洞窟の二人・魔女視点
・魔女視点
ブラックさんの姿が玉座の向こうに消えるのを見送ったあと。
「さてー。カナちゃんはストップー。嫌な予感がするからー、ちょっと時間ずらして出よー?」
そのまま後に続きそうなカナちゃんを止める。
「あんたそんな変な直感とか持ってたっけ?そういうのはあっちの領分でしょ?」
けど長い付き合いだから。わたしは勘が働かないってことを知ってるので、不審げ。
とりあえずあっちってのは多分一緒の隊に居た魔法盗賊のことだね。うん。わたしはあの子みたいに勘で生きてるわけじゃないもんね。逆にあの子はもうちょっと直感以外を信じて行動するべきだと思うよ。
「んーとねー。これはただの勘じゃなくてー。色々と状況分析した結果だよー?」
「そうなの?で、その分析結果って何よ。」
「うんー。まずねー、カナちゃんは知らないかもだけどー、実はヘルハウンドが一匹軍に指名手配されてるんだー。」
わたし以外と意思疎通できなかったであろうヘルハウンド状態では、情報を仕入れられてないと思うんだよね。
実際そうだったみたいで、
「え!?嘘!?あれってミュウハが仕込んだって魔力の痕跡調べたらすぐわかるじゃない!?何で私?手か指名手配って・・・。」
目に見えてうろたえだすカナちゃんが可愛い。
「落ち着いてカナちゃんー。指名手配されたのはヘルハウンドであってー、カナちゃん自体じゃないからー。カナちゃんはあの時死んだ扱いになってるはずだよー?」
「え。あ。そうね。そうよね。私の死体もちゃんと軍に引き渡してたわよね。で、なんだっけ?『カナちゃんは助けられなかったけどー、よさそうなヘルハウンド捕まえてきたのでー、しばらくカナちゃんの代わりをこの子にしてもらいましょうー?』だっけ?」
落ち着かせたら今度はあのときの再現をしだしたんだけど、その物まね似てないと思うなー。ていうかわたしそんなこと言ったっけー。
「それは覚えてないけどー。しばらくヘルハウンドの振りでもしてもらってー、落ち着いたら別の体にしようと思ってたんだよー?でもカナちゃんがいきなり唸りだすからー。」
「犬にするって説明なかったじゃない!」
「それはそれだよー。信用してくれたらよかったのにー。あそこにはメンバー全員いたからねー?調教師に唸り声解析されるとヤバいと思ってー。」
「で、あの魔法陣は何だったのよ?何で私の体から魔法陣が飛び出してフユギ隊メンバー襲うのよ?そもそも、空間魔法は座標指定しないとだめなんでしょ?逐一計算してたとは思えないんだけど?」
ランダムテレポートなんて名づけられたくらいだもんねー。
「んーっとねー。あれはカナちゃんの魔力で編んだ魔法陣だよー?わたしの魔力をカナちゃんに渡してー、カナちゃん自体の魔力に変換ー。それから体内で魔法陣編んでー。編んでる間にもわたしがガンガン魔力渡してるからー、体に入りきらなくなった分を放出してー。って感じかなー。座標はまー上空なら良いかなーってテキトーに指定したからー。逐一計算はしてないけど一個一個違うってだけー。でー。人数分×2くらい編めたからー、わたしが飛ぶ用の魔法陣も編んで自分に飛ばしたんだよー?」
いやーあの時は大変だったなー。
『ヘルハウンドの魔力が暴走してるかもー!?わたしが抑えるから何が起こっても平気なように構えていてー。』とか言いつつやってたもんねー。
カナちゃんが爆破四散したら証拠隠滅できたんだけどー。その辺りは言えないよねー。
でもとりあえずの解説はしてあげる。多分カナちゃんなら理解できるよ。
「えっと。うん。なるほどね。だから私っていうかヘルハウンドが指名手配されてたのね。それで?嫌な予感にどうつながるのよ?」
うん、ここからが本題。
「多分追跡班が向かってくるーと思うのー。フユギ隊で誰が生き残ってるかわからないけどー、多分死んでない魔法盗賊のホップが本命かなー。」
「フユギ隊最高の追跡者ね。狙われてるとなると面倒ね。でも・・・ちゃんと隠れながら逃げてきたわよ?ヘルハウンドにしては隠密性能よかったし。」
「まーヒトの霊体入れても平気なくらいの特別性だったしー。でもねー。“そこに居る”事は隠せても“そこに居た”事は隠せないんだー。さすがにエリート追跡者は誤魔化せないかなー?」
使い捨てる気だったけど、あのヘルハウンドボディはけっこうコストがかかってる。元手はカナちゃんのマナだからもったいない気がしなかったってのが大きいね。
「あー。なるほどね。で。痕跡調べながらの追跡だから、追いつくにも時間が少しかかると。でも少しだからもう着いてるかそろそろ着くかってことね。うん、わかったわ。でも時間稼いでもしばらくするとここに入ってくるでしょ?どうするの?」
「まーそこはブラックさんに期待かなー。外に居たなら十中八九奇襲されるからー、返り討ちにするか最悪追い払ってくれれば良いかなーって。」
「じゃぁもう少しのんびりしたいわ。寝起きでちょっとぼうっとしてるのよ。」
「そもそも斥候兵が何で戦闘中に寝るのー?」




