証拠
年末年始で頑張って進めます。
ジャンの屋敷に忍び込んだ僕は、あっさりとジャンの私室を見つけた。もちろん、観察のスキルを使った結果なのだが。今更ながら観察のスキルが便利すぎる。自分のステータスの高さも相まってのことではあるのだが。
私室を見つけたとは言えど、さすがに貴族の家だけあって屋敷は広いし、警戒体制も凄い。隠密のスキルを使ってもバレずに私室までたどり着くのは無理だろう。となると、ここで役に立つのがスキル「虚偽」だ。このスキルを普通に使えば相手に嘘がばれにくかったり、偽物を渡しても気づかれにくいと言うちょっと悪どいスキルだ。しかし、僕が使うと自身を虚偽、つまり
「お疲れさん、相変わらずこの屋敷は広いし警戒するのも大変だよな。」
「そうだな、しかしあんたの顔はあんまり記憶にないみたいだ、結構長いことここの警備に入ってるようなのに覚えてないなんて悪いな。」
「良いってことよ。俺は大体どこにいっても影が薄くて印象に残らないみたいだから気にすんな。じゃあ、俺はあっちの方を見てくるぜ。」
「ああ、頼んだぜ。」
こんな風に虚偽のスキルを使うことができる。どうなったかと言うと、全然知らない人である僕がまるで前からそこにいたかのように、相手に嘘の印象を植え付けられる。もちろん、相手のステータスが高いと見破られる可能性もあるが、僕のステータスから言えば99%は騙すことができる。一言で言うと卑怯だ。
そんな風に虚偽と隠密を使ってあっさりとジャンの元へたどり着くことができた。今回は全く見せ場がなさそうだ。
ジャンの元へ来て何をするかと言うと、もちろん暗殺してタラリスの安全を確保する…と言うことはなく、こういう貴族は絶対に悪いことをしてるのでその証拠を見つけて王に訴えるという作戦だ。さすがに懇意にしているストレイン家と言えど、明確な悪事の証拠が有れば王と言えどなにもしないというわけにはいかないだろう。そうすれば、タラリスの立場が上になりジャンが勝手なことはできなくなる、つまり人の命を奪うことなくタラリスを守ることができるということだ。
そうこうしながら、隠密を使いジャンのそばにいることがばれないようにしながらジャンの会話に聞き耳をたてる。丁度誰かと電話中のようで、しかも悪巧みの最中のようだった。
「あれの用意は出来ていますか?」
「…」
「そうですか、その言葉を聞いて安心しました。最近は耄碌してきたとは言えど王の目を欺くのもなかなか難しいものがありますから、いけるときに確実に手に入れないと。」
「…」
「ええ、わかっていますとも。報酬は貴方がこの屋敷に訪れたときに確実にお渡しいたしますよ。それでは今後とも良い関係を続けましょう、アメダ様。」
電話が終わったが、相手はアメダと言う人物らしい。アメダと言えば、裏の界隈では奴隷商人として有名な存在だ。奴隷商人以外にも悪どいことをたくさんやっているという噂だが、確たる証拠が無いため捕まえることが出来ていない存在だ。相手が王と懇意の貴族では証拠を手に入れられなくても仕方ないが。
やるべきことは決まった。アメダとの取引のやり取りの何らかの証拠を見つけ出そう。基本的には残してはいないだろうが、全くないということはないはずだ。とにかく片っ端から怪しいやり取りの物を持っていくとしよう。
私室を全部あさって、机の隠し引き出しにしまってあった、奴隷の人数と各人の名前、年齢、状態の良し悪しと代わりに渡した渡した金品の名称、ジャンとアメダの名前が入った契約書を何枚も見つけた。こんな紙を残しているのは頭が悪いのか、何らかの残しておく理由があったのか分からないが、こちらとしては重要な悪事の証拠となるのでありがたかった。恐らく、アメダは悪どいことで有名だったので性別や年齢、健康状態を嘘ついて引き渡したりしていたようなので、嘘がわかったときに追求するために契約書を残していたのだろう。悪人と付き合うとこういうリスクが発生するのだから、付き合う相手は考える必要があることをしみじみと感じた。
何はともあれ、これでタラリスを守ることが出来そうなので契約書の紙をコモスさんとマージさんに渡すためにこっそり屋敷を脱出しギルドに戻った。