。」
「「フユギ将軍がわりと近いところに居るってこと。」だねー。」
ミュウハ様とカナちゃんで同じ結論に達したようだ。
フユギ将軍・・・。実質今の魔界の最高戦力か。一度顔合わせしておいた方がよくないか?
そう訊いてみたが、
「んー今はやめておいた方がいいと思うよー。最低でも勝負になる強さになってからだねー。」
とあっさり却下された。
「とりあえずー。ここでじっとしているのはヤバいと思うからー。いったんイッチの村に戻ろっかー。それも全速力でー。カナちゃんー!」
「わかってるわよ!」
ミュウハ様の呼びかけにカナちゃんが応え、なにやら魔法を紡ぐ。風の魔法か。
「この中で今いちばん風の魔法が上手いのはー、カナちゃんだからねー。最大速度でよろしくー!」
「飛ばすわよ!衝撃に備えなさい!」
というや否や景色がすごい勢いで変わっていき。
「カナちゃんストップー。ここからは走るよー?」
というミュウハ様のひと言で魔法が解かれる。解かれた拍子に投げ出される俺。二人は投げ出されずに着地している。
「ブラックさんも咄嗟に風の魔法を使えるようにならないとーだよー?」
そして駄目出しだ。うん、さすがに修行が足りないわな。
装備を片手剣に戻してもらい、イッチの村に向かって走る。10分ほど走ったところで村に帰ってこれた。
「まずはカーミラさんに報告ーだねー。」
報酬の鎧が今はすごくありがたいので、早く貰いたいものである。




