ナイフは斬属性の武器である
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果たして玉座の後ろに魔法陣があり、乗ると魔力をかなり吸われたうえで入り口に飛ばされた。魔力が足りなかったらどうなってたんだろうか。
っと何かいやな予感がしたのでしゃがむ。
ヒュッ!!
一瞬前まで俺の頭があったところをナイフが通過する。なんだ!?カーミラさんが手配した追っ手か?これは被害妄想だといいのだが。
ナイフが飛んできた方向に目をやるが、そこには何も居ない。
再び危険を感じたので振り向くと、そこには2m近い鎧武者がナイフを振りかぶっていた。
「何者だ!?」
っと訊きながら横に転がって逃げる。間一髪で振り下ろされるナイフを避けられたようだ。しかし。ナイフだよな。何で刃渡り2mくらいの刃物振り下ろしたような跡ができているんだ。
「あれ?憎き犬の匂いがしたと思ったんだけど人違いだったかにゃ?でもま、無関係ってこともないでしょ?さてー。洞窟に入っていったヘルハウンドの情報を教えなさい!」
鎧武者はそう言いながらナイフを振り回す。見た目と実際の射程が違うからやりづらいな。それと俺は今防具を身に着けていない。被ダメージ2倍の加護のせいで、当たれば相当やばそうだ。
「そのヘルハウンドなら、洞窟内で同行者に処分された。跡形もなく、な。これで俺を襲う理由もないのではないか?」
「残念だけど、信用できないんだにゃー?あたしの勘がまだ存在してるって言ってるんだ。あーでもキミからは嘘をついている匂いがしないしにゃー。うーん。・・・にゃ!?」
鎧武者の動きが止まったところでナイフを弾き飛ばす。俺も剣を鞘に納めて継戦の意思がないことを示す。
ミュウハ様とカナちゃんが入り口に飛んでこないことが気になるが、今はそれが好都合っぽいな。
「とりあえず自己紹介をしようか。俺はブラック。修行中のアークデーモンだ。」
「あたしはホップ。ホブゴブリンだよ。ここには仕事できたんだけどにゃー。」
二人で座って自己紹介をする。きちんと自己紹介を返してくれるあたりいい子なのだろう。ホブゴブリン・・・ゴブリンの上位種族だったか?単に大型のゴブリンだったかもしれない。兜を脱いだ彼女の素顔は、なかなかチャーミングだ。
「ヘルハウンドの討伐とかそのあたりだろうか?しかし。このあたりには基本的にそういう魔物は居ないと聞いたが。」
「わりと遠くから追いかけてたからかにゃ?さすがにこのあたりで発生したヘルハウンドじゃないよ。」
「なるほど。それで、俺をいきなり襲ったのは?」
「いやー。あの犬の仲間で偵察に出てきたのかなって思ってね。もしそうなら何らかの通信手段持ってるだろうし、半殺しくらいにして話し訊けばいいかなって!」
「物騒だな。というかあそこのボスはホップと同じくらい強かったぞ?それに勝てる相手を、奇襲とはいえ一方的に半殺しは無理があるのではないか?」
「そっか。あたしここの鉱山知らないからさ。でもあの犬って空間魔法の使い手だから、入り口にマーキングしてるんじゃないかなって。ダンジョン途中でもいったん外の様子を探りに飛ばしてーってやるならボス倒す必要ないんじゃないかにゃー?」
「そういう方法もあるのか。」
ヘルハウンド状態のカナちゃんが空間魔法を使った話は・・・アレか。カーミラさんの情報。
“ランダムテレポートの魔法陣を吐き出して部隊が壊滅。”
となると。目の前のホップは軍関係者。ハーフカーバンクルになったカナちゃんはともかく、ミュウハ様と合わせるのはまずいか。
「まぁとりあえず、だ。いきなり襲ってきた落とし前は付けさせてもらおう。次は本気で来るといい。それか逃げ帰って上司に情報を伝えろ。さて、どうする?」
立ち上がって剣を抜く。左手と両足に魔力を集めて、3種類の魔法をいつでも使えるように準備する。
「そういうのはまた今度ね。お言葉に甘えて帰らせてもらうにゃー。」
が、あっさりと帰っていく。戦闘狂ではなかったか。
しかしこれで面倒ごとは先送りできただろう。
「お待たせブラックさんー。ってなんか疲れてるー?大丈夫?カナちゃんの尻尾モフるー?」
「お待たせブラック。モフるってなによ。どこの方言?」
ホップが去って一泊置いて、二人が入り口に転送されてきた。カナちゃんに“モフる”を説明して、拒否されなかったので盛大にモフらせてもらう。癒されるな。




