初めましてのご挨拶
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―――――めよ
??なんだ?声が、聞こえる?
呼ばれているのか。誰に?
――――覚めよ
暗い。ここはどこだ?声だけが聞こえる?
―――目覚めよ!
とりあえず返事をしておこうか。“はいはい起きましたよー”っと。
――我が名はミュウハ・アト・クラフトネス・ワイズマン。汝の名を告げよ。魂に刻まれた名があるだろう?
名前か。俺の名前は・・・なんだろうか。思い出せない。
――なければテキトーに名付けるけどー?
黙っているとそう返ってきたが、テキトーは困る。というか急に軽くなったな。
名前・・・名前・・・。ブラッ、ク?そうだブラックだ。
“俺の名前はブラック。”
――ブラックか。承知した。我が配下に相応しい名だ。ようこそ魔界へ。さぁ、目を開けるといい。
その声の直後、暗かった世界が光に包まれていき・・・。
気がつくと木でできた小屋の中に居て、目の前に白いローブのけだるげな女性が座っていた。
「初めましてブラック。わたしがキミのご主人様だよー?」
それが俺とミュウハ様の出会いだった。
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「まずは自己紹介だねー。わたしはミュウハ・アト・クラフトネス・ワイズマン。今日から君のご主人様だー。気軽にミュウハ様かご主人様、マスターと呼んでねー?」
目の前の女性を見る。座っているのでよくわからないが、身長150cmに満たないだろう。顔は地味目の美人。スタイルもアレで、人目を引くような感じではない。
俺は使い魔というやつにされたらしい。肉体を与えられ、魂を契約で縛られているのだとか。
目の前のご主人様には逆らう気は起きないので、正しいのだろう。
「えーっと。ハジメマシテ。ブラックです。で、ご主人様?いろいろと説明をお願いしたいのですが。」
「その前にひとつだけ質問するねー?キミは前世の記憶とか持ってるのかな?」
前世?何だろう。ご主人様に呼び出される前のことを覚えているかってことだろうか。ありませんと答えておこう。
「そっかー。まぁ9割9分そうだから残念ではないけどねー。じゃぁいろいろと説明するから覚えてね。」
そういうとご主人様はつらつらと説明を始めた。
・ここは魔族とヒトが争っている世界であること。
・1週間ばかり前に魔族をすべていた魔王がヒトの勇者4人に倒されたこと。
・魔王は死に際の自爆魔法で勇者をすべて道連れにしたこと。
・次期魔王は武力によって選ばれるので、魔王城跡地(自爆魔法で更地になったらしい)で大々的な武闘大会が催されること。
・ご主人様は魔王軍に居たが、特異性に目を付けられそうになったので逃げてきたこと。
そこまで言うと、いったん説明を区切って
「ここまでで何か質問はあるかなー?」
と言われた。
聞きたいことはいろいろあるが、まずはこれかな。
「えっと。まずは俺は何をすればいいんでしょうか?」
その質問にご主人様は、しまったなーという顔をして、
「あーそうね。うん。キミには魔王になってもらいますー。」
そうけだるげに答えた。
魔王ということは、先ほどの武闘大会とやらに出るということだろうか。
「えっとご主人様?ご主人様が魔王になられた方がよいのではないですか?」
「いやぁそうしたいのは山々なんだけどねー?ちょっといろいろ事情があってねー。」
ぼやかしたということは訊かないほうがいいのだろうか。
「そうですか。でも俺自身、自分に何ができるかわかっていませんよ?」
そういうとご主人様は楽しそうに笑い、
「あは!何ができるかって言うかー実際なんでもできるように作ったからー。あーでもそうね。指針がないと何していいかわかんないかー。」
なんて言う始末。
「何でも、できるのですか?」
「そう!この稀代の生命魔術師ミュウハ・アトが5年かけて溜め込んだマナを!ほぼすべてつぎ込んで作った素体だから!キミは何でもできるのよー?鍛えればだけどー。」
なるほど。全部はわからないけどご主人様が苦労して俺を作ってくれたのだということはわかった。
「鍛えれば、ですか。」
「そーよ。潜在能力だけ高くてもー、生かせなければ意味ないでしょー?というわけで行動するわよー?まずは装備から、ね?」
どうやら俺は素っ裸でご主人様と会話していたらしい。