プロローグ1
その日はひどく重い雨だった。
勇者志望の俺は試験を受けに地方から遠出をして会場へ向かった。
なぜそんなことになってしまったのか、今となっては運命だったか必然だったか偶然だったか分かりはしない。
ただ1つわかったのは、その出来事が俺の今後の人生を変えることになったということだけだ。
その時の事を思い出しながら俺はここから出ることを決意した。
過去ー試験の日ー
「遂にこの日が来たわね」
「夢が叶う時が来たな」
「お兄様ならきっと勇者になれますわ」
そう声をかけてくれたのは大好きな母親 マーガレット、尊敬する父親 ランド、大切な妹 マリア 俺の家族だ。
今日は勇者になるための試験を受けるために出発する日だ。
そのために朝から豪華な食事が並んでいる、母は料理が得意でこの料理を数日食べられないことになるのはとても残念だ。
試験の会場となる勇者育成学校のあるイストリア王国までは馬車を使っても丸1日かかってしまう。移動に往復2日間、試験を受けるのに大体1日使うので3日間は母の料理が食べられなくなる。俺はこの味をしっかりと舌に焼き付けるためによく味わって食べることにした。
「3日間もお兄様に会えないなんて寂しくて泣いちゃいますわ」
妹は僕をとても慕ってくれている。はっきりいうならブラコンだ。
「俺もマリアに3日間も会えないなんてきっと泣いてしまうよ」
かくいう俺もシスコンだ。
そんなたわいのない話をしながら試験の準備をして俺のすんでいる村であるアマルド村を出発した。
移動のための馬車だってタダではない。3人の両親がお金を出してくれたからこうやって馬車にのって移動できるのだから結果を出さないと申し訳ない、そう心に秘めて試験の会場へ向かう。
ちなみに3人の両親というのはもちろん俺の親と同じように試験を受けにいく2人の両親のことだ。
1人は背が高くしゅっとした体つきで金髪が目立つイケメン アルタ、もう1人はガシッとした体つきの黒髪でアルタとは違った意味でイケメン トーラス
この2人とはいわゆる幼なじみというやつで共に勇者になることを夢見る親友だ。
「絶対にこの3人で勇者になろうな」
「僕たちなら必ずなれるさ」
そう2人の親友は声をかけてくれる。実際この2人はまず受かると思っている。村で生活してても明らかに非凡な才能を感じるのだ。アルタは計算が早く魔術が得意でトーラスは体が丈夫で剣の使い方がとても上手い。だからこの二人に関してはなにも心配していない、むしろ心配なのはおれ自身だ。何せ俺は剣も魔術もまともに使えないのだから。それでも俺にはきっと秘められた潜在能力があると信じて勇者になることを諦めずにここまで来たのだった。
3人は馬車で一夜を過ごしながら問題なくイストリア王国に着き、勇者育成クラスのある世界で唯一の学校 ガーランド学校へ来たのだった。ガーランドは世界で最初の勇者と呼ばれる存在でその生きざまは600年たった今でも語り継がれていた。
ここが俺の通う学校になるのだと思うとわくわくとドキドキが止まらなかった、俺の頭の中には試験に落ちるという未来は消え去っていたのだった。
「じゃあ、またあとでな」
「受かったからと言って舞い上がって待ち合わせ場所に遅れちゃダメだからね」
そう声をかけてくれた2人と別れて俺は試験のためにできている行列に並んだのだった。この試験は全世界から勇者を夢見て試験を受けに来るために毎年1000人程度集まる。そのため、1日で試験を終わらせるためにガーランド学校の先生が行列を振り分けるのだった。行列の数が多いと聞いていたので2人と同じ列に並べないことが予想できたため終わったあとの集合場所と時間を決めていたのだった。
多かった列も流れていきもうすぐ自分の番となった。今回の試験は一次試験でその人の素質を見るために特殊な紙である鑑定紙に名前を書くものだ。この紙に名前を書けばその人の現在のレベル、パラメーター、スキル、そして勇者になるために重要視される最大レベルが表示されるのだ。最大レベルは人それぞれ違い平凡な人は大体10レベルで、勇者の素質があるとされる人は少なくとも50レベル以上は必用だ。もちろん素質が50レベルであれば受かるというものではない、素質が50レベルなら圧倒的な魔力か圧倒的な攻撃力がないと試験には受からないのだ。逆に魔力や攻撃力が低くても素質が高ければ試験は受かるということだ。
現在まででわかっている最高レベルの素質を持った人は前回の魔王を倒した勇者 トランスだ。彼は200年前の人間で最大素質500レベルという圧倒的な人間だった。ただし、それは最大の話で魔王を倒したときは450レベルくらいだったと言われている。なお、現在の人間では150を越える人間が1年に1人でるくらいで200を越える人はまず現れていなかった。そう聞くと勇者トランスがどれだけすごい人間かは誰だってわかるものだった。
ー 試験に受かるためにせめて素質50、いや70はあって欲しい ー
そう心で想いながら遂に自分の番がやって来たのだった。
緊張した面持ちで自分の名前を紙に書いていく。そして、書き終わって表示される文字を見て俺は絶望するのだった。